【書籍化】マジックイーター 〜ゴブリンデッキから始まる異世界冒険〜

飛びかかる幸運

247 - 「プロトステガ攻城戦6―再会」


 海亀ウミガメの魔法使いだった者達が、煙をあげて闇夜に消えて行く。

 マサトとの戦闘で大分数は減ったが、依然として空を飛び回る魔法使いは多い。


(まだ湧いて出てくるか。だが、海亀ウミガメの魔法使い程度であれば、圧倒できる)
 

 空中戦において、速さはそれだけで強さとなる。

 人が飛ぶには過剰な出力を出せる炎の翼ウィングス・オブ・フレイムを、身体の一部のように使い熟せるようになったマサトに、速さで勝てる魔法使いはいなかった。

 だが、魔法使い達もただ闇雲に戦っていた訳ではない。

 陣形を変え、魔法を変え、あの手この手でマサトに立ち向かった。

 だが、膨大な魔力マナで強引に魔法を相殺する術を覚えたマサトには通用しなかっただけだ。


(このまま魔法使いを殲滅するべきか…… それとも攻め込むべきか……)


 そう迷ったマサトの視界の先で、ヘイヤ・ヘイヤの城が再び爆発した。

 壁が崩れ、そこから煙がもくもくと舞い上がる。

 すると、その煙の中から何かが飛び出してきた。

 黒い鷲獅子グリフォンだ。

 その背には黒いローブを羽織った黒髪の女が跨がっており、同時に壁から大量に溢れてきた茶色い何かに向けて連続で火魔法を放っていた。

 黒髪の女を見た瞬間、マサトの身体をビリビリと電気のような痺れが走る。


「あれは――」


 互いが察知し合うのは不可能なほどに、二人の距離は大きく離れている。

 だが、その黒髪の女は何かに驚き、勢いよくマサトの方へ振り返った。


黒崖クロガケ!?」

「マサトッ!?」


 二人の声が重なったであろうその時――

 先程よりも大きな爆発とともに、茶色い何かが、迫りくる荒波の如く溢れ出してきた。



「くっ、ブラックウィドウ!!」


 ――グィォォォオオオォォォオオオン!!


 黒崖クロガケの言葉に、漆黒の大鷲獅子サーグリフォン――ブラックウィドウが瞬時に反応し、大咆哮バインドボイスを発する。

 その圧倒的な咆哮は、茶色い波を一時的に押し返した。

 すかさず黒崖クロガケが炎を放ち、焼き払いにかかる。

 だが、その茶色い波の勢いはそれだけでは止まらなかった。

 炎で焼かれながらも黒崖クロガケを囲むように左右に大きく広がると、その体積を増やして再び黒崖クロガケ達を飲み込もうと襲いかかったのだ。

 瞬時に不味いと判断したマサトが、炎の翼ウィングス・オブ・フレイムの出力を最大にし、黒崖クロガケへと向かう。

 その過程で、大量の魔力マナを圧縮させた火球を作り始める。


黒崖クロガケ! 退けッ!!」


 マサトが叫ぶ。

 漆黒の大鷲獅子サーグリフォンが翼を大きく羽ばたかせ、茶色い何かとの間に風の壁を作ると、素早く体を翻し、その場から離脱しようと空を駆けた。

 だが、発生させた風の壁をも、その圧倒的な質量で飲み込だ茶色い波が迫る。


「させるかァッ!!」


 火球とは呼べぬ程に圧縮され、光り輝く玉のようになった火球を放つ。

 その火球は光の如き速さで標的へと到達し、茶色い波を破り、城の壁ごと吹き飛ばす大爆発をあげた。

 爆炎が茶色い波を飲み込み、更に黒崖クロガケがまたがる漆黒の大鷲獅子サーグリフォンへと迫るも、ギリギリのところで脱出に成功する。

 上空に退避した黒崖クロガケが、同じく上昇してきたマサトに話しかける。

 その顔はマサトを睨んでいるように思えたが、頬は赤く、瞳は潤んでいた。


「マサト! ようやく、ようやく会えた……」

「本当に、黒崖クロガケか」


 黒崖クロガケを見つめ、意識を集中する。

 だが、以前は感じられた繋がりは感じられなくなっていた。

 念で話しかけても、黒崖クロガケは訝しむだけだ。


(俺の支配下から外れたのか)


「どうした?」

「召喚した時にあった繋がりは、なくなってしまったんだな」

「そうだな。それはお前が消えた瞬間にすぐ感じた。お前が召喚した者達は皆同時にそれを感じ取っただろうな」

「そうか…… 悪い。迷惑をかけた」

「私はお前から謝罪の言葉を聞きに来た訳ではない。だが、私を前にして言いたいことは、本当にそれだけか?」


 黒崖クロガケの言葉の意図が掴めず、マサトが疑問に思う。

 すると黒崖クロガケは続けた。


「お前が消えてから15年だぞ? お前と会うのは15年振りだ」

「ああ、そういうことか」


 改めて黒崖クロガケを見つめる。

 頬にかかる黒髪は月明かりに照らされ、その奥に見える意志の強い紅い瞳を焦らすように隠し、張りの良い赤い唇は、こちらの視線を無意識に惹きつける。


「綺麗だ」


 心に浮かんだ感情が、自然と口から出る。


「綺麗になった」


 現に、以前の憮然とした黒崖クロガケの面影はあるものの、目の前の黒崖クロガケは別人にも見えた。

 痩せ過ぎていた身体は魅惑的な曲線へと変わり、謎めいた色気はそのままに、大人の余裕を感じさせる雰囲気をもつ魅力的な美女へと変わっていた。


「以前にも増して、凄く魅力的になった」


 それは紛れもなく、マサトの本心だった。

 意外な言葉の連続に、眼を丸くした黒崖クロガケは、口元に揶揄いの笑みを浮かべた。


「フンッ、老けたと抜かしたら殺してやろうと思っていたが、合格だ。良いだろう。未来に飛ばされるという失態を犯したお前の追及は後だ」


 そう話すと、まるで照れた顔を隠すかのように、すぐさま顔ごと視線を城へと向けた。


「今は先にあの問題を片付ける」


 二人が話している間にも、城からは大量の茶色い何か溢れ出し、桃色の草原を飲み込もうとしていた。


「あれは何だ?」

「あれは海亀ウミガメの王、ヘイヤ・ヘイヤが使役している眠り鼠ドーマウスだ」

眠り鼠ドーマウス…… あれ全て鼠なのか?」

「そうだ」

「異常な数だな。だとすれば、それを使役するヘイヤも強敵か?」

「厄介な相手ではある。見た目は兎人の雄だが、中身は全くの別物だ。奴は、兎人の皮を被った最上級悪魔ジェネシス・デーモンだろう」

最上級悪魔ジェネシス・デーモン…… フラーネカルと同類か。分かった。城の中に味方は?」

背赤セアカが二人、それと後家蜘蛛ゴケグモの部下が数十人。全員、突如湧いて出たあのネズミの群れに飲まれた。後は、スペード領の元領主、ライオス・グラッドストン伯爵とユニコス・ディズレーリ伯爵が牢に捕えらえられている。その二人を生きたまま救出できれば、後の作戦に活かせるが。必ず必要な訳ではない」

「全員は厳しそうだが――分かった。行ってくる」

「なっ!? ま、待てッ!」


 炎の翼を広げ、下降体勢に入ったマサトを黒崖クロガケが止めた。


「何だ? 早くしないと手遅れになる」

「あの中に突っ込むつもりか!?」

「他に手はない。俺なら大丈夫だ」

「危険だ! 眠らされたらそこで終わりだぞ!?」

「近寄らせなければ大丈夫なはず。それとも諦めるのか? 背赤セアカの二人を」

「あの状況では仕方ない」


 眼を細め、悔しそうにそう呟いた黒崖クロガケを見て、マサトの迷いが消える。


「そうか。じゃあ俺は行く」


 その言葉に、黒崖クロガケが勢い良くマサトへ振り向いた。


「なっ!? お前は何を聞いていたッ!?」

黒崖クロガケの意見を聞いていた。その意見を聞いた上で、俺は行くと決めた」


 黒崖クロガケが何か言いたそうに歯を食いしばる。

 だが、その言葉を飲み込むと、鋭い眼付きでマサトを見つめた。


「策があるんだな?」

「この島ごと撃ち落とす手段ならある。が、背赤セアカ達を助けられるかどうかは、やってみないと分からない」


 黒崖クロガケが眼を見開く。

 自分達がマサトの枷となってしまっていたと気付いたからだ。

 マサトは少しだけ黒崖クロガケへと振り向く。


「やれることはやる。その上で駄目なら諦める。それでいいな?」

「……分かった。それで構わない」


 黒崖クロガケが渋々頷く。

 マサトに要らぬ行動をとらせてしまう結果に繋がってしまったことが、黒崖クロガケには不服だったのだ。

 だが、マサトに気にした様子はない。


「空には海亀ウミガメの魔法使い達が飛び回っている。今はファージ達が相手をしているが、念のため気を付けろ」

「私を誰だと思っている」


 そう豪語する黒崖クロガケに、マサトは過去の光景と重なった。


(仲間を置いて俺が突貫する…… これは…… 考えろ。黒崖クロガケは強い。強いが、この敵陣の中に置き去りにしていいのか――?)


 一瞬だけ考えるも、答えはすぐ出た。

 不安が少しでもあれば、対策するべきだ、と。


黒崖クロガケを信用していない訳じゃない。ただ、それだと俺が安心できないから護衛を残していく――ダック・ガルダンの風魔導士、召喚」


 風魔導士の他に、飛び立つ鳥人族のアヒル種ダック・ガルダンも4体ほど立て続けに召喚。

 空に白い翼を広げたガルダンが5体出現した。


【UC】 ダック・ガルダンの風魔導士、1/2、(青)(2)、「モンスター ― 鳥人」、[飛行] [風魔法攻撃Lv1] [(青):一時能力付与 飛行速度強化Lv1]

【C】 飛び立つ鳥人族のアヒル種ダック・ガルダン、1/2、(青)(1)、「モンスター ― 鳥人」、[飛行]


「風魔導士がいれば、一時的に飛行速度を強化できる。これなら空を追ってくる魔法使い達にも有利に戦えるはず。もし一つ目の巨人サイクロプスが出てくるようなら、すぐ離脱しろ」

「フンッ、過保護な奴め」


 そう答えた黒崖クロガケの口元は笑っていた。


黒崖クロガケ、変わったな。表情が豊かになった)


 召喚モンスターの一人でしかなかった黒崖クロガケが、自身の支配下から離れ、15年間の年月を経て大きく変わった。

 身体だけでなく、心もしっかりと成長している。

 その事実に、マサトが驚きと少しの寂しさを抱いていると、黒崖クロガケは満足したのか、話を戦いの事へと戻した。


「私は暫く上空に待機しているが、危なくなったら撤退する。私の居場所は――護衛を通してお前にも伝わるはずだったな?」

「余程遠くに離れていない限りは」

「それならいい。私の事は気にせず自由にやれ」

「そのつもりだ。ガルダン達は死ぬ気で黒崖クロガケを守れ」

「「「クワッ!!」」」


 黒崖クロガケ達を空に残し、マサトは城へ向けて一気に加速する。

 そして、身体に何重もの炎を纏うと、眠り鼠ドーマウスの群れの中へと飛び込んで行った。


▼おまけ

【C】 眠り鼠ドーマウス、1/1、(黒)、「モンスター ― ネズミ」、[眠り付与Lv1]
「煮て良し! 焼いて良し! 揚げて良し! このネズミを養殖できれば大儲け間違いなしにゃ!!――猫目の料理人、クルネコ」

【R】 眠り鼠ドーマウスの群れ、*/*、(黒)(2)、「モンスター ― ネズミ」、[眠り鼠ドーマウスの群れの攻撃力と防御力は、支配下にあるネズミの数に等しい] [(黒)(1):眠り鼠ドーマウス1/1召喚1] [眠り付与Lv*]
「昔、眠り鼠ドーマウスを養殖しようとした間抜けがいたにゃ。その間抜けがどうにゃったか知りたいかにゃ? そうにゃ。増え過ぎた眠り鼠ドーマウスにいつの間にか眠らされて、逆に喰われて死んだにゃ――猫目の死人しびと、クルネコ」


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