林檎娘の雪物語
林檎娘の雪物語
これは、ユキという小さなドラゴンの恋の物語である。
  しんしんとふりつもるゆきのなか。
真っ赤なほっぺたに真っ赤なながぐつ。めずらしいあかげのくるくるなかみ。かわいらしいぼんぼんのついたくろいろのローブにゆきをつもらせ、ちいさなちいさなはなのような女の子がいちれつにあしあとをつくっていた。
  名前はなんだっただろうか。もうすでに、おんなのこじしんがわすれるほどきのとおくなるきおくをさかのぼればわかるかもしれない。
ときどき、森にはいってきたにんげんなんかに林檎娘とよばれたりする。
だから、おんなのこは林檎娘という。
   てにはつかいふるされたかご。そのなかにはしばらくたべていけそうなやさいやくだもの、きのこなどがたくさんはいっている。
  むかうさきはあたたかな灯りのともるれんがづくりのちいさな家。ながいえんとつからもくもくとけむりがあがっていた。
  さくさくとゆきをふみしめるほどにひんやりとしてくるあしさきがさむさでこごえるが、もうすこしと一歩一歩すすむ。
  すると、ふと、家のまえのゆきになにかがたおれているのをみつけた。
  綺麗な綺麗な、白銀のいろをもつちいさなドラゴンだった。
  さむさでよわっているのだろう。林檎娘はその子をだいじそうにかかえると、だれもいないはずの灯りのついたあたたかい家にはいった。
  林檎娘は魔女だった。なんぜんねんもいきる、ほんとうはとてもとてもすごい、魔女だった。
でも、林檎娘はむかし。ひどいことをうっかりしてしまい、くにをついほうされてしまった。
それでしかたなく、林檎娘は森の奥で、どうぶつもよりつかないところに家をつくり、すみついた。
むかし、林檎娘のしたことをしっているひとは林檎娘のことをあくまとよんだ。
悪い魔女とよんだ。
林檎娘はないてないて、なみだがかれて、悪い魔女でいいとさえおもった。
でも、林檎娘は悪い魔女にはなれなかった。
林檎娘はだんろのそばにドラゴンをよこたわらせ、もうふでくるむといすにこしかけねむりにおちた。
むかしむかしのことを、おもいだしながら。
林檎娘がうまれたのはいまからどれぐらいまえだろうか。2世紀はまえだろう。
まだおうこくで魔術や魔法がさかんだったころ。あのころは林檎娘も幼少の天才とおだてられ、さいのうをはっきしいろいろなことをしてかつやくしていた。
そしてそのおうこくでその名をしらぬものはいないほどのゆうめいじんにもなった。
  でも、林檎娘はあるしっぱいをしてしまった。じぶんにあやまって禁断の不老の魔法をかけてしまったのだ。
それはまたたくまにうわさとしてひろがりけっかてきにおひれせびれがつき、林檎娘はおうこくでは悪い魔女になってしまった。
  はっと林檎娘がめをさますともうそとは明るくなっていた。しばらくねていたのだろう。林檎娘はとけいをみてせのびをしたあと、ねかせていたドラゴンにしせんをむけた。
  ドラゴンはそこにはいなかった。林檎娘がへやをみまわすと白いドラゴンはげんきにとびまわって、林檎娘は安心し、そのこに『ユキ』というなまえをつけた。
林檎娘はじぶんのことを林檎とよばせた。
ユキはどんどん大きくなり、ゆきがじっかいほどきたときはユキはりっぱなドラゴンになっていた。
「ユキは、わたしのこと、好きですか?」
林檎娘はといかける。
「もちろん、大好きだよ」
ふわっと林檎娘の赤いくるくる髪にユキはかおをうめた。
そんな日々はずっとつづくとおもってもかごんではない。
ここは静かなどうぶつもよりつかないもりのなか。
不老の魔女。
老いるのがおそいドラゴン。
でもそんな日々は突然に終わる。
外から浴びせられる罵声。暖かった家に付けられる火。押し寄せてくる兵士。窓が割れ投げられる石。
「どうやら、わたしの場所。ばれちゃったようです」
火の手が広がって林檎娘はより一層赤く染まった顔でユキに笑いかけた。
「あなたは…」
「わたしといて、幸せでしたか?」
林檎娘はといかける。
「もちろん、幸せだったよ」
火の中、ユキは小さな声でなにかをつぶやき静まり返った林檎娘だったものをしっかりとかかえると燃えて落ちてきた天井を打ち破り、空へと舞い上がった。
ドラゴンだ、まさかそんな、などとしたから声が上がるが気にせず、ユキは暴れまわった。
三日三晩、休まず、林檎娘を殺した敵を全滅させた。
そして_
「林檎…いや、アルティーノ。かわいらしい、ほんとうにかわいらしい名前だね。君が生きている間に呼んであげたかったよ」
焼け野原になった森。
血生臭い争いの跡。
家があったはずの場所の残骸の中で。
「僕は、君を、ずっと騙していた」
ドラゴン、否、
スライムの
ユキは、大きな白い塊となり、地に消えた。
その場所には今も綺麗な状態の赤髪の少女の遺体だけ残されている。
これは、ユキという捕食型スライムの恋の物語であった。
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