アライアンス!
エルフの集落
櫓の上にいるエルフの声と同時に角笛の音が響き渡る。それを受けて森の奥から次々と人影が現れた。皆図ったように金髪で深い緑の目をしていた。
双剣を構えて前に出るもの。木の陰から、樹の枝に立ち矢をつがえる弓手達。あからさまな警戒の様子にケイ達は…
「いやぁ…凄い警戒っぷりですね」
「見た感じエルフだけの集落ですね団長。リトルフットやビッグフット…ドワーフも見えません」
ウガレトは亜人種と呼ばれる種族の共同体であるが、あくまで魔軍を前に団結していただけであったため、先の戦乱が終結してから10年余り…既に他種族交流は控えめになっているのだろう。
そんな思索を巡らすケイ達はこの集落の者たちから見れば呑気に過ぎる。舐められていると感じたエルフ達は戦意を高める。
「だー!待つっす!イケメンの方々!アタシ、エルフっす!」
一触即発といった雰囲気に耐えかねたのかグラッシーが叫んだ。それは争いを避けようとする彼女の真情であったのだが返答は釣れなかった。
「貴様のようなエルフがいるか!」
「「「ぶふっ」」」
生真面目なエルフの対応にグラッシーを除いた三名が吹き出した。グラッシーの外見は相変わらずであり、漫画に出て来るようなぐるぐる眼鏡に制服のような衣装だ。似たようなデザインの服を注文して何着か持っていると思われる。確かにこれは真っ当なエルフには見えない。
しかしグラッシーは真剣なのだ。例えふざけた格好をしていようとも、美々しい男性に囲まれて顔がニヤつきそうになるのを堪えていようともだ。なぜならケイは既に剣を抜いている。
彼は自分で気がついているのだろうか?恐らくは気付いてはいまい。ケイは概ね善の方向に属してはいたが、戦闘行為を楽しむ度し難い性癖がある。自分で自分達の旅を無駄にする瀬戸際に立っている。助けを求める者を引き上げるために来たと言うのに自分達で殺戮する羽目になってしまえば目も当てられない!
「ほーら耳!長いっすよ!」
精一杯の主張を行うグラッシー。飛び跳ねながらするアピールはまるで小娘のようで気恥ずかしいがグラッシーも必死だ。その願いが通じたのかエルフたちは僅かに弓矢を下げる。
「確かに我らが同胞のようだが…人間、ドワーフ、リトルフット。どういった集まりなのだこれは?どこの氏族でも見たことの無い顔だ」
「そのあたりの話も纏めてしたいっすから、とりあえず武器を収めてくださいっす。あたしらも武器置くっすから!」
「えー」
えー、じゃない!
そう団長を叱りつけながらグラッシーはエルフの一団に従うように皆に促した。櫓の下から森の奥深くへと…。
通されたのは樹上家屋。木の上に家が建てられているのだ。かつては画面越しに何気なく見ていた光景だが、実際に立ち入ってみればこれが中々に落ち着かない。太い枝の上とはいえ底が抜けたりだとか、土台の枝が折れてしまうのでは?という疑念が消えない。
そこを除けば概ね住みやすそうな家屋ではあった。木で出来た家は何となく日本人的な印象を与えてくれし、エルフ達の調度品は質素であると同時に安っぽい雰囲気を感じさせない。趣味が良い、とケイも思うのだが、同時にそこが鼻につくという思いも抱いた。
周囲を取り囲み、こちらの話に耳を傾けるエルフ達からも同じものを感じる。落ち着いている。真摯に耳を傾けてくれてもいる。だというのに不快な感じが薄膜を張る。
「話は概ねわかった。星界人か…ならばそこの娘も同胞であって同胞で無き者よ。それで我らに何を求める?」
「えーと、逃げたいと思ってる人がいれば連れて行ってあげたいし、戦いたいって人がいれば手伝ってあげたいなーって考えてるんだけど…」
カイワレが答えになっていない答えを返す。愛らしい子供じみた姿の彼女は交渉や会話に便利だ。だが、その姿にも、大抵の者は警戒心を剥ぎ取られてしまうだろう声にも、長老と呼ばれたエルフは感情を動かさなかったようだ。
見た目は他の者と同様に若い男にしか見えない長老の返事は短かった。
「不要だ」
その一言である。
流石にそれだけでは通じないと思い直したのか長老は言葉を紡ぎ始めた。
「我々は逃亡も戦闘も望んではいないからだ。なるほど、ウガレトの首都が落ちたとの噂は確かに私も聞いてはいる。だがそれがどうしたというのだ?魔軍どもはそれ以後動きを見せぬ。何より我らが森に何の被害もない。逃げる必要も無ければ戦う必要も無い」
エルフという種族は誇り高く、ともすれば傲慢ともとれる程。そうした設定は知っていたつもりになっていたが、目の前で披露されると感心すらしてしまう。
周囲の物と者から感じるのもそれだ。どうだ我々は高尚だろう?という自慢にも似た優越感が放たれているのだとケイは今更ながらに気付いた。
「そもそも貴様ら星界人がしっかと役目を果たしておれば“アライアンス”も健在であったのではないか?星の使徒の名に恥じるがいい。今更出てきて救ってやるなどと良くも吐けたものよ」
痛いところを突いてくる。高慢さも歳月の重みを足せば一種の強みにはなるらしい。この世界はメインストーリーから10年後の世界。そして星界人はその間何をしていたかといえば、何もしているはずはない。
星界人は基本的には勇者よろしく世界の危機に立ち向かう存在だ。PKなどの犯罪行為は同じプレイヤーにしか向けられないし向ける意味も無かった以上、この世界の住人の認識も言わば正義の味方になっているのだろう。
「理屈は分かるし、すまないとも思うけど…」
凄く殴りたい。殺したいとまでは思わないが。
ケイはアルレットの期待に応えたいと思ってきたのだから無闇に敵を増やすのは避けるべきだ。分かってはいるのだが、手は剣の柄を求めて遊ぶ。だがダメだ。大体にしてこの長老は戦って楽しい手合ではない。それほど強く無いことを感じているし、こちらが強いとさえ認識していない。殴っても単なる鬱憤の発散にしかならない。どうせ戦うのならもっと真剣な相手が良い。
「団長、どうにも歓迎されてもいないようですし…お暇しましょうか」
ケイの内心を知ってか知らずかタルタルが助け舟を出してくれる。仲間の声でケイはようやく落ち着きを取り戻し出す。
「ほう?ドワーフが遠慮をするとはな。なるほど、確かに世界の危機は近いのかもしれぬな」
「あー、結局こうなるっすかー。確認しとくっすけど国外に出たい人も打って出たい人も本当にいないっすか?」
グラッシーの言葉に長老は冷笑とともに同じ返答を送った。不要だ、と。
「いきなり押しかけて助けてやる!は駄目と。いやあ失敗でしたね。すいませんグラッシーさん」
「団長のせいのようで、団長のせいではないような…。まぁ失敗は失敗っすけど。もう少し真面目口調に戻した方が良かったっすねアタシも」
森から離れてケイ達は火を囲んで休憩に入った。時刻は既に夜。見上げる星空は美しいが雰囲気は反省会じみていた。
「それにしても…あたしから見ても強そうな人っていなかったよ。魔軍さん達はなんだってまた放って置いてるのかな?」
カイワレは見た目に引きずられているのか、日々子供っぽい口調になっていってる気がする。そんなことを思いながらケイは話に乗って可能性を上げてみた。
「その1。単純に手が足りない」
「面白みは無いですがありそうですね。メインクエストの後、一回滅んでるわけですし」
この世界は広い。森に篭って出てこない連中を相手にする気はない、となっても不思議は無いわけだ。「うちの森は平和だから大丈夫!」というような先程のエルフたちの認識も案外正しいのかもしれない。それはそうと足ぐらい踏んでおけば良かったかとケイは思う。
「その2は?」
「魔軍にとって価値がないとか、意味がないとか?…そもそもメインクエストの魔軍侵攻ってなにが理由でしたっけ…」
ケイの呟きにタルタルが答えた。なぜかこの世界にも流通しているコーヒーを啜りながら。
「確か…魔族が生きていくには何かこう…瘴気っぽいものが必要で。それを撒き散らすために各地で悪事を…みたいな感じでしたね」
「タルやんの知識がめっちゃ曖昧で凄い笑えるんっすけど」
「そういうグラ姉は?」
「普通の空気が毒っぽく感じるから世界征服」
「…同レベルじゃないですか!」
皆で一しきり笑ってからそれぞれが手の飲み物を口に運んだ。
要点を理解してるなら大したものじゃないだろうかと考えながらケイは火に薪を足した。こうした動作もこの一年ほどで随分と慣れてきたもので事前に手元に積み上げてある。
道中の危険性を抜きにして考えれば友人と行くキャンプの雰囲気はこのようなものなのだろうか?
「私なんてムービー全部飛ばしましたからね。正直なところエネミーで出てきた相手とこっちの世界の本で読んだ知識ぐらいしか無いです」
「じゃあ次、その3!カイワレちゃん!」
「あー、あのエルフさん達が嫌な人達だからとか?まさかねー」
カイワレが時折見せる鋭さを出さずに、本当に適当に言ったらしいことが顔で分かる。
だが、その言葉にケイ達は意表を突かれた気がした。
嫌な人達、という部分を少し変えてみれば…。
「…魔軍の脅威が去った後もついこの間までウガレトの首都は健在だった」
「?うん」
ウガレト部族は様々な種族が寄せ集まって出来たアライアンスと設定されている。ドワーフ、リトルフット、エルフ、ビッグフット。魔軍の脅威を前に彼らが団結をしたというわけだ。
ケイは既に種族間の交流が控えめになっているのかとばかり思っていたのだが…
「他種族とよろしくやる気のある連中だけ滅ぼされて…」
「残ったのは保守派というか…他種族と交流する気のない人達だけということですか?」
グラッシーの言葉をタルタルが引き継ぐ。
ケイ達は元の世界で一般人であるため、戦略だとかの小難しい話は今もって理解できない。する気もあまり無い。それだけに背筋が寒くなる。人が生かされていることに理由があるかもなどと!
「その1と合わせて…手が足りないから団結する気の無い連中は構わなくとも良い?」
「なんかまだ足りない気がするっすね」
「あー、じゃあ喧嘩させようとしてるんじゃない?」
「「「うわぁありそう」」」
嫌な話ではある。ドワーフとエルフの関係が不仲というのがファンタジーのお約束であるように、種族間の軋轢というものはこの世界にも存在する。人間であるケイはあまり出くわさなかった。だが、仲間達はそれぞれ少しは覚えがあると見えて顔をしかめている。
「しかし…そうなるとこの先会うのは偏屈さんばかりですか…。気が重いですねぇ」
苦いのならコーヒーや茶のような飲み物のほうが良い。ケイは次の目的地について思いを巡らしながらコーヒーをタルタルから分けてもらった。
双剣を構えて前に出るもの。木の陰から、樹の枝に立ち矢をつがえる弓手達。あからさまな警戒の様子にケイ達は…
「いやぁ…凄い警戒っぷりですね」
「見た感じエルフだけの集落ですね団長。リトルフットやビッグフット…ドワーフも見えません」
ウガレトは亜人種と呼ばれる種族の共同体であるが、あくまで魔軍を前に団結していただけであったため、先の戦乱が終結してから10年余り…既に他種族交流は控えめになっているのだろう。
そんな思索を巡らすケイ達はこの集落の者たちから見れば呑気に過ぎる。舐められていると感じたエルフ達は戦意を高める。
「だー!待つっす!イケメンの方々!アタシ、エルフっす!」
一触即発といった雰囲気に耐えかねたのかグラッシーが叫んだ。それは争いを避けようとする彼女の真情であったのだが返答は釣れなかった。
「貴様のようなエルフがいるか!」
「「「ぶふっ」」」
生真面目なエルフの対応にグラッシーを除いた三名が吹き出した。グラッシーの外見は相変わらずであり、漫画に出て来るようなぐるぐる眼鏡に制服のような衣装だ。似たようなデザインの服を注文して何着か持っていると思われる。確かにこれは真っ当なエルフには見えない。
しかしグラッシーは真剣なのだ。例えふざけた格好をしていようとも、美々しい男性に囲まれて顔がニヤつきそうになるのを堪えていようともだ。なぜならケイは既に剣を抜いている。
彼は自分で気がついているのだろうか?恐らくは気付いてはいまい。ケイは概ね善の方向に属してはいたが、戦闘行為を楽しむ度し難い性癖がある。自分で自分達の旅を無駄にする瀬戸際に立っている。助けを求める者を引き上げるために来たと言うのに自分達で殺戮する羽目になってしまえば目も当てられない!
「ほーら耳!長いっすよ!」
精一杯の主張を行うグラッシー。飛び跳ねながらするアピールはまるで小娘のようで気恥ずかしいがグラッシーも必死だ。その願いが通じたのかエルフたちは僅かに弓矢を下げる。
「確かに我らが同胞のようだが…人間、ドワーフ、リトルフット。どういった集まりなのだこれは?どこの氏族でも見たことの無い顔だ」
「そのあたりの話も纏めてしたいっすから、とりあえず武器を収めてくださいっす。あたしらも武器置くっすから!」
「えー」
えー、じゃない!
そう団長を叱りつけながらグラッシーはエルフの一団に従うように皆に促した。櫓の下から森の奥深くへと…。
通されたのは樹上家屋。木の上に家が建てられているのだ。かつては画面越しに何気なく見ていた光景だが、実際に立ち入ってみればこれが中々に落ち着かない。太い枝の上とはいえ底が抜けたりだとか、土台の枝が折れてしまうのでは?という疑念が消えない。
そこを除けば概ね住みやすそうな家屋ではあった。木で出来た家は何となく日本人的な印象を与えてくれし、エルフ達の調度品は質素であると同時に安っぽい雰囲気を感じさせない。趣味が良い、とケイも思うのだが、同時にそこが鼻につくという思いも抱いた。
周囲を取り囲み、こちらの話に耳を傾けるエルフ達からも同じものを感じる。落ち着いている。真摯に耳を傾けてくれてもいる。だというのに不快な感じが薄膜を張る。
「話は概ねわかった。星界人か…ならばそこの娘も同胞であって同胞で無き者よ。それで我らに何を求める?」
「えーと、逃げたいと思ってる人がいれば連れて行ってあげたいし、戦いたいって人がいれば手伝ってあげたいなーって考えてるんだけど…」
カイワレが答えになっていない答えを返す。愛らしい子供じみた姿の彼女は交渉や会話に便利だ。だが、その姿にも、大抵の者は警戒心を剥ぎ取られてしまうだろう声にも、長老と呼ばれたエルフは感情を動かさなかったようだ。
見た目は他の者と同様に若い男にしか見えない長老の返事は短かった。
「不要だ」
その一言である。
流石にそれだけでは通じないと思い直したのか長老は言葉を紡ぎ始めた。
「我々は逃亡も戦闘も望んではいないからだ。なるほど、ウガレトの首都が落ちたとの噂は確かに私も聞いてはいる。だがそれがどうしたというのだ?魔軍どもはそれ以後動きを見せぬ。何より我らが森に何の被害もない。逃げる必要も無ければ戦う必要も無い」
エルフという種族は誇り高く、ともすれば傲慢ともとれる程。そうした設定は知っていたつもりになっていたが、目の前で披露されると感心すらしてしまう。
周囲の物と者から感じるのもそれだ。どうだ我々は高尚だろう?という自慢にも似た優越感が放たれているのだとケイは今更ながらに気付いた。
「そもそも貴様ら星界人がしっかと役目を果たしておれば“アライアンス”も健在であったのではないか?星の使徒の名に恥じるがいい。今更出てきて救ってやるなどと良くも吐けたものよ」
痛いところを突いてくる。高慢さも歳月の重みを足せば一種の強みにはなるらしい。この世界はメインストーリーから10年後の世界。そして星界人はその間何をしていたかといえば、何もしているはずはない。
星界人は基本的には勇者よろしく世界の危機に立ち向かう存在だ。PKなどの犯罪行為は同じプレイヤーにしか向けられないし向ける意味も無かった以上、この世界の住人の認識も言わば正義の味方になっているのだろう。
「理屈は分かるし、すまないとも思うけど…」
凄く殴りたい。殺したいとまでは思わないが。
ケイはアルレットの期待に応えたいと思ってきたのだから無闇に敵を増やすのは避けるべきだ。分かってはいるのだが、手は剣の柄を求めて遊ぶ。だがダメだ。大体にしてこの長老は戦って楽しい手合ではない。それほど強く無いことを感じているし、こちらが強いとさえ認識していない。殴っても単なる鬱憤の発散にしかならない。どうせ戦うのならもっと真剣な相手が良い。
「団長、どうにも歓迎されてもいないようですし…お暇しましょうか」
ケイの内心を知ってか知らずかタルタルが助け舟を出してくれる。仲間の声でケイはようやく落ち着きを取り戻し出す。
「ほう?ドワーフが遠慮をするとはな。なるほど、確かに世界の危機は近いのかもしれぬな」
「あー、結局こうなるっすかー。確認しとくっすけど国外に出たい人も打って出たい人も本当にいないっすか?」
グラッシーの言葉に長老は冷笑とともに同じ返答を送った。不要だ、と。
「いきなり押しかけて助けてやる!は駄目と。いやあ失敗でしたね。すいませんグラッシーさん」
「団長のせいのようで、団長のせいではないような…。まぁ失敗は失敗っすけど。もう少し真面目口調に戻した方が良かったっすねアタシも」
森から離れてケイ達は火を囲んで休憩に入った。時刻は既に夜。見上げる星空は美しいが雰囲気は反省会じみていた。
「それにしても…あたしから見ても強そうな人っていなかったよ。魔軍さん達はなんだってまた放って置いてるのかな?」
カイワレは見た目に引きずられているのか、日々子供っぽい口調になっていってる気がする。そんなことを思いながらケイは話に乗って可能性を上げてみた。
「その1。単純に手が足りない」
「面白みは無いですがありそうですね。メインクエストの後、一回滅んでるわけですし」
この世界は広い。森に篭って出てこない連中を相手にする気はない、となっても不思議は無いわけだ。「うちの森は平和だから大丈夫!」というような先程のエルフたちの認識も案外正しいのかもしれない。それはそうと足ぐらい踏んでおけば良かったかとケイは思う。
「その2は?」
「魔軍にとって価値がないとか、意味がないとか?…そもそもメインクエストの魔軍侵攻ってなにが理由でしたっけ…」
ケイの呟きにタルタルが答えた。なぜかこの世界にも流通しているコーヒーを啜りながら。
「確か…魔族が生きていくには何かこう…瘴気っぽいものが必要で。それを撒き散らすために各地で悪事を…みたいな感じでしたね」
「タルやんの知識がめっちゃ曖昧で凄い笑えるんっすけど」
「そういうグラ姉は?」
「普通の空気が毒っぽく感じるから世界征服」
「…同レベルじゃないですか!」
皆で一しきり笑ってからそれぞれが手の飲み物を口に運んだ。
要点を理解してるなら大したものじゃないだろうかと考えながらケイは火に薪を足した。こうした動作もこの一年ほどで随分と慣れてきたもので事前に手元に積み上げてある。
道中の危険性を抜きにして考えれば友人と行くキャンプの雰囲気はこのようなものなのだろうか?
「私なんてムービー全部飛ばしましたからね。正直なところエネミーで出てきた相手とこっちの世界の本で読んだ知識ぐらいしか無いです」
「じゃあ次、その3!カイワレちゃん!」
「あー、あのエルフさん達が嫌な人達だからとか?まさかねー」
カイワレが時折見せる鋭さを出さずに、本当に適当に言ったらしいことが顔で分かる。
だが、その言葉にケイ達は意表を突かれた気がした。
嫌な人達、という部分を少し変えてみれば…。
「…魔軍の脅威が去った後もついこの間までウガレトの首都は健在だった」
「?うん」
ウガレト部族は様々な種族が寄せ集まって出来たアライアンスと設定されている。ドワーフ、リトルフット、エルフ、ビッグフット。魔軍の脅威を前に彼らが団結をしたというわけだ。
ケイは既に種族間の交流が控えめになっているのかとばかり思っていたのだが…
「他種族とよろしくやる気のある連中だけ滅ぼされて…」
「残ったのは保守派というか…他種族と交流する気のない人達だけということですか?」
グラッシーの言葉をタルタルが引き継ぐ。
ケイ達は元の世界で一般人であるため、戦略だとかの小難しい話は今もって理解できない。する気もあまり無い。それだけに背筋が寒くなる。人が生かされていることに理由があるかもなどと!
「その1と合わせて…手が足りないから団結する気の無い連中は構わなくとも良い?」
「なんかまだ足りない気がするっすね」
「あー、じゃあ喧嘩させようとしてるんじゃない?」
「「「うわぁありそう」」」
嫌な話ではある。ドワーフとエルフの関係が不仲というのがファンタジーのお約束であるように、種族間の軋轢というものはこの世界にも存在する。人間であるケイはあまり出くわさなかった。だが、仲間達はそれぞれ少しは覚えがあると見えて顔をしかめている。
「しかし…そうなるとこの先会うのは偏屈さんばかりですか…。気が重いですねぇ」
苦いのならコーヒーや茶のような飲み物のほうが良い。ケイは次の目的地について思いを巡らしながらコーヒーをタルタルから分けてもらった。
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