FANTASY WAR ONLINE

海沼偲

第五十話


「一匹ずつは面倒だよなあ」

 それからしばらく歩いてウサギのいる場所へと行くと、またもや一匹の毛玉が蠢いているのが見える。

「こればっかりはウサギの習性だからな。どうしようもないな」

 しかし、ウッドも遠い目をしながらしゃべっているところを見ると、面倒くさいと思っているのだろう。
 くそっ、これが初心者向けフィールドの弊害か。魔物がパーティを組んで襲ってきてくれない。

「誰がやる?」
「じゃあ私がやるね」

 と言ったらすぐさま、かおるはウサギの方へ駆け出す。ウサギが気づいたころにはもう遅い。目の前にはかおるがいる。今度は拳でいくらしい。かおるは拳を振り下ろす。ウサギはそれを間一髪で避ける。

「くふっ」

 集中のために息を吐くのと興奮からくる笑いが混ざり合って変な声を出している。ウッドたちはこのかおるを見たことがないので驚いたような顔を見せているが、俺にはその顔がとても愛らしく感じる。
 かおるは地面に叩きつけた拳をそのまま横にスライドさせる。ウサギがそれに引っかかりかおるに投げ飛ばされる。おお、結構飛んでいるな。
 しかし、ウサギも負けていない。今度のウサギは空中でバランスを取り綺麗に足から着地する。

「遅いな」

 だが残念だった。その時にはかおるの蹴りが迫っている。避けることはかなわないだろう。そのまま蹴りはウサギの首に吸い込まれていく。

「はい、おわり」
「おつかれ」

 ウッドは首の骨が折れているウサギの死体にナイフを突き刺す。

「よし、次だ次」

 ウッドも張り切っているな。

「今日はウサギ狩りのペースがすごい早いよね」

 感心しているように何度もうなずいているライフ。

「ああ、そうだな。スバルのおかげで探し回る時間が短縮されているし、そのおかげでかなり楽できているよな。いつもなら、探している時間のせいでウサギ狩りにうま味が全くないからな」
「ねー、そうだよね。やっぱりスバルたちがいてくれて助かったよ」

 現金な奴らだ。

「最初はこうなるとは全く思ってなかったでしょ?」
「ま、まあそうだけどね」

 かおるがライフの顔を覗き込むように見つめると、慌てたように視線を外すライフ。俺たちがレベル1なんて普通は思わないよな。常に敵を殺し続けていると俺も思うもんな。あの出会いは奇跡に近かっただろう。

「じゃあ、次行くぞ」

 俺は次のウサギへと案内する。

《只今までの行動により【心眼】がレベルアップしました》

 それからしばらくウサギを四人で交代して倒していく。索敵にはあらゆるスキルを使いながら行っているため、【心眼】もレベルアップした。これにより、目を閉じた時の存在感の輪郭がよりはっきりしてきた。……かもしれない。

「次は俺か」

 というわけで、俺はウサギと相対する。
 いつでも全力で。作業であってはならぬ。真剣にやるのだ。生き物に対する礼儀である。これから命を奪うことに対して目を背けずにい続けるのだ。そうして愛す。敵も愛し、自分が殺しても敵が殺しても愛をもって終え、終わらせるのだ。
 さあ行こう。

「ふっ!」

 変えることはしない。今まで通りに。敵が避けやすく。そして隙があからさまに。だが釣られる。ウサギだからなのか。それがやりやすい。
 今回はコンパクトに振り下ろした。だからこそ、すぐさま反応できる。無理がない。俺の木刀は跳ねるようにして振るわれ、ウサギの頭に直撃する。
 これで終わりである。

「ひゅう」

 脱力。どんな簡単な敵にすら、極度の緊張状態にあえておかせるというのは少しつらいが、気持ちがいい。

《只今までの行動により【刀術】がレベルアップしました》
《只今の戦闘により種族レベルがレベルアップしました》
《任意のステータスに5ポイント振り分けてください》

 ……あ、レベルアップした。レベル2になるのは結構早いんだな。ウサギ数匹でレベル2になるのか。
 じゃあ、ステータスに振り分けなくちゃな。ではでは、どういう風に振り分けていこうかね。

LV2
HP 140/140 (↑40)
MP 230/230 (↑30)

STR 13 (↑2)
VIT 13 (↑3)
INT 10 (↑1)
MND 23 (↑3)
AGI 13 (↑2)
DEX 11 (↑2)
LUK 11 (↑1)

 あー、そういえばスキルの力で成長率がぶっ飛んでいるんだったな。これはやばいなあ。ま、強いからいいか。

「けっこう狩れたし、いったん素材を売りに行こうぜ」

 と、提案するのはウッド。たしかに、一人三匹は狩れている。普通はパーティメンバーに一匹ずつ分けられればいいほうだそうだ。だから、かなり稼げていることになる。いいことだ。

「まあ、それでもいいか」
「じゃあそうしましょ」

 で、俺たちは町へと戻るため、街道の方へと歩いていくことになった。

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