【書籍化】マジックイーター 〜ゴブリンデッキから始まる異世界冒険〜
279 - 「眠りの森のダンジョン14―魔女の落とし物」
闇を育むものを倒し、周辺に存在する全てのマナ回収を終えたマサトは、新たに獲得した称号の確認を行っていた。
<ステータス>
マナ喰らいの紋章Lv50(MAX)
ライフ 14/50
攻撃力 8(+7)
防御力 9(+8)
マナ : (白×68)(赤×3870)(緑×1004)(青×1359)(黒×4135)
加護:[炎の翼]
 [火の加護]
 [火吹きの焼印]
 [深闇の加護(称号)] New
装備:呪術師ショウズの命の指輪
※月食の双剣
※茨の国の宝剣ソーン
※雷喰いの円盾
補正:[自身の初期ライフ2倍]
 [+7/+7の修整]
 [召喚マナ限界突破15]
 [火魔法攻撃Lv2]
 [闇魔法攻撃Lv5(称号)] New
 [防御無視攻撃(称号)] New
 [飛行]
 [毒耐性Lv5]
 [疫病耐性Lv5]
 [闇魔法耐性Lv5(称号)] New
 [眠り攻撃無効(称号)] New
 [闇の眷属召喚(称号)] New
称号:[次元を渡り歩く者]
 [深闇の化身を喰らう者] New
 [眠りの森の殺戮王] New
 [闇の支配者Lv1] New
半透明のステータスウィンドウに表示された多くのNewアイコンが目につく。
今回、新たに獲得した称号は、[眠りの森の殺戮王]、 [深闇の化身を喰らう者]、[闇の支配者] の3つ。
[眠りの森の殺戮王] は、茨の国の住民を皆殺しにしたことで得られた称号だ。といっても、既に大半の住民が殺されていた状況だったので、正確には、最後の住民だった魔女を殺したことがトリガーになったのだろう。
獲得条件が厳しいこともあり、[防御無視攻撃化] と [眠り攻撃無効化] という貴重な能力がついていた。特に [防御無視攻撃化] は汎用性が高く、これさえあればどんなに防御力が高い相手でもダメージを通すことができるようになる。
もう1つは、[深闇の化身を喰らう者]。
これ は、闇を育むものを倒し、そのマナを取り込んだことで得られた称号だ。この称号により、闇の眷属というシェイドモンスターをカード媒体なしに召喚できる力と、[闇魔法攻撃Lv5] と [闇魔法耐性Lv5] の能力をもった [深闇の加護] を得ることができたが、本命は間違いなく [闇の支配者] の方だろう。
[闇の支配者] は、マナ喰らいの紋章に匹敵するクラスの力を秘めた「成長する称号」だ。支配者Lvを下回る召喚コストの闇属性モンスターから攻撃されなくなるだけでなく、召喚コストが支配者Lvの半値以下だと強制支配できるという、まさに闇の支配者という名前に相応しい強力な効果をもっていた。
マナ喰らいの紋章Lvがカンストして以降、カードドロップやガチャ以外の成長要素が見込めなかったため、「闇の支配者Lv」という別軸の成長要素が得られたのは運が良いといえる。
一方で、闇を育むもの以上の強敵が明確に存在するという危機感も強まった。
(まだまだ強い奴らがいるってことか。それなら、今は強くなることを最優先とすべきだが……確実に強くなるには、あれしかないか――)
新たなカード入手以外にも、確実に強くなる方法がマサトにはある。
それは、マナ喰らいの紋章の進化――世界喰らいの紋章化だ。
マナ喰らいの紋章の進化には2万マナが必要になるが、マナ喰らいの紋章であったレベルアップ恩恵――『新たなデッキ解放』や『過去に討伐したモンスターのカード化』、『召喚マナ限界突破』を新たに期待できるなら十分価値はあるだろう。
何より、マナを得るだけで紋章が成長し、それが自身の強化へ繋がるというのが大きい。
現時点で、保有しているマナの総量は約1万。
時の水晶で元の時代に戻るために必要なマナは約2万7千である。
どちらにせよ、元の時代に戻るためのマナはまだ圧倒的に足りていない状態なため、マナを有効活用するのであれば先に紋章を進化させておくべきだろう。
(どうせ大量のマナを集めることになるなら、まずは紋章の進化を目指そう。強くなれば、その後のマナ回収も楽になるはずだ)
当面の指針が決まる。
当初こそ、真っ先に時の水晶を回収し、元の時代に戻ることのみ考えてきたマサトだったが、ヴァート達と再会したことで少し心に余裕が出たのだろう。
ステータスを確認しながら空を飛行していると、黒い翼を生やしたヘイヤ・ヘイヤが近付いてきた。
その手には黒い長杖が握られている。
「それは……あの魔女が使っていた杖か?」
「あひゃひゃ。そうだひゃ」
マサトはヘイヤ・ヘイヤから杖を受け取ると、装備できるかどうか試すため、適当にマナを込めた。
すると、杖が赤く輝き始める。装備成功だ。
【SR】 雷眼の鍛冶神アルゲスの黒杖、(赤×3)(3)、「アーティファクト ― 装備品」、[雷魔法攻撃Lv5][雷雲操作Lv3][装備コスト(赤×3)][耐久Lv5]
「雷眼の鍛冶神アルゲスの黒杖。ステータス補正はないが、追加効果は [雷魔法攻撃Lv5] と [雷雲操作Lv3] か。耐久Lvも5と高い。良い武器だ」
「おひょひょ。それは食えないから不要だひゃ。好きにするだひゃ」
ヘイヤ・ヘイヤには、耐久Lv2以下の魔導具を捕食できるという悪食能力があるが、どうやらこの杖を食べるつもりで拾ってきたようだ。
「ありがたくもらっておく」
「あひゃひゃ」
そのままヘイヤ・ヘイヤとともにヴァート達がいる森へと戻る。
上空からだと頭一つ分大きく突き出ている大木の精霊ウッドがいるため、一面に広がる樹海の中でも見失うことはない。
マサトが地上へ降り立つと、ヴァートが目を輝かせながら駆け寄ってきた。
「父ちゃん! お帰りなさい!!」
「ああ、ただいま」
「敵は!? もうやっつけた!?」
「全て片付けた。そっちは?」
敵が周囲にいないことは、召喚モンスターとの繋がりで既に知っていたが、話の流れで聞いたにすぎない。
だが、状況を聞かれたヴァートは嬉しそうに答えた。
「こっちは結構ヤバかったよ。倒しても倒しても減らなくてさ。それに瘴気が凄くて他の皆も満足に戦えない状態だったりしたから。おれは元々その手の免疫があるから平気だったけど」
「そうか。そんな中で、よく頑張ったな」
マサトに頭を撫でられ、恥ずかしそうに目をつぶりつつも「へへへ」とヴァートが喜ぶ。
「でも、父ちゃんが護衛につけてくれたシェイドと光の戦士がいなかったら正直危なかったよ。うじゃうじゃ湧いて出てきた敵も、大きい爆発があった後に、勝手に全部消えちゃっただけだし。でもあれって、父ちゃんがやったんだよね?」
「多分、そうかな」
「やっぱり! さすが父ちゃんだ!!」
ヴァートが尚もマサトを称賛し続けると、さすがに痺れを切らしたのか、光の膜の中にいたララ・ラビット・アクランドが不満を口にする。ララは、帝国では名の知れた小人族の最上位支援魔法師だ。
「お喋りもそのくらいにして、いい加減この鬱陶しい瘴気をどうにかするかしら! 腕がもうぷるぷるいってるのよ! 限界かしら!」
よく見ると、光の膜を展開するために上に伸ばされたララの短い両腕が、小刻みに震えていた。戦いの間、休むことなくずっと両腕を伸ばしていたのだろう。
光の膜の中には、マサトが召喚した野犬の他、マサトを見て安堵した表情を見せた緑狼族のアタランティスと、少し疲れた様子で手を振る帝国の元王子――グリフィス・キング・ヴィ・ヴァルト、それと、道案内役として雇ったBランクパーティ「白い冠羽」のメンバーがいた。
白い冠羽のリーダーであり、トップの白髪とサイドのピンク髪が特徴的な上級剣士であるモイロは、息も絶え絶えな様子で、地面に大の字で寝転んでおり、そのモイロに癒し手であるタスマが回復魔法をかけているところだった。
魔法使いであるニーマと、モイロの弟であるガラーがその様子を見守っていたが、今は帰還したマサトにびくびくしながらも、少し安堵した表情をみせたので、命に別状はないのだろう。
マサトは視線をララに戻す。
「それは無理だ。この疫病散布を解除する方法は知らない。そのうち自然に希薄化するとは思うが」
「ありえないのよ!? もし防ぐ術がなかったらどうするつもりだったのかしら!? 下手したら全滅だったのよ!!」
「そこまで強力だとは思わなかった。でも現に対処できる程度だっただろ?」
「それはララがいたお陰なのよ! 激しく感謝するかしら!!」
「感謝してる」
「わ、分かれば良いかしら」
素直に感謝されたことで、少し動揺するララ。だが、さすがに上げたままの腕が辛いようで、顔が引きつっている。
「このままダンジョンの出口まで、その光の膜を維持したまま移動できるか?」
「そのくらいなら我慢するのよ」
「頼んだ」
「頼まれたかしら」
次にマサトは、青白い顔をしながら、ふらふらとおぼつかない足取りで歩いてきたアタランティスに声をかけた。
「どうした?」
「アタランティスは人一倍瘴気に敏感なのよ。それで弱りきってるかしら」
「それなら早くここを出た方が良いな」
「す、すまない。結局足手まといに……」
「いや、アタランティスの合図は十分助かった。辛いなら俺がおぶってやるから……」
「それは止めた方が良いかしら。セラフの身体からは濃い瘴気がぷんぷん漂ってくるのよ。身体をどこかで浄化するまで離れてるかしら」
「そ、そうか……わかった」
ララの言葉に、マサトは多少傷付きながらも、後退るように距離を取る。
「そういえば、パークスはどこに?」
マサトが聞くと、ちょうど背後で気配があった。
「私はここにいますよ」
パークスだ。今はどういう経緯か、マサトの息子であるヴァートの師匠となっていたが、15年前はローズヘイムの暗殺ギルド「後家蜘蛛」所属の最強の構成員だった男だ。
魔力消失というチート級の能力と、強力な真空の使い手でもあるパークスは、紛れもない強者だが、白い服は血に汚れ、目に見えて分かる程度には負傷していた。
その姿を見たヴァートが驚き、急いでパークスの元へ駆け寄る。
「し、師匠!? その傷は!?」
「少々手こずりましてね。見たこともない闇の魔物が出てきたもので。それが中々しぶとくて困りましたよ」
パークスが銀色の縁の眼鏡を指先で押し上げながら、マサトに視線を移す。
「あなたからいただいた光のロザリオには助けられました」
「それは良かった。回復薬は必要か?」
「いえ、この程度であれば自力で治せるので、お気遣いは不要です」
「そうか、なら長居は無用だ。ここを出よう。もうここには用がない」
座っていたメンバーが移動のために立ち上がると、キングが背伸びをしながら口を開いた。
「そういや、あのでかい木のモンスターは置いてくのか? さすがに洞窟を通れる大きさじゃないよな」
「そうだな……」
キングの言葉に、マサトが考える。
対象モンスターを手札に戻せるカード――手札送還は残り2枚。
瀕死でも緊急時でもない対象に使うのは勿体ない。更に、ウッドには再召喚時に再び生贄が必要になるデメリットがあるのだ。
だが、貴重な大型戦力なのも事実。
捨て置くには勿体ないと思えるくらいの活躍はしたので、手札送還を消費するだけの価値はあると判断した。
「連れて帰る。手札送還」
掌を大木へ向けて手札送還を行使。
圧倒的な存在感を放っていた大木モンスターを一瞬で消し去ると、皆が驚いた顔でマサトを見た。
ララが口を開く。
「……何をしたのかしら」
「手札に戻した」
「そんなこともできるなんて、卑怯すぎるのよ」
そう愚痴をこぼしたララだったが、皆の驚きは直後にマサトの背後に降り立った悪魔によって上書きされた。
「な、なんだあいつは!? 最上級悪魔!?」
「どういうことらしら!? まさか!?」
キングとララが真っ先に驚きを口にし、平然としているマサトを見て言葉を失う。
「俺が召喚した。こいつがヘイヤ・ヘイヤの真の姿だ」
「こいつがヘイヤ・ヘイヤ……話には聞いてたが、あの小さい兎人族の身体の中身がこんな化け物だったなんてな……」
「もう疲れたのよ……」
結局、ヴァートだけが「父ちゃんすげぇー!」と大称賛した。
アタランティスもマサトを称賛しようとしていたが、どうやら意識を保つので精一杯だったらしく、暫くして気を失ってしまった。大分無理をしていたようだ。
キングにアタランティスを担いでもらい、マサトと一緒に降り立った最上級悪魔の迫力に完全に怖気づいてしまったモイロ達を連れて、一同は眠りの森を後にする。
出入り口となる洞窟を塞いでいた茨は消えていた。茨の国の宝剣ソーンの持ち主が変わった影響だろう。
以前の持ち主であった王女が、別の次元を繋ぐダンジョンの出入り口――ゲートを封鎖したのは、侵入者が茨の国へ入ってくるのを防ぐためだったに違いない。結果として、侵入者であるマサト達の退路を断つ形になってしまっていたが。
ダンジョンを攻略し、多くの称号を入手できた達成感と、罪なき人達を虐殺したという罪悪感を感じながら、マサトは光の届かない暗い洞窟を潜る。
一同が洞窟を抜けると、眠りの森へと続くゲートとなる洞窟は、跡形もなく消え去ったのだった。
▼おまけ
【UR】 眠りの森のダンジョン、(緑×3)、「土地 ― ダンジョン」、[マナ生成:(緑)][(虹×3):茨の国の大賢女ランダム召喚1]
「太古の昔に、別の世界からやってきた悪魔との壮絶な戦争があった。山は削れ、森は枯れ、疫病が蔓延し、その地に生きる者は全て息絶えた。月日は流れ、数多の亡骸が眠るその場所にも緑が戻ると、別の世界からやってきた者たちが住み付き始め、再び国ができた。歴史を尊ぶ賢女は、城の跡地で発見した史書を復元し、過去の出来事を知ると、追悼の意味を込めて、その地に名を付けた。偉大なる賢人達が眠る、眠りの森と――茨の国の史書」
――――――
<補足>
この話からまた少しステータス表記(ルール)を変えました。
前回との互換性は一部なくなりますが、これが最新の状態ということで。
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