メアリとスーサン

極大級マイソン

第7話「何処かで聞いた事がある客」

 結局、旅館の温泉で見つかったのは、ヘアゴムとスカイフィッシュのみだった。
 制裁を食らわされたスーサンは、ほかにも何か見たといっていたけれど、メアリとしてはどうでも良かった。
 そもそも二人は、この地に隠されている鬼子の金を探しに来ているのだ。スーサンの寄り道に付き合ってやるほど、彼女は懐が大きいわけでは無い。

「もっと、直接的に事件を探るべきよ。近隣の住民たちに話すを聞いて、情報を集めましょう」
「ええ〜、聴き込みってメンドクないですか? 私は運動不向きなので歩きたくないのですが……」
「歩いて鳥取行こうとしてた奴が、なに寝言ほざいってんの! とっと行くわよ、仕事がいつまでたっても終わらないんだから……」

 そんな訳で、聴き込みを開始する二人。目に付いた人間を一人一人聴き回るのは、なかなか根気の要る調査だ。
 鬼子の金という秘宝について、知っている人がいないか片っ端から話しかけるが、しばらく経ってもそれらしい人物は見当たらなかった。

「メアリメアリ、見てください。こんなにドッグフードを貰ってしまいました。鳥取県民は恩情に溢れていますね〜」
「仕事しろ犬。蹴り飛ばすわよ」
「そうは言いますがメアリ。私はこの通り犬なもので、聴き込みをするにはどうしても不向きだと言わざるを得ません。先程も、そこの若い仲居さんに聴き込みをしてみましたが、枝箒で追い払われてしまいました」
「それって、金で買収したあの仲居さん?」
「はい。他の従業員さんに聴いてみたところ、どうやらあの仲居さん、犬アレルギーだそうなんです。本当は犬である私を入れたくなかった様なんですが、金に目が眩んでつい、入れてしまったそうなんです」
「というか、仲居さんがそんな事、勝手にやって良いのかしら?」
「聴き込みによると、どうやらあの仲居さんは、この旅館の支配人の姪っ子だそうなんです。仕事先に困っていた彼女を、伯父である支配人が雇ったらしいんですよ」
「はぁ〜。つまり、あの仲居さんは支配人の身内で、割と好き勝手出来るってわけか」
「話によれば、支配人はあの仲居さんをかなり甘やかしているそうで、奔放な態度も日常茶飯事だそうです。他の従業員さん達にとっては、たまったものではないでしょうね〜」
「まあ何処にでも、はた迷惑な馬鹿っているわよね。人の迷惑も顧みず、問題だけ起こして始末は他人任せ」
「居ますよね〜そういう方。しかもタチが悪いことに、本人には悪気が一切無いんですよ」
「自分で自分のやった罪の重さが理解できてないのよ。本当、どうしようもない奴よね」
「下手に関わるだけ、コッチが損する誰ですから。我々も変に絡まれないよう、注意しなければなりませんね」

 そうして二人は、一通り辺りで聴き込みをした後、旅館に戻った。もうすっかり日も暮れてしまい、人通りも少なくなったので、この続きは明日に持ち越すことにしたのだ。
 旅館の中では、従業員が慌ただしく走り回っているのが見えた。
 周りの人達の話を聞く限り、どうやら旅館でトラブルが起きたようだ。

「すいません。何かあったんですか?」

 スーサンは、一番近くにいたアロハ服の男性に声を掛けた。

「おお、あんたが今巷で噂の喋る犬かい!」
「菅原三太です。我々はこの旅館に宿泊しているんですが、旅館で何か騒動でも?」
「ああ、何でもこの旅館の名物である露天風呂が、誰かに汚されたらしい。大量の赤と白い毛がお湯に浮かんでいて、とても人が入れない有様らしい」
「それは悪質なイタズラですね。犯人の目星は付いているんですか?」
「詳しくは知らねえが、赤と白の毛なんて早々見つからねえからなぁ」

 それもそうだ。唯でさえ田舎の鳥取県なのだ。そんな目立つ髪をした人物など、すぐに見つけられそうなものだ。
 しかしこのアロハ服の男性含め、赤と白の毛を持つ人など誰もみていないようである。

「ねぇ、この辺りに怪しい奴は見なかった? 普段、見慣れないような姿をした奴とか」

 メアリも、その事件に興味を持ったようで、アロハ服の男性に質問を投げかける。

「聴くところによると、この旅館に外国人客が一人泊まっているそうなんだ。金髪の女客が。見るからに怪しい奴だって、旅館の奴らも話してたよ。出会い次第、話を聞いてみるってさ」
「その女は今何処に?」
「夕方頃、旅館を出て町を練り歩きに行ったらしい。調べたいものがあるんだとさ。俺も旅館の奴に話を聞いただけだから、詳しくは知らねえんだけれど」

 スーサンとメアリは、アロハ服の男性の話を聴きながら、思考を巡らせていた。
 金髪の外国客、調べ物、怪しい素ぶり。
 彼女についての興味が、スーサンの脳内で駆け巡っていた。
 面白いモノ見たさに、野次馬根性を丸出しにする彼は、これだけの情報を前に制止することができない。

「よし、早速行きましょうメアリ! その外国人女性を探し出すのです!」
「言うと思ったけれど、絶対に寄り道だよねこれ! 鬼子の金はいつ見つけるのよ」

 もと来た道を駆け出す、スーサンを追うメアリ。聴き込みをしていた町へと、再び移動を開始する。

「それにしても、誰なのかしらね金髪の外国人って」
「さぁ! でもきっと悪の組織のメンバーとか、裏社会の人間とかそんなのですよきっと!」

 スーサンは、大型犬のつぶらな瞳をキラキラと輝かせて、四足歩行で駆けている。これから待ち受ける、未だ見ぬ体験を求めて、未成熟な少年のように興奮している。
 メアリは溜息をつく。

「おっさんが純粋な瞳をしていても、只々気持ち悪いだけよねぇ……」
「今は貴方の戯言も耳に入りませんね! それだけ私は、これからの発見を楽しみにしている。何だか身体がいつもより軽く感じるのは、このやる気のせいでしょうか!?」
「それは犬になったからじゃない? というか、さっき温泉に浸かったとき、毛がすっごい抜け落ちたからそれも理由の一つかもね」
「ああ、アレですか! まさか少しお湯に浸かっただけで、あんなに抜けるとは思いませんでしたよ! 私、人間に戻ったら禿げているかもしれませんね!」
「唯でさえおっさんなのに、そのうえ禿げになったらいよいよ女にモテなくなるわね。禿げって、どう転んでもカッコ良くなれないから」
「多くの人を敵に回す発言は控えてください!」

 スーサンは、抜け落ちたおかげで、先程よりスリムになった赤地の白毛姿の身体を震わせた。
 余談だが、その赤と白の体毛は、例の露天風呂に撒き散らされていた毛と酷似している。

「しかしこの辺の人達も災難よね。爆破事件に加えて、悪質なイタズラまでされたんだから」

 メアリはスーサンと並行するように道路を駆け抜ける。彼女の自慢の金色の髪が、街灯の光に反射され美しく輝いていた。

「そのうえ面倒な仲居さんも居るんですから、あの旅館の人達は、全員頭を抱えて居るでしょうね」
「ははっ、全くね」
「とはいえ、我々もあの旅館に泊まらせて貰っている身です。ここはあの旅館の恩返しも兼ねて、少しお手伝いするのも悪くないかもしれません。具体的には、例の外国人と出会って、事情を聴くところから!」
「確実に本筋から離れているだろうけれど、どうせ止めても止まらないだろうから、付き合ってあげるわ!」
「さすがメアリ! 何だかんだで助けてくれるから、私あなたの事が大好きです!」

「待ってろよ金髪女子! 必ず見つけ出して、真相を暴いてみせます!」

 そう叫んで、赤と白の体毛を持つスーサンと、金髪女子のメアリは、田舎町の真っ暗い道を突き進むのであった。

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