覇王サタンの聖誕祭〜鉄道王への道〜

鉄道王

第4話「憤怒の悪魔 サタン」

「では瀬川さん、行くわよ」

会長が俺にゆっくりと歩み寄ってくる。
緊張と恐怖のせいか身体が上手く動かせない。

「瀬川さんは逃げないの?戦うつもりかしら?」

動けないだけです。

しかしそんなこと全く知らない会長は容赦なくこちらに迫ってくる。
近くで見るとすさまじい迫力である。

無残に散った萩村とマイメロの姿が視界の端でちらついて恐怖を煽る。

俺は死を覚悟し、目を瞑った。

「…………」

(あれ?会長が、攻撃してこない?)

目を開けると、会長は俺の目の前から一歩退いていた。
そして、俺の拳は前に突き出されており、会長はそれを避けて下がったようだ。

「え……」
「驚いたわね、攻撃してくるなんて。なぜ2人が起きているときに攻撃しなかったのか不思議だけれど」

俺も不思議である。
攻撃をしたつもりはない。目を瞑っている間に、俺の身体が勝手に動いていたのだ。

腕を動かそうとしてみるが、全く動かない。
口や瞼、指などの細かいところは動かせるが、腕や足が動かせない。

「どうなってるんだろう……」
「では、やりましょうか」

会長が近づいてくると、俺の身体はいよいよ全く言うことをきかなくなり、意識も朦朧としてきた。

しかし、そんな中でも俺の意思とは関係なく、俺の身体は動き続けていた。

* * *

試合が始まってから何分ほど経過しただろうか……
俺の身体は止まることも知らず、会長と戦い続けていた。

しかし、不意に意識がはっきりとした。
目を開けると、眩しい体育館の照明が見えた。

「ようやく1発……!やるわね、瀬川さん」

どうやら会長のパンチが顔面に入ったようだ。
鼻血がぼたぼたと落ちているのが見えた。

そしてすかさず会長の2撃目が俺の顔面を捉える。

そして再び、俺の意識は遠のいていった。

「ーー〜っ!」

倒れそうになる身体を片足で踏み止まると、俺は、というか俺の身体は、勢いよくその拳を突き出した。

俺の打ったパンチは会長の左腕に直に入った。

「っつ……!ここまでやるのは久々ね……」

俺と会長の試合は白熱していき、少し経った頃には、互角の戦いを繰り広げていた。

やがて目を覚ました萩村とマイメロも黙ってこちらをじっと見ている。

「うおおおお!すげえええ!」
「会長ォオーっ!頑張れーっ!」
「男も頑張れー!」

俺たちの戦いに館内は沸き、生徒たちは俺たち2人に歓声を上げていた。

(本当に……どうなっているんだ……?なんで身体が勝手に……!?)

「そろそろ時間じゃないかしら?終わらせましょうか」

会長がそう告げると、俺の身体は勝手に口を開き言った。

「そうだな……もういいだろうな……」

俺の攻撃はさらに勢いを増し、会長を押すまでになっていった。
そして、会長の攻撃を躱し、放った蹴りは、見事に会長の顔にヒットした。

会長は倒れ、それと同時に15分を告げるブザーが鳴った。

「嘘だろ……!?会長が!?」
「なんだあいつ、すげぇえ!」

館内はざわざわと喧騒に包まれた。
そんな中、会長は何か俺の異変に気付いた様子だった。

「瀬川さんの様子がおかしいわ!みんな!彼を拘束して!」

会長の言葉を合図に試合を見ていた役員と思われる生徒たちが一斉に俺に飛びかかる。

「フン……小賢しいのォ……」

俺は静かにそう言うと、先陣を切って突撃してきた男を蹴散らした。

「怯まないで!全員で一気に行くわよ!」

生徒会全員を敵に回してもなお、俺の身体は悠々と彼らをいなしていく。

単調な攻防が続いていたが、やがて相手の援軍が到着した。

「霊媒部、到着しましたァ!!」

(霊媒部!?なんだそれ……)

「待っていたわ!さあ!瀬川さんを除霊してみて頂戴!」
「承知!」

その霊媒部とかいう団体のリーダーらしき人がブツブツと何かを唱えると、俺の身体は動きを止めた。

「くっ……!彼には何かが取り憑いています!みなさん!彼を取り押さえてください!」
「わかったわ!みんな!」

そうして生徒会のみんなに取り押さえられた俺は、霊媒部部長の除霊を受けた。

すると、俺の身体は徐々に自分の意思で動かせるようになってきた。
そして、俺の身体から何か人のようなものが出てきたのが見えた。

「やはり……何か強大なものが取り憑いていました……」

俺の身体から出てきた人型のものは、まだ幼い少女の姿をしていた。

少女は生徒の方をみると、大きく笑った。

「ふはははははーっ!!」

みんな突然のことに困惑している。
そんな中、会長ともう1人、桃色の長い髪をした女性は平静を保っていた。

そして、その少女に会長は問う。

「あなたは、何者……?」
「ふははは、よく訊いた。では、教えてやろう」

少女は偉そうに胸を張った。

「我が名はサタン!!『憤怒』の罪を司る悪魔にして、この学園の頂点に君臨せし者!!」

その場にいる誰もが呆然としていた。
もちろん俺も、訳がわからないままでいた。

「サタンですって……!?サタンといえば……数年前に封印されたはず……!」
「フン……!我は復活したのだ。いつまでもここに封じられたままでもいられまい」

そして、サタンを名乗った少女は提案した。

「そうそう、そういえば今、この学園には学園長がいないんだったな?では、なってやろうではないか。この我が」
「なんですって?」
「我がなってやる。この学園の学園長にな」

話を聞いているものは、会長、そして桃色の髪の女性、その2人を除いていなかった。

「この学園の学園長は強ければいいのだろう?であれば、お前に勝った我が学園長になるのは妥当だと思うが」
「あなたのような者に学園長は任せられないわ」

会長は頑なにサタンを否定する。
それに呆れたような態度をとったサタンは会長の方に手のひらを向けた。

「はあ、お前が知っているかは知らんがな、この学園はもともと我の物なのだよ。ぐだぐだ言わないではやく渡せ!」

そういうと、サタンは会長に向けて手のひらから光線を放った。

会長はすんでのところで躱したが、光線は体育館の壁を破壊し、壁の外に見える街を焼いた。

「………!!」
「わかったか?お前らは何も言わずにこの学園を我に返せばいいんだよ。この学園は我のものだ」

そうして誰も文句を言えないままサタンはピースフル学園の学園長の座についた。

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