覇王サタンの聖誕祭〜鉄道王への道〜

鉄道王

第37話「契約」

「うぜ〜な……」

藍世は、煙草を地面に押し付けて笑った。

「もしかして、私を見に来たの?」
「まあ……そんなとこかな」
「ロリコンかよ!?」
「違うよ!」

まあ、こんな話をしに来たわけではないんだけど……

「で、僕が話をしようと思ってるのは、今日君は学校に行ったの?ってこと」
「行ってないよ」
「当然のように言うなよ……」

にしても、僕が今日、昼間に学校で藍世を見たことは間違いない。それに、僕が昨夜、ここで藍世と会ったのも間違いなさそうだ。

どちらも自らを菊池 藍世と名乗り、その見た目も全く同じに見える。

しかし、2人の言うことだけが微妙に食い違っている。

「藍世、君は双子……というわけでもないんだよね?」
「私が?違うけど、なんで?」
「いや……」

これは昼間の藍世の言っていることと一致している。そして、2人ともストレスフル学園の中等部の生徒だという事も一致している。
違うのは、学校に行ったか、行っていないか……そして、人間性だけかな。

ちなみに、中等部に菊池 藍世という名前の生徒は1人だけだった。

「藍世、聞いてくれるかい?」
「……何?」

僕は藍世に、昼に藍世を見た事、そしてその藍世と、今ここにいる藍世の話が食い違っている事を話した。

「……何それ?そんな事言われても私は知らないし……」
「まあ、そうか……。なら藍世、明日は学校に行って見てくれよ」
「え〜……」
「え〜って、藍世は中学生なんだから学校に行くのが当たり前だろ」
「分かった、行くよ……」

その約束をして、その日はすぐに家に帰った。

* * *

次の日、僕は中等部に顔を出して見た。しかしそこに菊池 藍世の姿はなかった。
といっても、いなかったのは、夜の方の藍世で、昼の方の藍世はやはり登校していた。

「藍世〜……来てないじゃないか……」

僕は、肩を落として呟いた。

昨日来るって言ってたのに、当然のようにばっくれるとは……あまりにひどい。

本当に、彼女はなんで学校に来ないんだ……何か理由はあるんだろうけど……

「仕方がない、家庭訪問するか……!」

僕は職員室に向かい、藍瀬の住所を調べ、藍瀬の家に向かって車を出した。

藍瀬の家は、学校や住宅街とは大分離れた場所に建っていて、着くのにも時間がかかってしまった。

表札に菊池の文字を確認すると、引き戸になっている玄関の隣にあるインターホンを押した。

すると、間も無くして40歳ほどの女性に出迎えられた。

「こんばんは、先生。藍瀬の母です。どうぞ、上がってください」

既に夜のとばりは落ちていた。学校からここに来るまでに日が落ちる時間になってしまった。

しかしここからだと近くに電車やバスもなかったはずなのに、藍瀬はどうやって毎日通学しているのだろうか。

藍瀬の母親に促され、テーブルの近くに腰を下ろし、彼女と向かい合うようにして話を始める。

「えっと……僕が今日こちらを訪問させていただいたのは、藍瀬さんのことで少し訊きたいことがあって」
「訊きたいこと」

藍瀬の母親は繰り返した。僕はそれに頷き答える。

「まず1つ訊きたいのは、少し不思議な質問かもしれませんが……藍瀬さんは、2人いるわけではない、ですよね」
「藍瀬が、2人……?」

ああ、藍瀬の母親は口を薄く開いて不思議そうな顔をしている。
やっぱりそんなはずはないよね。なら……

「ああ、すみません。いえ実は先日、僕が深夜コンビニに出かけた時なんですが、『菊池 藍瀬』と名乗る少女がいたのです。そして、その少女がストレスフル学園の生徒だと聞き、確認しました。
すると、ストレスフル学園の中等部には、確かに『菊池 藍瀬』という生徒が在籍していました。しかし、そこにいた『菊池 藍瀬』、そして僕が夜コンビニで見た『菊池 藍瀬』、その2人の人物像は、遠くかけ離れたものでした。声や見た目には、全く違いを見つけられませんでしたが」

見ると藍瀬の母親の口はさっきより少し開いているように見える。

「藍瀬は、学校には行っていません」

母親は、確かにそう言った。

「学校に行っていない?」

ってことは、本物の藍瀬はあのコンビニにいた方って事なのか?
だったら、あの学校にいた藍瀬は何なんだ……?

「藍瀬は、学校には行っていませんが、夜出歩くこともできません」
「……え?」

来てください、と、藍瀬の母親は言った。
藍瀬の母親が奥の襖を開けると、そこには布団が敷いてあった。そこに寝ていたのは、藍瀬だった。

「2年前、サリエルの呪いで目を覚まさなくなりました。サリエルは、人を捜していました。その時サリエルは、街も、人も、邪魔なものは全て破壊しました。
藍瀬は、たまたま近くにいただけです。目障りだったそうです」

* * *

僕は、帰り道あのコンビニに寄った。
そこにはやはり、彼女がいた。

「アスモデウス」
「藍瀬……聞いたよ」
「何を?」
「君は、サリエルにやられたんだってな」
「ああ、そのことね……」
「君は、菊池 藍瀬の何だ?」

藍瀬は、煙を吐いた。

「魂っていうのかな……」
「え?」
「私だよ。魂っていうのか、生き霊っていうのか……なんだろうね。分からないけど、ただ、家にある私の身体は生きている。けど、私の意識は確かにここにある」
「生き霊だって言うなら、何か目的があるの?」
「そうだね、目的って言ったらおおげさなのかもしれないけど、こうやって夜コンビニに居座ったり、学校に行ったりしたかったのかな。目が覚めたなら」

僕は、教師だ。生徒が学校に通うことのできない理由があるのなら、それを解決する。
もともと、そのために僕は藍瀬のことを調べてきた。

「藍瀬!」

立ち上がった僕を、藍瀬は座ったまま見上げた。

「僕と契約してくれ。サリエルの呪いを解こう」

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