ブレイブ!

桃楓

1

「ねえ、テルこの制服どう?似合う?」ユリアはクルっと回って見せた。白のニットベストにネクタイは紺色。スカートは膝上15センチ位の紺色。ブレザーは白で剣にツタが巻き付いた校章。前の学校より可愛くて嬉しい。
「馬鹿っぽい。」テルは歯を磨きながら、こちらを振り向かずに言い放った。聞いた相手が悪かった。
「テルはチャラ男っぽい。てか、売れないホストみたい。」ユリアも負けじと言ってみたが、全くの無視である。つまらないな。仕方なく洗面所に向かい、髪にアイロンをあてた。
「おい、もういくぞ。電車の時間だ。」ピアスをつけながらテルが言った。
「あ、待って!すぐ行く!」ユリアは香水をシュっとつけ洗面所をでた。
「あ、お前!また俺の勝手に使っただろ!減り早いんだよ!しかも兄妹同じ匂いとかやめれ。どんだけ仲良いんだよ。」
「だって、アクアのこの匂い好きなんだもん」
  いつものように、ケンカしながら新しい学校へと向かった。テルがいなかったら、きっと新しい環境が怖かった。
           *                 *                  *
ガーディアン養成校のAクラスでは、転校生の話しで持ちきりだった。
「ねえ、今日転校してくる兄妹のこと知ってる?」校内1の情報通、ティアーナが
シュウとアスカに話しかけた。
「知らないわよ、興味ないし。ね、シュウ。」
シュウはニコっと笑った。
「これから、一緒に過ごす仲間だしね。」
「だよね?気になるよねっ?それがさっ男の方はガリ勉みたい。うちの筆記すごく難しいぢゃん?それ満点てヤバくない?」
「ヤバイって何?」アスカが訝し気に聞く。
「絶対、ブサメンだよ!ガリ勉で、勉強しかしないような。そいつらが入るせいで、セイヤとカムイがBクラスに落ちたんだよ!このクラスで1.2のイケメンだったのに。」ティアーナはショボンと俯いた。
「あいつら、実技では学校トップだったけど、素行悪過ぎて落とされたんでしょ?転校生のせいじゃなくない?あと、シュウにしつこくいいよって、エロい事いいまくってたじゃん?いなくなって良かったわよ!ブサメン?いいじゃん?害ないなら。」アスカは、ティアーナに噛み付いた。ティアーナは、後退りしながらも、まだ納得してない顔をした。
「でもやっぱり、華がなくなったよぅ。あ、でもレイ君いるかっ!アスカのお兄ちゃん♩見た目はイイけど、クール過ぎて、近寄りがたいけど…。アスカ以外と喋ってるとこ見たことない…。」
「あいつ、ネクラだからね。」アスカも一緒になって言った。
「アスカ、レイ君の事そんな風に言わないで。あんな事あったから…。」
シュウはレイを見た。窓際の席に座り、外を眺めている。
「あんな事?そっか、シュウとアスカとレイ君は幼なじみだもんね。色々知ってるなら、聞かせてよ!」
「うるさいなぁ。そのうちねっ!」アスカがはぐらかすと、ティアーナはケチと呟いた。そうこうしてるうちに、チャイムが鳴った。
「はーい、席について。ホームルーム始めるわよ。」教室の扉がガラッと開いて、イリーナ教官が入ってきた。
「みんな噂になってて、知ってると思うけど、今日から新しくクラスの一員になる、2人を紹介します。入って。」
イリーナ教官が、二人を呼んだ。まず始めにテルが教室に入った。入った瞬間静まり返った教室がざわついた。
「ちょっと、ティアーナ、何がブサメンよ!めっちゃかっこいいぢゃん!」
「先生早く名前教えて!」
あちこちから、声が上がった。
「うるさい!静かにしてっ。じゃあ、テル君から、自己紹介して!」
女の子達の視線が一斉にテルに向いた。
「ども、テル・フォレストです。特技は剣技と槍術。よろしくお願いします。」ペコっと頭を下げると、何故か拍手が巻きおこった。
(みんな騙されてる)ユリアはツンと唇を尖らせた。
「じゃあ、次どうぞ。」
「あ、はい!始めまして。ユリア・フォレストです。私は短剣術と体術が得意です。よろしくお願いします。」
もはや、誰も聞いてない…。全員テルに目が向いている。
「あ、シュウちゃん?」テルは1番後ろの席のシュウを見つけて思わず呟いた。『シュウ』と名前を呼ばれてビックリしてシュウが立ち上がった。今度はシュウにクラス中の注目の視線が注がれた。
「あー!レイさんもいる!」静まり返った教室にユリアの声が響いた。レイは素知らぬ顔をしている。
「驚いた。知り合いいたんだ。じゃあ、ユリアちゃんは、シュウの隣の席。テルくんは、レイの隣に座って。」テルとユリアはそれぞれの席についた。「シュウと、レイは色々教えて上げてね。じゃあ、ホームルーム終わり。」そう言うと、教室をでていった。
 教官がでて行くと、女の子達がテルのもとへ駆け寄って行った。ユリアは苦笑いでその様子をみた。
「始めまして。ユリアちゃん。私はアスカ。レイの妹なの。宜しくね。」前の席のアスカが話しかけてきた。
「レイさんの妹なんだ!宜しく。あ、てことは、うちと一緒な双子?」
「んー、ちょっと違うかな?ウチは悪魔族だから、人間や精霊族と違って、妊娠期間が短いの。だから、本当の妹。」
「そうなんだぁ。」
「ユリアちゃん、何でレイの事しってるの?」
「ユリアでいいよ。レイさんには、編入試験受けに来たとき、迷子になってたの助けてもらったんだぁ。」シュウとアスカは驚いて目を見合わせた。
「あのレイが?人違いでしょ?」
「ん?なんで?すごく優しかったよ?それより、シュウちゃんありがとう。あの時、テルを治してくれて。シュウちゃんが居てくれて、良かった。」
「私も、シュウでいいよ。あと、テルさんの怪我、私をかばったからなの。」
そうだったんだ。そんなこと言わないから、知らなかった。…もしかして、照れてる?テルが?
 そう思うと面白くて笑ってしまった。
「次は、魔法学の授業だし、部屋変わるから、一緒にいこう。」シュウとアスカは、ユリアの手を引いた。
「うん!」ユリアは急いで教科書を出し二人と教室をでた。
                                     
「ねえ、テル君前の学校ってどこ?」
「ないしょ。」
「じゃあさっ、彼女は?」
「んー、それも内緒で。」そんな感じで
軽くあしらった。
 隣りの席で、レイが移動の準備をしている。
「おいっ、お前俺の面倒見ろって言われてただろ!」レイは素知らぬ顔で席を立った。
「あ、待てよ!」テルも慌てて行こうと席を立った。
「そんなの、わたしが教えるよ〜。」1番派手な女が腕を掴んだ。でた。面倒な奴。
「また今度で。」そう言って腕を振り払った。
           *             *                *
午前の授業が終わり、ランチタイムになった頃には、教室に人だかりができていた。女の子どころか、男子の顔もチラホラみえる。みんな、テルを見に来た感じだ。
 ただでさえ、目立つ顔立ちなのに、満点入学ときたら、こうなるのも無理はない。
「なんか、テルさんモテモテだね。」お昼のお弁当を広げながらシュウが言った。
「今日1日は大変ね。レイもガチ無視してるし」アスカが呆れ笑を浮かべた。確かに、1日中テルはレイさんに置いてかれそうになって走って移動していた。あんなに、優しかったレイさんがなぜか冷たいのが気になる。
(きっと、テルが何かしたんだ。)朝買ってきたコンビニサラダを食べながら、レイをみた。ヘッドホンを付けて何処かに行こうとしている。ユリアは慌ててサラダをかきこんだ。
「アスカちゃん!シュウ、ごめん!ちょっとレイさんと話ししてくる!何か、気になっちゃって…」
「え、やめといた方が…ってユリア?…いっちゃった。」アスカが呆然と扉を見た。
「ユリア、可愛いね。あんな風に追いかけて来られたら、レイ君も無視出来ないんじゃないかな?レイ君、かわるかもね。」シュウはニコッと笑っていった。
「あれ〜?俺の代わりにAクラスになったやつ、どこ?」人だかりの中から、大きな声が響いた。ライオンのタテガミの様に毛をさかだて、いかにも肉食系な男がテルをみた。周りに数人の取り巻きをつれている。周りの女子が静まり返った。
「俺だけど?」その男はテルを上から下まで見た。
「へー、お前か。こんな奴なら、すぐ戻れそうだな。俺は、このクラスで元実技の成績1番のセイヤ。宜しく〜」そう言うと、後ろの席へ歩き出した。
(頭悪そうなやつ)テルは、何も言わずに睨みつけた。セイヤが向った場所は、シュウの席だった。シュウの前の席に座って、シュウの席にガンっと足を乗せた。
「ちょっと、セイヤ何しに来たの?」アスカが睨みつけた。
「あぁ?お前に関係ない。俺が用あるのはシュウだよ。」シュウはセイヤを睨んだ。
「そんな怖い顔すんなよ。本当はシュウも俺とやりたくて仕方ないんだろ?もう、ツンデレは辞めろよ。」そう言って、シュウの髪に指を絡めた。
「俺が、色々おしえてやるよ。」
「行こう、シュウ。そんなの構わないでいいよ。シュウに振られたこと、根に持ってるだけだから。」
「お前は、俺にやり捨てされたこと根に持ってるんだろ?アス…」言い終わるか終わらないかでペットボトルがセイヤに向って飛んできた。セイヤはそのペットボトルをギリギリで受けた。
「あー、ワルい。ゴミ箱かと思った。」テルは睨みながらいった。
「喧嘩売ってるのか?」セイヤはそう言うと、メリケンサックを指にはめた。
「先に売ってきたのはお前だろ。」テルも応戦体制だ。みんな、巻き添えになりたくなくて離れて行った。
「てめ、後悔させてやる!」セイヤが飛びかかってきたのを軽く交わした。体制を崩したセイヤは机や椅子をなぎ倒し、大きな音を立てて倒れた。今度はテルが殴りかかろうとした時だ。
「やめて下さい‼︎」テルは殴ろうとした手を止めた。叫んだのはシュウだ。
「何、よそ見してんだよ!」動きを止めたテルにまた殴りかかろうとセイヤか拳を振り上げる。(やべっ)テルは防御しようと、腕をクロスさせ、胸元で固定した。
バキっと鈍い音が教室に響いた。
 テルに衝撃は無い。目を開けると、セイヤとテルの間にシュウが立っていた。身長差から、シュウの側頭部に当たったらしく、血が流れている。驚いてかたまっているセイヤとテルに向ってシュウは静かな声で言った。
「教室内での、武器の使用及び、戦闘行為は禁止されています。」
「つまんね〜な。」セイヤはメリケンサックを投げつけて教室を後にした。それを見送ると、シュウは気が抜けたようにその場に座りこんだ。
「いったいっ」殴られた頭を押さえ込んだ。血がどくどく流れ、右側全体が真っ赤になっている。
「おいっ‼︎大丈夫か?」
「シュウっ!むちゃしないで。」アスカとテルが駆け寄った。シュウは2人に気づくと、ニコッと微笑み傷に手を当てた。シュウの手から暖かい光が出ている。傷口が治っていき、腫れも引いてきた。
「大丈夫。ごめんなさい、心配かけちゃって。自分で治せるから。」
「そういう問題じゃねーよ!無茶するなよ。焦る。とりあえず、救護室で横になってろ。」そう言うと、お姫様抱っこでシュウを抱えた。
「あ、歩けます!おろしてっっ」シュウはテルの胸を押したが力が入らない。テルはシュウの上に自分のブレザーをかけた。
「アスカお前も来てくれ。救護室の場所知らないし。」
アスカはわかったと返事をして、3人で出て行った。

  

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