勇者なんて怖くない!!~暗殺者が勇者になった場合~
第四十八話
「さて、早速なのですが少し寄りたい所があるんです。あまりお時間は取らせませんので、誠に申し訳ありませんが着いてきて頂いてもよろしいでしょうか?」
  料理も食べ終わり、僅かな呑んだくれの集まっていた酒場から抜け出した一同。唐突にドローレンがそんな事を言い出したのは、これからの方針を決めようとした時であった。
「早速好き勝手を始めたな貴様は……魔獣を討伐するのではなかったのか?」
  早速自らの用事に付き合わせようとしたドローレンに対し、フィリスは苦言を呈する。確かに、共に行動する理由として魔獣の討伐を掲げている以上、彼女の発言はそれにそぐわない。そも、この関係は一時的な物であり、その中で彼女が好き勝手するのも望ましい関係とは到底フィリスには思えなかったからだ。
  ……まあ、ドローレンの事が苦手という感情が多分に含まれているのは否定しようの無い事実ではあるが。
「確かに仰る通りではありますが……今日はこれ以上の魔獣討伐依頼が入っていない為、それは不可能なのですよ」
「嘘をつけ。ギルドのボードにはまだ幾つか討伐依頼が残っていた筈だぞ」
「ああ、それならば既に対処してありますわ。ここに来る前にも色々と回っておりましたので」
「……貴様の行動力には敵わん」
  ドローレンは人をからかいこそするものの、嘘の類は一切使わない。こうして笑顔で言った言葉も、恐らく事実なのだろう。驚異的ではあるが、彼女の実力を持ってすれば不可能とは言えない。
「申し訳ありません、ですがこの村の教会の司祭へ挨拶に行くだけなんです。本当にすぐ終わりますので、下手に別行動を取るよりは……と。本当にお嫌ならば私一人で行きますが……」
  そう言いつつもシュンとした表情を浮かべ落ち込んだ雰囲気を醸し出すドローレン。感情一つ一つの表現が些か大げさとも感じられるが、これはわざとやっている訳では無く、完全に素の表情である。ただ、その感情がコロコロと変わりやすい為、表情にもそれが現れ出てしまい、結果的にオーバーなリアクションに見えてしまっているだけである。
  それを証明するように、周りの水樹達が彼女を慰めると途端に表情を変え、先程とは一転した笑顔を浮かべる。この様な誤解されやすい体質であっても彼女が《聖女》としてやっていけているのは、やはり本人の生まれ持った性格のお陰だろう。
  フィリスは彼女の難儀な性質に溜息をつき、仕方なさそうに肩を竦める。
「……まあ別に着いて行く事は此方としても吝かではない。ただ、司祭に挨拶をする必要はあるのか?  貴様は仮にも《聖女》なのだろう?」
「《聖女》だからこそ、ですわ。信心深いスレイ教徒の皆さんにはしっかりと挨拶をしておかなければ失礼に当たりますので」
「成る程、《聖女》とやらも難儀な物だな……まあいい。生憎、私はこの村に詳しくなくてな。教会に行くのならば貴様が道案内をしろ」
「ええ。私が提案した以上は、しっかりと道案内させて頂きますわ」
  胸にドンと拳を当て、自信をアピールするドローレン。その衝撃と同時にポヨンと跳ねた彼女の巨大な胸部装甲に、その気はなくとも水樹達の視線が吸い寄せられる。
  各々が自らの胸をチラリと覗き、再度ドローレンへ。試しに同じ様に胸を叩いてみるも、彼女程の揺れは得られない。例えるならばドローレンが震度七。水樹と奏が大体同じくらいで震度四。骸は何処までも広がる太平洋、といった所だろうか。
「……ま、まあ女は性格よね」
「……キャラ被りの上、胸は上位互換だなんて……」
「……貧乳はステータスって言うよね」
  何か男には計り知れない攻防があったようだが、当の本人であるドローレンはそんな彼女らに疑問の表情を浮かべるだけである。これが勝者の余裕という奴なのだろうか。
  フィリスは彼女らの様子を見て呆れたように肩を竦め、ディーネの元へと自然に近づく。
「……まだまだ行先は前途多難だな」
「まあ、退屈よりはマシじゃないですかね?」
  二人はそんな他愛の無い話をしながら、周囲にバレないように魔話を繋げる。長距離を繋げる場合はそれなりの魔法陣が必要となるが、この程度の至近距離であれば手のひらサイズの魔法陣で問題ない。
  その間も他愛ない会話は続けており、周囲から見れば何の変哲も無い二人組に見えるだろう。口と頭で別の事を考えるとい行為は、彼等にとってそう難しい事ではない。
『随分と面倒な事になりましたね局長。いつもの集団を煽動する力は何処にいってしまったのですか?』
『別に何処にも行ってねぇよ……チャンスがあれば持って行きたかったが、流石に確定した流れを強引に変えるのは無理だ』
  大衆を裏から煽動するという行為は彼にとって朝飯前であるが、それはあくまで流されやすい大衆にとっての話。今回のように人数の少ない状況においては、冷静に考えられる人間が一人いるだけで機能しなくなる。出来る事といえば精々自身の思う通りに行くようそれとなく口を挟むのが限界であり、それすらも『薫』であるという縛りが妨害しているというのが現実であった。
『成る程、つまりあの場において局長は役立たずだったと』
『……いや、うん。まあ確かにそうだな。事前準備が出来ないとはいえ、全く思った通りに物事が運ばないってのは大分心に来る。腕鈍ったかなぁ……』
  冗談のつもりで何時もの毒を吐いたフィリスだが、それに対するディーネの落ち込み様が尋常ではない。随分ストレスで心をやられているなと察した彼女は、溜息をついて話を切り替える。
『……そういえば局長、潜入させた工作員の件はどうなさいますか? このままでは我々も身動きが取れません。犯人を捜すにしてもこの状況では手がかりすら掴めないのでは?』
『ん、ああ……そうだな。その件にもしっかり対応しとかなくちゃな』
未だ若干声が震えているが、なんとか思考を別の方向へと切り替えることで事なきを得る。幸いにして彼がふらついていた所は前の水樹達には見られなかったようで、彼女らは変わらず教会へと歩を順調に進めている。
『と言っても、今すぐに対応とは行かないな。出来る時間があるとすれば深夜、早朝……要するに仲間に疑われない時間帯だな。活動範囲も限られるが、背に腹は代えられん』
『追加の人員は如何なさいますか』
『先に投入した人員がやられた事を考えると、こっちも余程の手練れが必要になるだろう。下手にこれ以上人員を失うのは避けたいな……当面は俺達だけでやるしかない』
『なるほど……今回は随分と厳しい任務になりそうですね』
『仕方ない。敵地のど真ん中にぶち込まれてるようなもんだからな……っと、どうやらお目当ての場所についたみたいだな。教会はあまり性に合わないが、腹を括るとしよう』
ドローレンが止まった場所は、こぢんまりとした何の変哲も無い教会である。木製の薄いドアをゆっくりと押し、一同は中へと入っていった。
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