【書籍化】マジックイーター 〜ゴブリンデッキから始まる異世界冒険〜
223 - 「オサガメの財宝、中編」
空が再び落ち着きを取り戻す。
大海に潜む巨大海蛇は激闘の末、討伐完了。
死骸はそのまま海の底へ沈んだが、マナ回収はしっかりと済ませておいた。
得たマナは、(青×4)。
残念なことにカードドロップはなかった。
海中生物だったが故に苦戦はしたが、ずぶ濡れになった衣類が肌に張り付いて気持ち悪い以外の被害はない。
俺が甲板に降り立つと、ララが口を半開きにしながらこちらを見つめていた。
「狩りは終わった」
俺が話しかけると、ララはビクッと身体を跳ねさせ、慌てて返事を返す。
「そ、そうかしら。無事で何よりなのよ」
「そろそろ財宝の仕分けが終わってるはずだ。宝物庫に戻ろう」
そう告げて歩き出したものの、すぐ立ち止まる。
「ど、どうしたのかしら」
「いや、宝物庫に行く前に、先に着替える。服がベトベトして気持ちが悪いからな」
「それが良いかしら。風邪を引くといけないのよ」
「風邪?」
「な、何かしら」
「いや、何でもない」
ララが体調の心配をしてくれたことを意外に感じつつも、常に強気な態度を崩さなかったララがおどおどしていることが少し面白くて、つい笑ってしまう。
「な、何がおかしいかしら!? 今、絶対にララのことを笑ったのよ!!」
「いや、気のせいだ」
「気のせいじゃないのよ! ララは笑われるのが一番嫌いかしら!」
キングはララといる時は、いつもこんな感じなのかと思いつつ、騒ぐララを無視して進む。
「こら! 無視するなかしら! まだ感謝の言葉の一つも聞いてないのよ! 口寄せに協力したララを労ってくれてもバチは当たらないかしら!!」
その言葉を聞いて立ち止まると、再びビクッと身体を少し跳ねさせたララが何事かと聞き返す。
「な、何かしら」
「いや、そうだな。ありがとう」
「わ、分かれば良いかしら。この程度のことならお安い御用なのよ」
少しおどおどしながらも、腰に手を当てて胸を張るララ。
あそこまで強力な付与魔法を使えるなら、かなり高位の魔法使いなのだろう。
見た目は幼女だが。
その熟練者が、無償で協力してくれた事に、今更ながら感謝の気持ちが湧いてくる。
「お礼は何が良い?」
無意識に口から出たその言葉に、ララが目をまん丸にしながら、呆け気味に聞き返した。
「……お礼?」
「いらないなら良いが…… 財宝が欲しいなら分けてやれる」
聞き間違いではないことを察したララは、ハッと我に帰ると、顔をプイッと背ける。
「財宝なんて興味ないかしら」
「じゃあ何が?」
沈黙。
何かを言おうか言わまいか迷う表情を見せた後、ようやく決心したのか、横目でこちらを覗き見ながらゆっくりと口を開いた。
「キングを、助けてあげてほしいかしら……」
「キングを? 何から?」
「キングを殺そうとする悪意からなのよ」
「悪意か……」
俺が少し考えると、ララは俯いた。
「別に期待なんてしてないかしら。少しだけでもキングを守ってくれれば、それで良いのよ」
「約束はできないが、努力はしよう」
「それで十分かしら」
ララと簡単な口約束を結び、俺は船内へと戻った。
◇◇◇
「よぉ、丁度良いところにきたな。もうすぐ終わるとこだ」
「ああ、知ってる」
キングには話していないが、宝物庫の状態は、召喚した蛙人との念やり取りで把握済みだ。
俺の返事に、キングが少しだけ疑問の表情を浮かべると、目敏く俺の服装を見て質問を口にした。
「着替えたのか? 途中、船が結構揺れたが…… もしかしなくてもあの口寄せが原因だろ?」
宝物庫周辺は取り分け頑丈に作られているのか、外の喧騒は伝わっていなかったようだ。
キングの問いには、ララが答えた。
「口寄せしたら、大海に潜む巨大海蛇が釣れたかしら」
「はっ? 大海に潜む巨大海蛇? 冗談だろ?」
「冗談じゃないのよ。お陰で生きた心地がしなかったかしら」
「よ、よくそれでこの船が沈まなかったな。つか、あの刻印って解除できたのかよ。ララおめぇさては黙ってたな?」
「あの刻印はララには解除できないかしら。セラフが一人で倒したからこの船も沈没せずに済んだのよ」
「…………」
ララの言葉に、流石のキングも言葉を失った。
まるで時が止まったかのように、微動だせずに口を半開きさせて停止している。
その時の流れを元に戻したのは、宝物庫の中で仕分けをしていたアタランティスだ。
「セラフ! 仕分け終わったぞ!」
「助かる」
尻尾を振りながら嬉々として報告しに来たアタランティスの頭を撫でると、「クゥン」と喉を鳴らした。
犬みたいで少し可愛い。
復帰したキングが眉間を抑えながら話す。
「海のど真ん中で、一体どうすりゃ大海に潜む巨大海蛇を討伐できるんだ……?」
「大海に潜む巨大海蛇の口の中に突撃して、内側から爆破してみせたのよ」
「言ってる意味が分からねぇんだが……」
「あんな芸当、セラフにしか真似出来ないかしら」
「そりゃそうだろうな……」
何やら疲れた顔で話し始めた二人を無視して、俺は宝物庫に入る。
すると、奴隷服を着た女性と子供が数人、壁際に立って不安そうにこちらの様子を伺っていた。
恐らく、仕分けを手伝ってくれていた者達だろう。
宝物庫の中には、俺が焼き殺した肉塊が転がっているので、怯えても無理はない。
むしろ財宝を盗むとこうなるぞという意思表示の為にあえて放置しておいたのだ。
その効果は絶大だったようだ。
だが、問題なく仕分け終わった後であれば、脅す必要ないだろう。
俺は近くにある宝石が入った箱を手に取ると、その者達を手招きした。
「仕分けに協力してくれた礼だ。こっちに来い」
その言葉に、奴隷達は顔を見合わせ、その内の一人――裸足で薄汚れた子供が恐る恐るこっちへ歩いてくる。
「手を出せ。無くすなよ」
ゆっくりと突き出した小さい手に、俺は手頃な大きさの宝石と、金貨数枚を載せてやる。
すると、その子の顔がパアッと華やいだ。
「い、良いの!? こ、こんなに!?」
「構わない。他の奴に奪われそうになったら、俺に言え。これはお前のだ」
「わ、分かった! ありがとう! お兄ちゃん!」
子供の無垢な感謝の言葉に、心が少し温かくなる。
「アタランティス、後でこの人達にも看守服の余りでもいいから何か渡してやってほしい」
「分かった!」
こうやって、残り数人も同じように宝石と金貨を手渡してやると、先程までの不安な表情も一切なくなり、宝物庫から出る時は皆笑顔になっていた。
その様子をニヤニヤと笑いながら見守っていたキングが、奴隷達が居なくなった後でようやく口を開いた。
「で、目的の物は見つかったのか?」
「いや、ここにはないようだ」
残念ながら、時の秘宝は見つからなかった。
集められた水色の水晶は、どれも時の秘宝とは程遠い見た目をおり、見落とした可能性はない。
「そっか。なら仕方ねぇな。刀身のない剣の柄っぽい古代魔導具もなかったようだし、やっぱ中央の宝物庫を探すしかねぇみたいだな」
「ああ」
仮にそこにもなければ、さすがにどうすれば良いのか途方に暮れそうだが、今はあまり考えないようにする。
「で、白金貨はどうすんだ? 銀貨や銅貨は大量にあんのに、白金貨はやっぱあんまりなかったぞ?」
「やっぱり?」
「まぁ、海亀は早い話が海賊だ。庶民から金を巻き上げるのが大半だからな。結果、銀貨や銅貨が多くなっちまうんだよ。大型の取引も、基本金貨でやるのが主流だしな」
「そうか…… で、白金貨はどのくらいあったんだ?」
「ざっと100枚ってとこだな。それでも大金なのは間違いねぇが。そこの箱に入れてあるぜ」
白金貨100枚で、1億G。
カードガチャ5回分だ。
金貨や宝石も合わせれば、その価値は軽く二、三倍は超えるとのことだったが、カードガチャが回せるのは白金貨のみ。
この5回で時の秘宝が当たれば問題は解決するが、そんな奇跡は起こらないだろう。
俺はさっそく白金貨20枚を掴むと、カードガチャを実行してみた。
掴んでいた白金貨が白い光の粒子となって消える。
「お……?」
「ん!?」
その変化に、キングとララが目敏く反応するも、カードガチャ演出はそのまま進行。
一枚のカードが突然空中に出現すると、キラキラと光の粒子を撒き散らしながら、少し目線の上から回転しながらゆっくりと落ちてくる。
その光景に、キングとララが驚きの声をあげた。
「なんだありゃ!?」
「何かが出現したのよ! あれも召喚魔法なのかしら!?」
落ちてきたカードを手にとって、その絵柄を見る。
そこには、巨大な黒い昆虫が描かれていた。
[C] 巨大化した大黒虫 3/3 (黒)(3)
「あの大黒虫の巨大版か……」
囮役くらいには使えそうなパラメータだが、昆虫なのでどこまで命令を聞いてくれるのか未知数だ。
「それがセラフの言ってた錬金術かしら? ちょっと見せて欲しいのよ」
「おい、ララ」
キングが止めようとしたのも気にせず、ララがちょこちょこと小走りで近寄ってきた。
今更隠す気もなかったので、そのままカードを渡す。
「絵が描いてあるただのカードに見えるかしら。文字は古代語。不思議な力は感じるのに、魔力は少しも感じないのよ。不思議かしら」
ララが興味深そうにカードを調べている。
「万物に宿りし母なる魔力よ、その深遠たる知識の書庫から、我にこの未知なる物を知る機会を与え給え――鑑定」
カードに微力の光の粒子がパァッと散る。
どうやら鑑定に失敗したようだ。
「駄目かしら。鑑定不能なのよ」
「鑑定なんて便利な魔法があるんだな」
「ララは特別かしら。鑑定が使える者は少ないのよ」
ララからカードを受け取る。
この大黒虫カードは、暫く倉庫の肥やしになるだろう。
カードを消すと、ララが興味津々に唸った。
「セラフには毎回驚かされるかしら。詠唱もなしに、あのカードをどこにやったのよ」
「しまっただけだ。俺ですらどこか分からない空間に」
「それは間違いなく高位魔法なのよ。セラフといると、自分に少し自信がなくなってくるかしら」
そう愚痴りながらも、瞳は爛々と輝いている。
すると、いつの間にか近くに寄ってきていたキングが話す。
「セラフが言ってた白金貨を使ったその錬金術。それで作ったあのカードは、どんな使い道があるんだ? 絵を見て落胆したように見えたが、カードに描かれいてた絵に関係あるのか?」
キングは人の機微をよく観察している。
そのまま黙っていても良かったのだが、もう今更だろう。
「あのカードを介して、魔法が使える。その魔法は俺にしか使えない」
「魔法の種って事か……」
「もしかして、あの絵の生き物を召喚できるのかしら?」
「そうだ。召喚だったり、付与魔法だったり、まぁ色々だ」
素直に質問に答える俺に違和感を感じたのか、ララが俺の返答を聞いて疑いの目を向けた。
「やけに素直かしら。疑わしいのよ」
「セラフの話自体が信じられない内容だろ。疑わしいも何も、それ以前の問題だろ? 何を今更言ってんだ?」
「馬鹿キングは黙るかしら。ララはセラフと話をしてるのよ」
「へいへい。邪魔者は黙ってますよ」
キングがやれやれと肩をすくめて壁際へと移動する。
そんなキングも気にせず、ララはじっとこちらを見つめながら話を続けた。
「そこまで教えてくれるなら、本当の名前も教えてくれても罰は当たらないのよ」
「本当の名前か」
ララの瞳を真っ直ぐ見返す。
そこには、小さい身体で、恐ろしく強気な幼女が毅然とした態度で立っている。
ふと、そんなララとシュビラが重なって見えて、つい口が緩む。
「マサトだ。フログガーデンにあるローズヘイムで王をしていた」
俺の言葉に、ララは顔をパアッと明るくさせると、顔をくしゃっとさせた満面の笑みで頷いた。
壁に寄りかかっていたキングは、「マジかよ…… やっぱ英雄王か」と組んでいた腕を解いて唖然としていた。
ララは俺の言葉に満足したのか、俺の足をポンポンと叩きながら話しを続ける。
「それで良いかしら。ララはセラフを信じるのよ。ララの中で全て繋がったかしら」
「俺の事を知っているのか?」
「噂でしか知らないかしら。でも、英雄王マサトに悪い噂はないのよ。それに……」
「それに?」
「何でもないかしら! 早く残りの錬金術もやってみせるのよ!」
そう言ってララは腰の手を当て、いつものポーズで俺の錬金術――ガチャの行使を待った。
「何か、他に聞きたい事があるんじゃないか?」
「特にないのよ!」
「え……? お、おい、ララ? 俺ぁはまだ色々と……」
キングは何か聞きたそうな顔をしているが、無視していいだろう。
「じゃあ次だ――」
新たに取り出した白金貨20枚が手から消える。
再び空中から舞い降りたカードの縁は赤く、空から何かが降り注ぐイラストが描かれていた。
[UC] 石の雨 (赤)(X)
[石の雨LvX]
[土地破壊Lv1、ランダム]
「ランデスカード……」
X火力に、ランダムで土地破壊までついたカードだ。
ランデスとは、土地破壊――即ちLand Destructionの略称で、ランドバスターやらランバスとも呼ばれたりする。
今回の「石の雨」は、一見強いようにみえるが、降らせる石の狙いを定めることは出来ず、更には効果範囲内にある全てが対象になるため、マナコストや能力に見合わずレアリティはアンコモン扱いになっている。
決定打には欠けるかもしれないが、単騎で乗り込んで場を荒らす目的で使うならかなり優秀だろう。
問題があるとすれば、この石の雨は自分にも被弾する恐れがあるというくらいなだけだ――。
「ララにも見せてほしいかしら」
ララがカードを覗き込もうとつま先立ちしていたので、俺はカードをララの見える位置まで下げてあげる。
どうやらキングも見たいらしく、壁際から少しずつこちらに擦り寄りながらカードを覗き見ようとしていた。
「どんな効果の魔法なのかしら? 何だか凄そうな絵が描かれているのよ」
「石の雨を降らせる」
ララとキングの時が一瞬止まる。
「……どのくらいの規模なのかしら」
「魔力の量で変わる。ただ、効果範囲は広いはず」
「そ、そうかしら」
「冗談だろ? 天候操作系の小規模魔法ですら5等級魔法――宮廷魔術師筆頭魔法の上の英雄魔法と呼ばれるクラスだぞ? それが広範囲で石の雨まで降る? その絵を見る限りだと石っつーか、もはや火の玉じゃねぇーか!」
「馬鹿キングうるさいかしら! セラフの使う魔法は、その殆どが3等級魔法――古代魔法クラスなのよ! 認識を改めるかしら!」
「古代魔法…… 古代語のカード…… 古代語で表示された適性…… そうか! やっぱあんたがマジックイーターだって噂は本当だったんだな!!」
「今頃気付くなんて遅いかしら」
「いや、普通は信じようとしても無理な話だからな? 元々、セラフが英雄王だと疑っていた俺だから信じられる話な訳だ」
再びニヤニヤ顔になったキングが、フレンドリーに肩を組んでくる。
「よろしく頼むぜ、英雄王マサト。俺はグリフィス・キング・ヴィ・ヴァルト。ヴァルト帝国の元王子だ。今は訳あって帝国転覆を企てる復讐者って身分だがな! バッハハ!」
それは衝撃的な自己紹介だった。
▼おまけ
[C] 巨大化した大黒虫 3/3 (黒)(3)
「大黒虫の中には、ごく稀に生命力のクソ強い変異体がいて、そいつが長い年月をかけて野生で育つとああなる。今では土蛙人を捕食する側だってんだから笑っちまうよな――隻腕のセファロ」
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