【書籍化】マジックイーター 〜ゴブリンデッキから始まる異世界冒険〜
246 - 「プロトステガ攻城戦5―圧倒」
鷲獅子騎士と海亀の魔法使い達との交戦領域を突っ切り、プロトステガ上空へと躍り出ると、推進力として噴射させていた炎を止め、滞空するために三対の紅蓮の翼へと切り替える。
(本当に、ここに黒崖が来てるのか……?)
巨大な亀の形をした浮島――プロトステガには、大きく3つの区分がある。
1つ目は、プロトステガの信者達が住む市街区。
2つ目が、その都市から少し外れた、一面桃色に輝く草花が咲いた小高い丘の上にあるヘイヤ・ヘイヤが住む居城区。
そして3つ目は、それらを半円だけ囲うように聳え立つ山岳区だ。
山岳区は一つ目の浮島巨人兵の住処になっている。
黒崖がいる可能性があるとすれば、市街区か居城区だが、市街区で戦闘が行われた様子はなかった。
だが、居城区では戦闘があったのか、複数の煙があがっていた。
(あそこか……?)
全身で月明かりを浴びながら、炎の翼を悠々と広げ、堂々とプロトステガ全体を見下ろす。
その姿はとても威圧感があり、兎に角目立っていた。
マサトとしては、これで黒崖から何かしら合図があれば良いと判断しての行動だったが、当然、真っ先に反応したのは黒崖ではなく、その場で交戦していた鷲獅子騎士とプロトステガの魔法使い達だった。
鷲獅子騎士達は、炎の翼を広げる突然の訪問者を警戒し、安全に距離を取る判断を下したが、海亀の魔法使い達はマサトを新たな敵と判断。標的をマサトに変え、すぐさま迎撃態勢をとった。
黒い靄を後方へ吐き出しながら迫る魔法使いの数は、瞬く間に十を超え、それまで飛び交う鷲獅子騎士を狙い撃ちしていた一つ目の浮島巨人兵ですら、その大きな瞳をマサトへ向け始める。
(大量に釣れたな……)
他人事のように、冷めた眼で接近してくる者達を見渡す。
すると、そのうちの一人と目が合った。
真っ黒に染まった瞳に、狂気的な笑みを浮かべながら短杖を構えた魔法使いだ。
(こいつらは、皆こんな感じなのか? まぁいいか。善人を相手にするより、気狂い相手の方が気が楽だ)
マサトはその魔法使いに狙い定め、手をかざし、火球を連続で二発放つ。
一発目は弱く、二発目は強めに放った。
魔法使いはマサトの無詠唱と、発現した火球の大きさに驚き、目を大きく見開くも、寸前のところで迫る火球を回避してみせた。
だが、次の瞬間、一発目の火球に二発目の火球が追いつき、大爆発を起こした。
魔法使いは一瞬で灼熱の爆風に飲み込まれ、短い悲鳴とともに爆炎の中へと消える。
その直後、爆炎の中から勢いよく吹き飛んだ魔法使いに意識はなく、身体に身に纏っていた黒い靄は霧散し、黒いローブは赤く燃え上がっていた。そして、無造作に回転しながら落ちていった。
(脆いな)
魔法使い故に、魔法耐性のある装備を付けていそうなものだが、火球同士の衝突で発生した爆発による衝撃には耐えられなかったようだ。
[魔法攻撃Lv2] による火球は、弾速が大して速くない上に、直線的でその軌道も読みやすい。
そのため、マサトは躱されること前提で火球同士をぶつけ、その爆発でダメージを負わせようと考えたのだ。
そして、それは正解だったようだ。
(この手は使える)
確かな手応えを感じ、余裕を見せるマサトとは対照的に、魔法使い達は警戒レベルを大きく引き上げた。
直進的な接近を止め、的を絞らせないようマサトの周囲を旋回し始める。
そして、マサトの注意が周囲に散ったその時、何かが黄色く輝いた。
咄嗟に背中の炎を噴射させ、一気に上昇する。
すると、極太の光が足下を通過。
激しい光の放出とともに、遅れて風を切る轟音が夜空に響いた。
一つ目の浮島巨人兵が眼から放った熱光線だ。
(やっぱり撃ってきたか――)
その光線は、マサトの跡を追うように上へ向くも、数秒も経たずして急激に細くなり、消え去った。
(発射の予兆がなかった。なのにあの弾速と精度。確かに、不意打ちで撃たれたら危険だ)
マサトはお返しとばかりに、上空から一つ目の浮島巨人兵へ向けて火球を連続で放ちつつ急降下していく。
その飛行速度についてこれないのか、魔法使い達の接近はない。
マサトの放った火球が次々に一つ目の浮島巨人兵の頭上へと降り注ぎ、紅蓮の花を無数に咲かせると、一つ目の浮島巨人兵は呻き声をあげながら、爆炎に飲まれていった。
◇◇◇
「あの一つ目の浮島巨人兵をたった一人で圧倒してるだと!?」
鷲獅子に跨った女騎士が、爆炎に沈んだ巨人を見て驚愕した様子で話す。
一つ目の浮島巨人兵は、鷲獅子騎士の力をもってしても、動きを封じ込めることのできなかった強力なモンスターだ。
動きは遅いが、硬い皮膚による圧倒的な防御力をもち、それでいて熱光線という最強の飛び道具も保有している。
集中砲火を食らわせれば攻略できないこともないが、周囲を魔法使い達が護衛するため、それもままならない。
強固な迎撃陣形だ。
それは先程まで一つ目の浮島巨人兵と命のやり取りをしていた鷲獅子騎士の誰もが痛感していた。
「奴は何者だ!? 敵なのか!? 味方なのか!?」
女が次に口にした言葉は、そこに集まった誰もが感じた疑問だった。
その疑問に部下の女が答える。
「分かりません…… ですが、海亀と交戦しているところを見る限り、私達の敵ではなさそうかと」
「敵でないのであれば手出し無用だと皆に伝えろ! 今は海亀に戦ってくれるだけで貴重な戦力だ」
「はっ!」
「それよりも隊長は!? 隊長は無事なのか!?」
「一命は取り留めたようです。あの時は海亀達の妨害のせいで、救援にすら向かえませんでしたが、あの男が敵を引きつけてくれたお陰で、数人救援へ向かわせることができました」
「そうか…… それは良かった。となれば、もうここに長居は不要だ。撤退するぞ」
「それが、まだクロ達がヘイヤの城から戻ってません」
「何!? クロ…… あの黒羽の大鷲獅子を手懐けた新人か!?」
迷っている女の視界の先で、一つ目の浮島巨人兵を完全に仕留めてみせた男が、今度は海亀の闇魔法使いを相手に空中戦を繰り広げ始めた。
その男は強かった。
空にいくつもの爆発が起きる度に、魔法使い達が火達磨になって吹き飛び、地に落ちていく。
鷲獅子騎士達が苦戦を強いられた魔法使い達が、いとも簡単に焼き払われていくのだ。
それは信じ難き光景だった。
女が夜空に瞬く閃光を唖然と見つめながら呟く。
「まるでアリス殿の戦い様を見ている様だ……」
「本当に…… 異常です。それで副隊長、どうしますか?」
「そ、そうだな。まずは隊長と合流する。そこで指示を改めて仰ぐ。クロならそう簡単に死にはしないだろう。あいつは相当に強い。これは勘だが、あいつは皆にも知らせていない秘密をまだ何か隠し持っている」
「あ! 隊長!!」
鷲獅子のホーネストに跨ったアネスティー・グラリティが、数人の部下を率いて副隊長と呼ばれた女の元へ現れた。
「隊長! ご無事でしたか!」
「ディライヂェ、すまない。不覚にも一つ目の浮島巨人兵に狙い撃ちされてしまった」
「しかし、あれをまともに受けて良くその程度の傷ですみましたね」
ディライヂェが傷だらけのアネスティーを見て関心するも、アネスティーは「それは違う」と首を振った。
「ホーネストが身を呈して庇ってくれたから死なずに済んだのだ」
「……? そういえば、ホーネストの傷は……」
「色々あってな。今、あそこで海亀と戦っている男に救われた」
「あの男とお知り合いでしたか!?」
「いや、素性も何も知らない。だが、彼はプロトステガを堕とすと言っていた」
「プロトステガを!? ハッ、ご冗談を」
そう吐き捨てたディライヂェだったが、その男が一つ目の浮島巨人兵を圧倒し、今も一人でほぼ全ての魔法使い相手に戦っている姿を見て、まさかと思い直す。
部下達とともに、夜空で一人輝くマサトを見つめていたアネスティーが、ため息混じりに応じた。
「彼のことはまだ知らない事だらけだが、それは追々調べる。今はヘイヤ・ヘイヤの暴挙を本部に申告し、増援を連れて海亀掃討を実行に移す」
「遂に海亀を!」
「撤退の合図を出せ」
「「「ハッ!!」」」
空に無数の光が上がり、鷲獅子達に向けた撤退の笛の音が鳴り響く。
「しかし、クロ達が城内で交戦中との情報が。撤退援護に向かわせますか?」
「クロ達か。いや、彼女なら自分で何とかするだろう。それより、監視の為、数人ここに置いていく。その選定を頼む」
「ハッ!」
再び、アネスティーは夜空で戦い続けるマサトを見つめる。
「死ぬなよ。私はまだ恩を返してないからな」
ホーネストの首を撫でながら、アネスティーは誰にも聞こえないくらいの小さい声で、そうぼそりと呟いたのだった。
▼おまけ
・モンスターカード
[UR] 勤勉な鷲獅子騎士、ディライヂェ 2/2 (白)
[鷲獅子騎士Lv4]
[回復魔法Lv1]
[魔法障壁Lv1]
「鷲獅子騎士は、鷲獅子に騎乗することで本来の力を発揮する。鷲獅子と騎手、二つの異なる力が合わさった時、初めて限界を超えることが出来るのだ――金色の鷲獅子騎士団、第十五部隊副隊長ディライヂェ」
※鷲獅子騎士LvX、総コストXマナ以下の鷲獅子に騎乗できる。騎乗時、自身のステータスを鷲獅子に加算する
※一般的な熟練度
鷲獅子騎士Lv1、新人
鷲獅子騎士Lv2、一般
鷲獅子騎士Lv3、中堅
鷲獅子騎士Lv4、副隊長クラス
鷲獅子騎士Lv5、隊長クラス
鷲獅子騎士Lv6、団長クラス
鷲獅子騎士Lv7、天才
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