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勇者なんて怖くない!!~暗殺者が勇者になった場合~

初柴シュリ

第二十話




 真っ赤な太陽、などと地球では例えられることが多々あったが、実際に見ようとするとただただ眩しいだけだ――晴天の元、そんなことを考えながら水樹は王城内の広場に佇んでいた。

 『どうされたのだミズキ殿? よもや日焼けが気になる、等という軟弱な事を吐くのではあるまいな?』

「……紫外線完全防備の鎧で武装した貴女が言えることではなさそうだけど」

 兜の奥から聞こえてくるくぐもった声。水樹はメリエルに冷たい目線を向けつつ、彼女の言葉に反論する。

『何を言うか! 私は勇者様方が怪我をしないよう、全線に立って皆様をお守りするため仕方なくこのような重武装をしているのですよ!』

 メリエルは重厚な全身鎧プレートアーマーに身を包み、一寸たりとも肌が出ないように全身をカバーしている。未だ戦闘は始まっていないというのに、ヘルムの面すら既に落としているのだ。水樹が疑ってかかるのも無理はない。

「じゃあなんで前回とかは軽めの金属鎧スケイルアーマーだったのよ。第一、戦闘をさせるための演習なんだから貴女が全線に出たら意味ないじゃない」

『ぐぬぬ、よく見ておられる……はっ、さてはミズキ殿、最近話題の女もイケる口という奴では……』

「はぁ!? なんでそうなんのよ!?」

『いや、わかっている。カオル殿もイケるのだから……両刀というやつか。全く、節操のない事だ』

「節操がないのはどっちよこの年中発情女!」

『すまない、少し離れてくれないか。妊娠してしまう』

「~~っ!!」

 声にならない声を上げる水樹。そんな彼女たちの様子を、ディーネは一歩離れたところから苦笑いで見ていた。

(朝っぱらから何をやっているんだこいつらは……)

 彼女らのバイタリティにやや戦慄を覚えつつも、ディーネは自らの宝具の点検を進める。前回故障した宝具は既に修繕されており、今回はよりディーネの力を発揮できるように専用のチューニングが施されている。

 とはいえ、元が汎用性を求めた宝具である以上いかに調整しようと限界はある。出せて精々が全力の四十パーセント程だろうか。これでも性能は大分向上しているが、ディーネからしてみればまだまだ欠陥品との評価だ。最も、流石にそれは高望みという物である。

 一連の点検作業を終えた後魔法炉を起動し、魔力の通りを確認する。

(……ステータス問題無しオールグリーンか。ヤツのことだからまた余計な機能でも付け加えてたかと思っていたが、何事も無くて一安心だ)

 腕部コネクタに再び接続。パチン、と小気味よい音を立て、宝具は元の位置へと戻った。

 と、そんなディーネの視界を影が遮る。何事かと顔を上げると、見覚えのある顔が目に飛び込んできた。

「やあ薫。武器の点検中か? 精が出るな」

「……ああ、ハルトじゃないか。こうして話すのもなんだか久しぶりな気がするよ」

 名前を思い出すのにワンテンポ掛かってしまったが、どうにか不自然で無い程度には答えられたようだ。ディーネは表情を作りながら、目の前の男に応対する。

 春斗は何時も変わらない人の良い笑みを浮かべながらディーネに話しかけてくる。常日頃から人の汚れた部分を見ているディーネからしてみれば、彼の笑みはどうにも胡散臭い物に見えてしまうのだが、果たして只の疑いすぎなのか。

「今日も笑顔が眩しいね。僕の所へ来てもいいの? 周りの女子が放って置かないんじゃ無い?」

「そんなわけ無いだろ、と言いたいんだが……」

「え、冗談で言ったつもりなんだけど……」

 春斗の背後をチラリと覗き見る。春斗が指さしたその先には、幾人かの女子がこちらをコソコソと伺っていた。

「最近ずっとこんな感じなんだ。本人達は隠れてるつもりなんだろうけど、こうもあからさまだと流石に……」

「う、うん……」

 なんだこいつ、という言葉を飲み込めたのは運が良かったと言えるだろう。これ以上この話題を続けるのも互いの精神にとって悪い為、ディーネは話題を変える。

「そ、そうだ。ハルトの方の調子はどうだい? 剣を作り出す能力って聞いてるからあんまり心配はしてないけど」

「ああ、俺の方は絶好調だぜ! 薫も強くなって帰ってきたみたいだし、今回の演習は楽に終わるんじゃ無いか?」

「そうだね。油断は禁物だけど……」

 チラリと水樹達を見るディーネ。未だ言い争いを続けている彼女らには徐々に視線が集まっており、この調子で衆目を引く存在になってしまうのは間違いないだろう。

「……あそこまで目立つ存在がいれば狙われないんじゃないかな」

「うん、まあ……何というか、ドンマイ」

「なんだいその生暖かい目線は? 君は女たらし担当じゃないか。彼女達のことも責任持って管理するべきじゃないのかな」

「どっちかというと薫の方が主人公系のキャラしてると思うんだが……」

 異世界に来たら無能力。一度消えて戻って来たら実は最強だった。おまけに女子二名がヒロインとして確定している。なるほど、端からみればこれほど主人公してるのもそうそういない。

 かといって地球においてのテンプレなどディーネにわかるはずもなく。彼が首を傾げるだけでこの話題は終わる事となった。

「勇者様方、こちらに注目していただきたい!」

 パンパン、と手を打ち鳴らす乾いた音が広場に響く。その音に釣られて見ると一人の男が、というより団長のメリーランが重々しい鎧を着込んで群衆の前に立っていた。その若々しい顔には似つかわしくない、巨大な槍を背中に背負い、威風堂々とした風格を漂わせている。

「これより、当初の予定通り演習を開始する! 各員、気を引き締めていくように!」





◆◇◆





「……確かに四人一組になれって言われたけどね」

 ディーネのその言葉に、彼以外のメンバーがそれぞれの反応を返す。一人は苦笑い、一人は無表情。そしてもう一人は悪戯っぽい笑みを浮かべた。

「なによ薫。ほら、こんな綺麗どころと同じパーティーになれたんだから嬉しいと思いなさいよ!」

 そんな水樹の言葉に内心でイラッとするディーネ。まあそれも仕方ないことと言えるだろう。

 なにせ彼以外のメンバーは全員女性なのだから。

「あはは……なんだかすみません」

 殊勝な態度で物腰の低い女性。このパーティーで唯一の良心とも言える彼女は秋宮奏あきみやかなでと言う。水樹の親友の一人であり、異世界に来てからも親交の深かった一人である。

 おっとりとした雰囲気に加え、高校生らしからぬダイナマイトボディ。普通の童貞であれば一言話しただけで恋に落ちてしまうこと間違いなしだろう。

 だが、ディーネは違った。よく訓練された童貞である彼は色仕掛けなどには屈したりしないのだ。ただ恥ずかしがっているだけとも言う。

 それに、彼女のスキルを見ればそんな感情も吹っ飛んでしまうこと請け合いである。それほどまでとんでもないスキルを持っているのだが、その説明はまた今度。

「……」

 この喧噪の横でも無言を貫いている猛者の名前は神崎骸かんざきむくろ。こちらも水樹の親友であるが、ディーネからしてみれば何を考えているのか分からない為随分と気味の悪い存在である。何より、ディーネをもってしても何を考えているのか少しも分からないと言うのが不気味さに拍車を掛けていた。

 低めの身長に、猫耳の付いた黒フード。彼女の顔はフードの影に隠れ、正確な表情は分からない。こちらもこちらでとんでもないスキルを持っており、ディーネの警戒を高める一助となっていた。

『ははは、元気があってよろしいですなぁ……あ、薫殿。こちらの水をどうぞ』

 そして毎度お馴染みメリエル。この時点でディーネのストレスがマッハになることは確定だったといえる。

「あーら、態々ありがとう。いただくわ」

『ちょ、こらっ! それはカオル殿の分だぞ! 今すぐその手を離せ!』

「残念、もう飲んじゃったわ。私の飲みかけでよければ薫に……」

『今すぐその水筒を返せ女狐が……!』

(空が青いなー)

 そうして始まってしまった予定調和とも言える争い。ディーネにできる事はもはや現実逃避だけだった。

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