【書籍化】マジックイーター 〜ゴブリンデッキから始まる異世界冒険〜

飛びかかる幸運

248 - 「プロトステガ攻城戦7―兎の皮」


 肉が焦げ、血が蒸発し、それらが凄まじい勢いで周囲へ噴出する。

 圧倒的な数で迫る眠り鼠ドーマウスも、灼熱の炎を何重にも纏ったマサトには届かなかった。


眠り鼠ドーマウスは防げる。これは予想通りだが……)


 ガルダンの魔法銃ですら防いだ炎の膜は、眠り鼠ドーマウスの群れの海へ飛び込んでも恐るべき火力を発揮したが、視界は吹き上がる煙やら蒸気やらで埋め尽くされてしまっていた。


(さすがにこれだけじゃ退かないか。これじゃあ見つけようがない。だが、それなら――)


 マサトが両手を広げ、周囲へ炎を押し出すように展開する。

 一瞬、炎が眠り鼠ドーマウスの群れに押し戻されるも、赤マナを惜しみなく注ぎ込むことで強引に押し返した。

 そして、一気に爆発させる。


「ハァッ!!」


 マサトを中心に発生した爆風が、周りの眠り鼠ドーマウスを根こそぎ吹き飛ばすと、それをきっかけに、眠り鼠ドーマウス達が引き波の如く一斉に引き始めた。

 ようやく床が露出し始め、ぐったりと横たわる鷲獅子グリフォン二匹と、背赤セアカと思わしき女性が二人が姿を現す。

 それだけでなく、後家蜘蛛ゴケグモの構成員と思わしき黒ローブ姿の者達も続々と見え始めた。

 皆、纏めて眠らされた上に、大量の眠り鼠ドーマウスの下敷きになっていたのだ。

 味方諸共焼き払ってしまわないか少し心配していたマサトも、彼女らの無事な姿にほっと胸を撫で下ろす。

 マサトが放った灼熱の熱波は、眠り鼠ドーマウスが肉壁となり、床に倒れていた者達までは届かなかったようだ。


(外傷はなさそうだが。まだ息はあるのか?)


 マサトが近くの背赤セアカへと近付こうとすると、眠り鼠ドーマウスが引いた視界の端に、人影が映った。

 その人物から放たれる異様な雰囲気に危険を察知し、瞬時に振り向く。


(誰だ!?)


 視線を向けた先には、服がぼろぼろに破け、茶色い毛並みが露出した、鼻周辺と手足だけが白い兎人――ヘイヤ・ヘイヤが立っていた。

 頭に生えたボサボサの髪のように長い毛が前髪のように垂れ、血の様に真っ赤な縦長の瞳孔を不気味に隠している。

 毛に隠れたその眼球から放たれるのは狂気そのものだ。


「お前がヘイヤ・ヘイヤか?」

「あひゃひゃ。今度は凄い客人がきたんだひゃひゃ」


 そう涎を撒き散らしながら話すヘイヤの肉体が、ぼこぼこと蠢きながら膨れ上がる。

 兎人の小さな顔はそのままに、肉体だけが肥大化し、瞬く間に上半身の筋肉が異常に発達した怪物へと変貌した。


「あひゃひゃ、あひゃひゃひゃ――」


 ヘイヤ・ヘイヤは狂ったように笑い続けると、突然、息を大きく吸い込み、胸部を肥大化させた。


(何か仕掛けてくるッ――!!)


 そう判断したマサトは、その攻撃を受ける選択を取らず、逆に一瞬の隙を攻めた。


大地を穿つ青い稲妻ライトニング・ボルトッ!!」


【UC】 大地を穿つ青い稲妻ライトニング・ボルト、(赤)、「インスタント」、[雷魔法攻撃Lv3]


 【C】 ショックボルト、(赤)、「インスタント」、[雷魔法攻撃Lv2]の上位互換となる簡易魔法インスタントカードだ。

 発動や詠唱硬直はショックボルトに劣るが、その差は大きくなく、相手の行動を見てからの発動でも先手を取れる優秀な魔法でもある。

 詠唱直後、視界を白く明滅させる程の強力な閃光が迸り、極太の青い稲妻が、ヘイヤ・ヘイヤの膨れ上がった胸部を穿った。


「ぎゃひゃひゃ!?」


 笑声のような悲鳴をあげ、身体を硬直させたヘイヤ・ヘイヤの破かれた胸部から、大量の黒い光の粒子が噴き出す。


(あれは――黒マナか!?)


 マサトの読みは当たっていた。

 ヘイヤ・ヘイヤは、その大量の黒マナで眠り鼠(ドーマウス)を召喚し、マサトへ直接打ち当てようとしていたのだ。


(あれがマナなら――)


 そのマナへ向け手を伸ばす。


「マナよッ!!」


 マナであれば回収できるはず。

 そう考えて即座に念じると、ヘイヤ・ヘイヤの穴の間胸部から噴き出していた黒い光の粒子が、マサトへと向きを変えた。


「おひょひょ!?」


 ヘイヤ・ヘイヤが驚き、黒く、紅い瞳が大きく見開かれる。

 そして、そのマナがマサトの胸へと吸い込まれるのを確認すると、不気味な笑い声あげ――


「あひゃひゃひゃひゃーーーーー!!」


 弾けた。

 茶色い毛の生えた皮膚が破れ、内側から黒い靄が大量に噴き出す。

 その靄は瞬く間に周囲へ拡散し、視界が再び奪われる。


「ちっ……」


 マサトが目を細めたその刹那、黒い何かが、何重もの炎の膜を貫いた。


(なっ!?)


 咄嗟に腕をクロスして防御姿勢を取る。

 その判断は正しかった。

 瞬く間に肉迫した黒い何かは、避ける暇も与えずマサトを襲った。


「ぐっ!?」


 凄まじい衝撃とともに視界がブレれ、それを受けた両腕がメキメキと悲鳴をあげる。


(これは――拳!?)


 マサトを襲った黒い物体は、30cmくらいの幅がある大きな拳だった。


(くそッ!!)


 このままでは両腕を折られると判断したマサトは、抵抗をやめて背後へと飛び退き、衝撃を殺す。

 凄まじい殴打を受けた反動と、後方へ飛び退いた勢いが合わさり、マサトは勢い良く城の外へと殴り飛ばされた。

 結果的に黒い靄の中から抜け出した形になったことで、視界が戻る。

 すぐさま炎の翼ウィングス・オブ・フレイムを広げて減速し、体勢を戻す。

 あの黒い拳を受けた両腕は、どうやら無事なようだ。


(痺れはあるが折れてはいない。あのまま受けていたら恐らく折れていた。あの攻撃は普通じゃない。受けるのは不味い)


 素早くステータスを確認する。

 ライフは40/50。

 飢えるファージの [毎ターン:ライフ2点を失う] により、既に6点のライフを失っていた状態だったため、あの一撃で4点ものライフが削られた計算となる。


(不意を突かれたとはいえ、ちゃんと防御はした。こっちの防御力は8。それで4点のダメージなら攻撃力は12か? もしくは防御力を無視する攻撃か)


 どちらにしても厄介だと考えながら、もはや大半の壁が崩れ去った城へと目を向ける。

 殴り飛ばされてきた穴からは、茶色い眠り鼠ドーマウスの群れではなく、黒い靄がもくもくと溢れ出しているだけだが、マサトはより集中力を高めた。


(奴が出てくる)


 マサトが感じた気配通り、その靄の中からヘイヤ・ヘイヤがゆっくりと姿を現した。

 その姿は、以前の兎人などではなく、二本の立派な黒い角を頭から生やし、蝙蝠のような黒い翼を広げた悪魔デーモンの姿だった。

 マサトを殴り飛ばした大きな拳に太い腕。

 身長は3m近くあり、体全体が逆三角形に見えるほど、上半身の筋肉が肥大化している。

 以前のヘイヤ・ヘイヤと変わらない点は、血の様に真っ赤な縦長の瞳孔と、常闇の様に濃い黒一色で染まった眼球。ウサギのように上下に鋭く伸びた二本の門歯に、狂ったような笑い声だけだ。


「あひゃひゃひゃひゃ。宴だひゃ。楽しい楽しい宴の始まりだひゃひゃひゃ」


 ヘイヤ・ヘイヤが両手を広げ、空を向き、心底楽しそうに笑みを作り――禁断の呪文を口にした。


一つ目の浮島巨人兵ギガス・サイクロプス達よ! 宴の時間だひゃひゃひゃ! 巨人兵の踏み荒らしギガス・オーバーラン!!」

「なに!?」


 大地が震え、四方から無数の雄叫びが木霊する。

 浮島プロトステガに住む全ての一つ目の巨人サイクロプスを呼び覚まし、全てを破壊し尽くすまで止まらぬ攻撃命令を与えるその呪文は、ワンダーガーデンの北部、スペード領を火の海へと変えた大型魔法ソーサリーだ。
 

「あれが、全て一つ目の巨人サイクロプスなのか……?」


 夜空に放たれた無数の光の線を見上げる。

 プロトステガ攻城戦は、まだまだ始まったばかりだった。


▼おまけ

【UC】 巨人兵の踏み荒らしギガス・オーバーラン、(赤×3)(5)、「ソーサリー」、[巨人一時強化+3/+3] [一時能力付与 防御無視攻撃化]
「ライオスとの長年の因縁に終止符を打ったのは、勝利でも敗北でもなかった。巨人達の汚い足だったのだ――プロトステガの囚人ユニコス」



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