ブレイブ!

桃楓

5

 10分前でユリアとレイは実践室に着いた。テルの姿はまだ見えない。
「構内放送をかけてみるか?」
「大丈夫!テルの声が聞こえる。なんか、女の子と喋りながらこっちにむかってる。」
「?」レイには全く聞こえない。姿も見えない。
「耳が良いな。」
「うん、そうなの。1キロ先で喋ってる声も聞こえるよ。普段はうるさいから、周りの声しか聞こえないようにしてる」
「…器用なんだな」
「あー、信じてないですね!こうやって、耳の中に空気を溜める感じで…」
ユリアは顔をしかめて見せた。その顔がおかしくて、レイは下をみて笑を噛み殺していた。
「何のん気に談笑してんだよ!」
ユリアが、ビクッとして振り向くと、テルが仁王立ちで立っていた。
「ご、ゴメンなさい!…て、何で血まみれなの?こんな短時間にケンカ?」
「違うんです。これは、私をかばって…」テルの後ろから、ひょっこりと、シュウが顔を出した。
「うわ!凄いキレイな人!テルに何かされませんでした?」
言い終わるか終わらないかで、頭をバシッと叩かれた。
「お前、俺をなんだと思ってるんだよ」
シュウはクスっと小さな声で笑った。
 和やかな雰囲気の流れる3人を横目に、レイは立ち去ろうとしていた。それに気づいたユリアは、大きな声で、ありがとうと叫んだが、振り返る事はなかった。
「なんか、怒らせたかな?さっきまで優しかったのに。」
「え、ミシナくん喋ったの⁉︎」
「え、そこ?うん。ここまで案内してくれたし、テルを探そうとしてくれた。」
「じゃあ、お前のばかな話に付き合うのが嫌になったんじゃねーの?」
むかっ。そんなことばっかり。ユリアはテルを睨み付けた。
「あ、5分前。そろそろ行くか。助かりました。ありがとうございます。」
「やめてください^_^;敬語なんて、また、会えればいいですね。試験、頑張ってくださいね」
「え、なんで敬語なの?」
「内緒。」テルはシーっと顔の前で指を立てた。シュウはニコリと笑ってその場を離れた。

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