あるバーのマスターの話
『麦の唄』
その日、繁忙期を脱し、その上、保名の仕事の関係で、海外に渡る葛葉夫婦と共にマスターの店に顔を見せた宣子と雄洋は、驚いていた。
「はぁぁ?遼さんに赤ちゃんが!」
「何でもっと早く言ってくれないの?まぁ、お酒は前から飲まないなとは思ったけれど」
遼は、
「ご、ごめんなさい。えっと、一応高齢出産だから、流産の危険もあって、落ち着いてからにしようって……」
頰を赤くしてモジモジする姿に、保名が、
「えっ?高齢出産?まだ二十代でしょう?」
「いえ、恥ずかしいのですが、40前です」
女子会をしていた葛葉と宣子は知っていたが、見えない上に、いつも遠慮がちな遼を逆に同年代として接していた。
女に年は関係ないのである。
その上、葛葉や宣子にしてみれば、童顔でちょこまかしてハムスターのように可愛い遼は親友であり、その彼女の妊娠が自分のことのように嬉しい。
「嬉しいわ。男の子かしら?女の子かしら?」
「マスターはどっちがいいのかしら?」
CDを準備しに行ったマスターは、振り返り苦笑する。
「健康であれば……でも、雄洋さん、雄堯には言わないでくださいね」
「雄堯さん?」
宣子は同僚であり恋人を見る。
「あ、父です。マスターの同級生で……」
「えぇ!マスター、雄洋さん位の子供がいる世代なんですか?見えない!」
「内緒にしてくださいよ。一応若いつもりです」
「いえ、父に比べたら、本当に若いです。うちの父は、タヌキ腹で……」
「お父さんの世代は貫禄があるで良いけれど、雄洋さんは今からはやめてよ?彼女としては私と一緒にスポーツを要求するわ」
宣子は笑いかける。
「なるべくダイエットに励むよ」
「そうしてね?それにしても……あら?」
流れてくる曲は、中島みゆきさんの『麦の唄』である。
「この曲素敵よね。何となく、マスターと遼ちゃんに似てる気がするわ」
「本当」
「遼の好きな曲なんですよ」
遼は、頰を染める。
宣子を中心に、遼の巻き込まれた事件を覚えており、泣きじゃくり怯え、姿を消そうとした遼を引き止めた話は記憶に新しい。
「えと……あの時は本当にありがとうございます」
「親友に謝るなかれ。もっと甘えなさい!」
「私なんて宣子に甘えっぱなしよ?」
葛葉は苦笑する。
「葛葉と私と保名は幼馴染だもの。それに、きつそうに見えて、葛葉ほど泣き虫はいないわよ。いつも保名が探しに行ってたものね」
「本当に、頭が上がらないわ……」
「私もです」
「お局様じゃないわよ。まぁ、先輩もほとんど嫁に行って、私が後輩指導することになったら後輩には裏でそう呼ばれるのよ。なりたくなかったわ……」
「宣子は、呼ばれてないよ。お局様と言われるには嫌味はないし、的確な指導で後輩も何も言えないよ」
雄洋は笑いかける。
「それに、宣子が説明していくことは簡潔で文句のつけようもないよね」
「雄洋は、私を甘やかすんだから」
「本当だって」
マスターは微笑みながら準備したグラスを四人の前に出す。
「どうぞ。今日のカクテルです」
「あら。何?」
「ビター・オレンジです」
遼にはオレンジジュースを渡している。
「麦を使ったビールと麦秋の色のオレンジジュースを使いました。今日は楽しんでくださいね」
「もうちょっと、頑張ろうかしら」
宣子は呟くと一口口にしたのだった。
「はぁぁ?遼さんに赤ちゃんが!」
「何でもっと早く言ってくれないの?まぁ、お酒は前から飲まないなとは思ったけれど」
遼は、
「ご、ごめんなさい。えっと、一応高齢出産だから、流産の危険もあって、落ち着いてからにしようって……」
頰を赤くしてモジモジする姿に、保名が、
「えっ?高齢出産?まだ二十代でしょう?」
「いえ、恥ずかしいのですが、40前です」
女子会をしていた葛葉と宣子は知っていたが、見えない上に、いつも遠慮がちな遼を逆に同年代として接していた。
女に年は関係ないのである。
その上、葛葉や宣子にしてみれば、童顔でちょこまかしてハムスターのように可愛い遼は親友であり、その彼女の妊娠が自分のことのように嬉しい。
「嬉しいわ。男の子かしら?女の子かしら?」
「マスターはどっちがいいのかしら?」
CDを準備しに行ったマスターは、振り返り苦笑する。
「健康であれば……でも、雄洋さん、雄堯には言わないでくださいね」
「雄堯さん?」
宣子は同僚であり恋人を見る。
「あ、父です。マスターの同級生で……」
「えぇ!マスター、雄洋さん位の子供がいる世代なんですか?見えない!」
「内緒にしてくださいよ。一応若いつもりです」
「いえ、父に比べたら、本当に若いです。うちの父は、タヌキ腹で……」
「お父さんの世代は貫禄があるで良いけれど、雄洋さんは今からはやめてよ?彼女としては私と一緒にスポーツを要求するわ」
宣子は笑いかける。
「なるべくダイエットに励むよ」
「そうしてね?それにしても……あら?」
流れてくる曲は、中島みゆきさんの『麦の唄』である。
「この曲素敵よね。何となく、マスターと遼ちゃんに似てる気がするわ」
「本当」
「遼の好きな曲なんですよ」
遼は、頰を染める。
宣子を中心に、遼の巻き込まれた事件を覚えており、泣きじゃくり怯え、姿を消そうとした遼を引き止めた話は記憶に新しい。
「えと……あの時は本当にありがとうございます」
「親友に謝るなかれ。もっと甘えなさい!」
「私なんて宣子に甘えっぱなしよ?」
葛葉は苦笑する。
「葛葉と私と保名は幼馴染だもの。それに、きつそうに見えて、葛葉ほど泣き虫はいないわよ。いつも保名が探しに行ってたものね」
「本当に、頭が上がらないわ……」
「私もです」
「お局様じゃないわよ。まぁ、先輩もほとんど嫁に行って、私が後輩指導することになったら後輩には裏でそう呼ばれるのよ。なりたくなかったわ……」
「宣子は、呼ばれてないよ。お局様と言われるには嫌味はないし、的確な指導で後輩も何も言えないよ」
雄洋は笑いかける。
「それに、宣子が説明していくことは簡潔で文句のつけようもないよね」
「雄洋は、私を甘やかすんだから」
「本当だって」
マスターは微笑みながら準備したグラスを四人の前に出す。
「どうぞ。今日のカクテルです」
「あら。何?」
「ビター・オレンジです」
遼にはオレンジジュースを渡している。
「麦を使ったビールと麦秋の色のオレンジジュースを使いました。今日は楽しんでくださいね」
「もうちょっと、頑張ろうかしら」
宣子は呟くと一口口にしたのだった。
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