アライアンス!
村長との取引
村に近付いて行くと、入り口近くの若者が粗末な槍を構えた。鎧などは着ておらず、普段着のように見える。自警団というやつなのかもしれない。
こうして警戒されている様を見ると、普通の人間としてはショックが大きい。もっとも、武器を構えられても恐怖心が湧き上がらないあたりは、こちらの世界に来てから感覚が麻痺しているのだろう。
(自分だったらどうだろうか?もし武装した人間が近付いてきたら…)
間違いなく道を変えるか逃げる自信がある。しかし,ここに住んでいる彼らは引くわけには行かないのだろう。鎧姿にも臆するような様子は見えない。
刺激しないように、慎重に歩を進める。近づくと、一人一人の顔まで見えるようになってくる。やはりというべきか、NPCのようには見えない。
トライ・アライアンスは、作り込みが甘いところがあり、NPCの顔は似たり寄ったりであったのだ。しかし、彼らは一人一人が違う人生を歩んできた人間なのだ。
顔に傷のある男がいる。一体過去に何があったのだろう。
若くみえるのに、禿頭の男もいた。何かの理由で剃ったのか?あるいは何らかの教えなのか?
子供を抱きかかえる女がいる。この世界では、子供をどうやってあやすのだろうか。
いかに、彼らと接するか。腹芸、嘘、恫喝?どれも無理のように思えた。いかに超人の身体を手に入れたとは言え、この頭の中身は何の変哲もない現代人に過ぎない。彼らの方が人生経験豊富だと思ったほうが賢明であろう。
ならば誠意をもってあたるしかない…のだが、全てを明かすこともまた無理だ。異世界からこの世界に来ました、などと言おうものなら完全におかしな人だろう。しかも武装した変人だ。
つまり、正直に目的を話しながらも素性は隠す…というありきたりな対応にしかならない。しかし、今後もソレは変わらないだろう。人間的に成長する機会でもあれば別だろうが。
(そもそも言葉通じるのかな、文字はどうなってるんだ?ゲームで読むことになる本などは日本語だったが…)
考えれば考えるほど泥沼だ。しかし、もう村は目の前であり腹を括るしか無い。
出会い頭に戦闘などという最悪の展開を避けるため、入り口の手前で止まったほうがいいだろうと考え、後ろの二人に手で合図を送ろうとする。しかし――
「止まれ!だれだお前たち!巡察の予定など聞いては居ないぞ!」
先に言われてしまった。言われたままに足を止めながら、ケイは心底驚いていた。
(本当に日本語だよ…いや、なぜか理解できるだけで異世界語とか?)
武装した人間が幾人か駆け寄ってくる。門番のような男の声を聞いたのであろう。奥に目を向ければ戸に隠れてこちらを窺う者たちも見えた。
「おい、あの耳…まさかエルフか?」
「小柄なやつはドワーフに見えるが…まさかな」
時間が経つごとにざわめきは大きくなっていく。勢い良く誰何した門番も、大きくなった事態に困惑してるようで近付いても来なければ、目的なども問いたださない。
どうしたものか、と思っているとタルタルが一歩前に出た。
「我々はトワゾス騎士団に所属する星界人である!この村へは物資の補給のために立ち寄った!危害を加える意思は無い!入村の許可を!」
ビリビリと空気が震える程の低い声が響き渡った。『星界人』?とケイが首を傾げていると、グラッシーがこちらにだけ聞こえる声で囁いた。
「アタシらのことっすよ。オープニングムービーで言ってたでしょ」
すいません飛ばしました…とは言えずにケイは見苦しくないよう胸を張る。タルタルはロールプレイ寄りのプレイスタイルであったから、咄嗟にこう言えたのだろう。
自警団らしき人々はヒソヒソと頭を突き合わせている。意を決したのか先程の門番が駆け寄ってくる。
「ただいま村長を呼んでまいりますので、しばしお待ちを…」
丁寧語になっているのは、星界人にどのように接すれば良いのか分からないためであろう。もしくは騎士として接することにしたか。どちらにせよ腰を低くして損は無いという判断だ。
村人たちが少し距離を開けて、こちらを見ている。しばらく時間がかかりそうだ。
「ありがとうございました、タルタルさん」
自分は助けられてばかりだ、とケイは思う。これで団長なのだから、恥じ入るしかない。
しかし、タルタルは頭を振った。
「いえ、ひょっとしたらこの世界では代表者が声を張り上げるものだったかもしれないですし…僕のしたことは余計だったかもしれませんね」
その言葉は少しばかり自信がなさそうで、年長者のような印象がなかった。ふとケイは気付いた。目の前の村人たちも、タルタルもグラッシーも、そして自分も目の前の問題に正解が見つけ出せているわけではないのだ。ただ最善を目指しているだけで。だから自分が劣ると考える必要は無いのかもしれない。
「やっぱりありがとうございますタルタルさん」
きょとんとした顔のタルタルがおかしくて、ケイは思わず笑みになる。
「どうして男の子ってのは、こう面倒なんすかねぇ」
グラッシーのボヤキが妙に耳に残った。
待つのに少しばかり飽きてきた時、一際頑丈そうな男と共に杖をついた老人が見えてきた。
相当に肝が据わっていると見えて、こちらに恐れる様子もなく近付いてくる。目の前に立つと背筋はピンと伸びていた。
「私はギルド【トワゾス騎士団】の団長、ケイと申します。後ろの二人はグラッシー、とタルタル。旅を続けるための食料や、日用品を求めております。代価はお支払いたしますので…」
村長らしき老人は、グラッシーとタルタルを少しだけ見やってから口を開いた。先程の自警団たちの囁きといい、ここではエルフやドワーフは相当珍しいようだ。
「…儂はこの村の取りまとめ役、ザール。生憎とこの村には星界人の方々が使うような店など、ありませんでな…お引き取り願いたい」
目には不信感が宿っている。武装した相手にこれだけ断言できるのは、驚きだ。襲われないという自信があるのか。あるいは星界人との接触に慣れているのか。
どう説得したものかと、考えていると横の偉丈夫が村長に耳打ちをする。目の前で隠し事をされるのは、不快だが、内容がわからない以上文句を言うべきでも無かった。
すると、もう言うことは無いというような顔をしていた村長が、再び言葉を口にする。
「とはいえ、このような村にお越しくださった方々を無下にするのも忍びない。どうですかな、簡単な仕事と引き換えの、取引と参りませんか?」
精神は一般人であるケイにも理解できたことがあった。
(この流れは、確実に厄介事だ…)
村長ザールと自警団の長だという偉丈夫、フェルノーに続いて足を踏み入れる。進むと、想像以上に大きい村だった。グラッシーの偵察で見えなかったのは、家の重なり具合のせいらしい。これならば近隣に農場を開いているのも頷ける。
最奥の建物に通される。建物は質素な作りだが、家具のようなものは机と椅子のみだ。
(集会場、もしくは会議室といったところかな?)
すぐに木椀に入った、温かい飲み物が出される。
薄い茶のような味だが、手持ちの味に飽きていたケイ達は満たされた気分になる。
「では取引の話に入りましょうかの」
「その前に、やはり購入では駄目なのですか?銀貨での支払いでも良いのですが」
村長は少しばかり心を動かされたようだが、それでも首を横に降った。金銭では解決しない事態…とすれば時間的な余裕がないということが考えられる。
厄介事だという予感は的中したようだ。
「最近…この近辺では、家畜が殺害されるという問題が起こっておりましてな。依頼というのは、その原因を退治して欲しいということなのですよ。星界人の皆さんには軽い仕事でしょう?」
「…自警団では手に負えない、と?」
「彼らは貴重な男手でもあるのですよ、怪我でもされると後々に響きます」
「傭兵を雇うというのは?というか兵士とか近くにいないっすか」
村長は薄く笑う。そんなことも知らないのか、ということだろう。
「戦も無い、村も少ないこんな場所を傭兵が訪れるとでも?領主様の兵を送ってもらうにしても、時間がかかる。そこであなたたちです…ことを成せば、物資の売買に応じられます」
足元を見られてる、そうケイは感じる。しかし、取引に応じるにしても報酬が物資だけというのはいかにも業腹だ。
「引き受けるのは吝かでないですが、条件があります。物資の取引だけでなく、地理を教えていただきたい」
有利なはずの相手に粘られたザール顔は渋い。そこでタルタルが口を挟む。
「別に我々だって、今すぐ物資が必要ってわけじゃないんですよ村長さん。駄目なら他を当たればいい。まぁすぐ手に入ればいいなって思ってるのは確かですがね」
しばらく沈黙したあと、ザールは折れた。そもそも金銭を要求してるわけでもないので、後は心情の問題である。
「それで、原因というのは?退治というのですから、生き物。それも人ではなく、獣の類かモンスターかなにかで?」
「モンスター…だと思われますな。家畜が襲われる時間は夜間ばかり。狡猾なやつのようで姿を見せることもありません」
「獣の線が消えてないっすけど?」
「…大型の家畜が鳴く間もなく、一撃で倒され、食われとるのですよ。確かに足跡は獣に似ておりますが、どうも一体しかおらぬよう。番犬も覚える有様です。野犬やそこらのグラスウルフにできることとも思えません」
「分かりました。作戦を詰めていきましょう。我々は騎士であり、探索には疎い。場合によっては少しばかり協力を願いますよ」
ここら一帯を探して歩くのは、効率的とは言えない。結局、夜間の見張りを兼ねた待ち伏せとなる。
三人でローテーションして農場に潜伏、一人に対して猟師の心得があるものが付くこととなった。
夜まで時間があるので、猟師と顔合わせをした。驚いたことに女性だ。革でできた装備にスラリとした身を包み、短い髪は砂色。胸は控えめだが充分に魅力的と言えるだろう。
「トワゾス騎士団のケイです。よろしくお願いします」
「アルレット。…よろしく」
声には硬質の響きがある。得体の知れない星界人との仕事に駆り出されたことといい、なにか事情があるのだろう。女性を相手にするのは得意ではないが、少しぐらい打ち解けたい。なぜだかケイはそう思った。 
こうして警戒されている様を見ると、普通の人間としてはショックが大きい。もっとも、武器を構えられても恐怖心が湧き上がらないあたりは、こちらの世界に来てから感覚が麻痺しているのだろう。
(自分だったらどうだろうか?もし武装した人間が近付いてきたら…)
間違いなく道を変えるか逃げる自信がある。しかし,ここに住んでいる彼らは引くわけには行かないのだろう。鎧姿にも臆するような様子は見えない。
刺激しないように、慎重に歩を進める。近づくと、一人一人の顔まで見えるようになってくる。やはりというべきか、NPCのようには見えない。
トライ・アライアンスは、作り込みが甘いところがあり、NPCの顔は似たり寄ったりであったのだ。しかし、彼らは一人一人が違う人生を歩んできた人間なのだ。
顔に傷のある男がいる。一体過去に何があったのだろう。
若くみえるのに、禿頭の男もいた。何かの理由で剃ったのか?あるいは何らかの教えなのか?
子供を抱きかかえる女がいる。この世界では、子供をどうやってあやすのだろうか。
いかに、彼らと接するか。腹芸、嘘、恫喝?どれも無理のように思えた。いかに超人の身体を手に入れたとは言え、この頭の中身は何の変哲もない現代人に過ぎない。彼らの方が人生経験豊富だと思ったほうが賢明であろう。
ならば誠意をもってあたるしかない…のだが、全てを明かすこともまた無理だ。異世界からこの世界に来ました、などと言おうものなら完全におかしな人だろう。しかも武装した変人だ。
つまり、正直に目的を話しながらも素性は隠す…というありきたりな対応にしかならない。しかし、今後もソレは変わらないだろう。人間的に成長する機会でもあれば別だろうが。
(そもそも言葉通じるのかな、文字はどうなってるんだ?ゲームで読むことになる本などは日本語だったが…)
考えれば考えるほど泥沼だ。しかし、もう村は目の前であり腹を括るしか無い。
出会い頭に戦闘などという最悪の展開を避けるため、入り口の手前で止まったほうがいいだろうと考え、後ろの二人に手で合図を送ろうとする。しかし――
「止まれ!だれだお前たち!巡察の予定など聞いては居ないぞ!」
先に言われてしまった。言われたままに足を止めながら、ケイは心底驚いていた。
(本当に日本語だよ…いや、なぜか理解できるだけで異世界語とか?)
武装した人間が幾人か駆け寄ってくる。門番のような男の声を聞いたのであろう。奥に目を向ければ戸に隠れてこちらを窺う者たちも見えた。
「おい、あの耳…まさかエルフか?」
「小柄なやつはドワーフに見えるが…まさかな」
時間が経つごとにざわめきは大きくなっていく。勢い良く誰何した門番も、大きくなった事態に困惑してるようで近付いても来なければ、目的なども問いたださない。
どうしたものか、と思っているとタルタルが一歩前に出た。
「我々はトワゾス騎士団に所属する星界人である!この村へは物資の補給のために立ち寄った!危害を加える意思は無い!入村の許可を!」
ビリビリと空気が震える程の低い声が響き渡った。『星界人』?とケイが首を傾げていると、グラッシーがこちらにだけ聞こえる声で囁いた。
「アタシらのことっすよ。オープニングムービーで言ってたでしょ」
すいません飛ばしました…とは言えずにケイは見苦しくないよう胸を張る。タルタルはロールプレイ寄りのプレイスタイルであったから、咄嗟にこう言えたのだろう。
自警団らしき人々はヒソヒソと頭を突き合わせている。意を決したのか先程の門番が駆け寄ってくる。
「ただいま村長を呼んでまいりますので、しばしお待ちを…」
丁寧語になっているのは、星界人にどのように接すれば良いのか分からないためであろう。もしくは騎士として接することにしたか。どちらにせよ腰を低くして損は無いという判断だ。
村人たちが少し距離を開けて、こちらを見ている。しばらく時間がかかりそうだ。
「ありがとうございました、タルタルさん」
自分は助けられてばかりだ、とケイは思う。これで団長なのだから、恥じ入るしかない。
しかし、タルタルは頭を振った。
「いえ、ひょっとしたらこの世界では代表者が声を張り上げるものだったかもしれないですし…僕のしたことは余計だったかもしれませんね」
その言葉は少しばかり自信がなさそうで、年長者のような印象がなかった。ふとケイは気付いた。目の前の村人たちも、タルタルもグラッシーも、そして自分も目の前の問題に正解が見つけ出せているわけではないのだ。ただ最善を目指しているだけで。だから自分が劣ると考える必要は無いのかもしれない。
「やっぱりありがとうございますタルタルさん」
きょとんとした顔のタルタルがおかしくて、ケイは思わず笑みになる。
「どうして男の子ってのは、こう面倒なんすかねぇ」
グラッシーのボヤキが妙に耳に残った。
待つのに少しばかり飽きてきた時、一際頑丈そうな男と共に杖をついた老人が見えてきた。
相当に肝が据わっていると見えて、こちらに恐れる様子もなく近付いてくる。目の前に立つと背筋はピンと伸びていた。
「私はギルド【トワゾス騎士団】の団長、ケイと申します。後ろの二人はグラッシー、とタルタル。旅を続けるための食料や、日用品を求めております。代価はお支払いたしますので…」
村長らしき老人は、グラッシーとタルタルを少しだけ見やってから口を開いた。先程の自警団たちの囁きといい、ここではエルフやドワーフは相当珍しいようだ。
「…儂はこの村の取りまとめ役、ザール。生憎とこの村には星界人の方々が使うような店など、ありませんでな…お引き取り願いたい」
目には不信感が宿っている。武装した相手にこれだけ断言できるのは、驚きだ。襲われないという自信があるのか。あるいは星界人との接触に慣れているのか。
どう説得したものかと、考えていると横の偉丈夫が村長に耳打ちをする。目の前で隠し事をされるのは、不快だが、内容がわからない以上文句を言うべきでも無かった。
すると、もう言うことは無いというような顔をしていた村長が、再び言葉を口にする。
「とはいえ、このような村にお越しくださった方々を無下にするのも忍びない。どうですかな、簡単な仕事と引き換えの、取引と参りませんか?」
精神は一般人であるケイにも理解できたことがあった。
(この流れは、確実に厄介事だ…)
村長ザールと自警団の長だという偉丈夫、フェルノーに続いて足を踏み入れる。進むと、想像以上に大きい村だった。グラッシーの偵察で見えなかったのは、家の重なり具合のせいらしい。これならば近隣に農場を開いているのも頷ける。
最奥の建物に通される。建物は質素な作りだが、家具のようなものは机と椅子のみだ。
(集会場、もしくは会議室といったところかな?)
すぐに木椀に入った、温かい飲み物が出される。
薄い茶のような味だが、手持ちの味に飽きていたケイ達は満たされた気分になる。
「では取引の話に入りましょうかの」
「その前に、やはり購入では駄目なのですか?銀貨での支払いでも良いのですが」
村長は少しばかり心を動かされたようだが、それでも首を横に降った。金銭では解決しない事態…とすれば時間的な余裕がないということが考えられる。
厄介事だという予感は的中したようだ。
「最近…この近辺では、家畜が殺害されるという問題が起こっておりましてな。依頼というのは、その原因を退治して欲しいということなのですよ。星界人の皆さんには軽い仕事でしょう?」
「…自警団では手に負えない、と?」
「彼らは貴重な男手でもあるのですよ、怪我でもされると後々に響きます」
「傭兵を雇うというのは?というか兵士とか近くにいないっすか」
村長は薄く笑う。そんなことも知らないのか、ということだろう。
「戦も無い、村も少ないこんな場所を傭兵が訪れるとでも?領主様の兵を送ってもらうにしても、時間がかかる。そこであなたたちです…ことを成せば、物資の売買に応じられます」
足元を見られてる、そうケイは感じる。しかし、取引に応じるにしても報酬が物資だけというのはいかにも業腹だ。
「引き受けるのは吝かでないですが、条件があります。物資の取引だけでなく、地理を教えていただきたい」
有利なはずの相手に粘られたザール顔は渋い。そこでタルタルが口を挟む。
「別に我々だって、今すぐ物資が必要ってわけじゃないんですよ村長さん。駄目なら他を当たればいい。まぁすぐ手に入ればいいなって思ってるのは確かですがね」
しばらく沈黙したあと、ザールは折れた。そもそも金銭を要求してるわけでもないので、後は心情の問題である。
「それで、原因というのは?退治というのですから、生き物。それも人ではなく、獣の類かモンスターかなにかで?」
「モンスター…だと思われますな。家畜が襲われる時間は夜間ばかり。狡猾なやつのようで姿を見せることもありません」
「獣の線が消えてないっすけど?」
「…大型の家畜が鳴く間もなく、一撃で倒され、食われとるのですよ。確かに足跡は獣に似ておりますが、どうも一体しかおらぬよう。番犬も覚える有様です。野犬やそこらのグラスウルフにできることとも思えません」
「分かりました。作戦を詰めていきましょう。我々は騎士であり、探索には疎い。場合によっては少しばかり協力を願いますよ」
ここら一帯を探して歩くのは、効率的とは言えない。結局、夜間の見張りを兼ねた待ち伏せとなる。
三人でローテーションして農場に潜伏、一人に対して猟師の心得があるものが付くこととなった。
夜まで時間があるので、猟師と顔合わせをした。驚いたことに女性だ。革でできた装備にスラリとした身を包み、短い髪は砂色。胸は控えめだが充分に魅力的と言えるだろう。
「トワゾス騎士団のケイです。よろしくお願いします」
「アルレット。…よろしく」
声には硬質の響きがある。得体の知れない星界人との仕事に駆り出されたことといい、なにか事情があるのだろう。女性を相手にするのは得意ではないが、少しぐらい打ち解けたい。なぜだかケイはそう思った。 
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