【書籍化】マジックイーター 〜ゴブリンデッキから始まる異世界冒険〜

飛びかかる幸運

203 - 「プレイヤー」


 炎の翼を広げて空へ飛び立つ。

 空には、カーキ色のモッズコートのポケットに手を突っ込んだ茶髪の男。

 恐らくプレイヤーだ。

 この世界で初めて出会うプレイヤー。

 少しでも情報を聞ければと淡い期待を抱くも、初対面の印象はどうやら最悪のようで、最初から雲行きが怪しかった。


「あ、お前が泥棒プレイヤー? 人の物盗んでおいて、よく堂々と顔見せれたな」


 お前が出て来いと叫んでたんだろと心の中でツッコミつつ、男の鼻に付く一方的な言い方に腹が立つも、まずは穏便にと冷静に返す。


「話が良く見えないんだけど、確かに俺はプレイヤーだよ。訳もわからずこの世界に飛ばされて、帰れなくて困ってる」

「あ〜、あれは確かに困ったよね〜。今時デスゲームやら異世界転生なんて流行んねーよとか思ったけど、チート能力持ちならそれもいいんじゃん? つか、話はぐらかすなよ。盗んだ物返せ」


 急に凄み始めた相手に驚きつつも、ここで敵対しても良いことないと説得を続ける。


「いや、だから人違いじゃ……」

「あ? お前以外にいねーだろ。ふざけんな、死ねよ」


 男の突き出された右手から、不可視の何かが放たれる。

 僅かに歪む空間。

 男の挙動に反応して咄嗟に防御姿勢を取ると、すぐさま左胸に衝撃が走った。


「ぐっ!?」


 ナイフで刺されたような痛みの後、切り裂かれた服の下から赤い血が滲む。


「お、意外に硬ぇな。炎の翼ウィングス・オブ・フレイム使ってるし、自己強化型か? 厄介なんだよなぁ、脳筋馬鹿の多い自己強化型って。パーミッション系とは相性悪いから」


 そう告げつつも、男は攻撃の手を休めない。

 何発か被弾しつつも、男から距離を取った俺は、持参してきた上級回復薬ハイポーションを飲みつつ、男に訴え続けた。


「何すんだ…… 同じプレイヤーだろ。争うより協力して元の世界に帰ることを……」

「は? 帰る? 帰りたければ一人で帰れ。オレはこの世界を気に入ってんだよ。女は抱き放題だし、働かなくても美味いもんたらふく食えるし、奴隷もたくさんいる。こんな最高の世界から、奴隷のように一生働かせられる地獄の世界に帰るなんて馬鹿だろ」


 男は続ける。


「それより、オレは人様の物を盗むような奴が大っ嫌いなんだよ。そんな信用できねー奴とそもそも組める訳ねーだろ」

「だから何の話を」

 「まだしらばっくれんのかよ。時の秘宝だよ、時の秘宝。時を戻す・・・・ URの魔導具アーティファクト。MEプレイヤーなら知ってんだろ」

「時の秘宝…… もしや……」

「ほらな。やっぱりお前じゃん。じゃ、返せ。今すぐ返せば命までは取らないし、一応許してやる」


 これは返した方がいいのか?

 考える。

 時を戻せる魔導具アーティファクトがあるのなら、何が出来るか、何をされるか。

 どのくらい時を戻せるか次第だが、仮に時を戻した者の記憶が保持されるなら、この秘宝が盗まれる前まで時を戻し、事前に対処することも可能なはず。

 となれば、この男はその秘宝を盗んだ張本人だと疑う俺を許すだろうか。


(許さないだろうな)


 この男の気性からして、決して許しはしないだろう。
 
 プレイヤーだと分かった上で躊躇なく攻撃してきたことから、人を殺すことにも抵抗がなくなっている可能性が高い。

 現実なのか、はたまたゲームの世界なのか、曖昧な世界故に、昔の俺のようにゲーム感覚でいるのかもしれない。

 もしくは、元からそういう事に抵抗がないか。

 目の前の男がどういう性格なのかは、まだ計り知れない部分が多いのも確かだが、第六感は目の前の男を信用するなと告げていた。


(敵対プレイヤーだと分かっていたら、普通は事前に対処するよな…… シュビラはなんでこの男から時の秘宝を奪ったのか……)


 俺が選べる選択肢は限られている。

 この男を信用して時の秘宝を渡すか、シュビラを信用してこの男と敵対するか。

 答えはもう出ていた。


「最後に一つだけ確認させてほしい」

「あ?」

「シュビラ…… 時の秘宝を盗んだ幼女のゴブリンはどうなった?」

「んなもん、殺して解体したに決まってんだろ。あ、違うな。ゴブリンだが結構可愛い幼女だったんで、解体する前に性奴隷にしたんだっけか。盗っ人にはお似合いの最期だったな、くはは」


 確定だ。

 シュビラはこの男の危険性を事前に知ってて行動したんだろう。

 そうに違いない。


「もし、返さないと言ったら?」

「あ? そんなことしてみろ。殺すだけじゃ済まさねーぞ」


 男が鬼の形相で凄む。

 だが、身なりは痩せ型の成人男性のそれだ。

 その見た目で凄まれても、体育会系の俺には全く怖く感じない。


「どのみち、時の秘宝で時を戻して俺を消そうとするだろ? そんな危険なことできないと思うんだが」

「ちっ…… そんな勿体ねーことすっかよ。それは死の危険が迫った時の最終手段だ。お前みたいな屑相手に使うような代物じゃねーの」

「さっきから人の事を屑とか盗っ人とか。少しばかり挑発が過ぎやしないか?」

「うっぜぇーな。先に仕掛けてきたのはそっちだろ。これだから盗っ人と体育会系の脳筋馬鹿は嫌いなんだ。ああ、もういいや。面倒くせぇ。殺そ」


 再び男が手を俺へ向ける。

 だが、俺は両手を広げてそれを待ち構えた。


「撃つなら撃ってこい。だが、次が最後だ。次、お前が攻撃してくるなら、俺も反撃する」

「あ、っそ。どうぞご自由に。じゃっ!」


 再び僅かに空間が歪む。

 それを合図に、俺は炎の翼ウィングス・オブ・フレイムをジェット噴射に切り替え、男の攻撃を受けつつ突っ込んだ。


「なっ!? ぐふっ!」


 男に組み付く。


「ば、馬鹿かてめー!?」

「次はクローンじゃなく、本体を連れてこい。安全圏で高みの見物するチキンにそれが出来るとは思ってないけどな」

「んだとっ!?」

「はぁっ!!」


 男に腰に組み付きながら、自分の周囲に炎を纏う。

 すると、男は悲鳴をあげて暴れ始めた。


「う、うわぁ!? あ、熱い!? く、くそ舐めるな!!」


 男の身体が淡く輝くと、魔法に対して耐性を得たのか、炎の中でももがき苦しむようなことはしなくなった。


「死ね!!」


 男が右手を振ると、脇腹に激しい痛みが走る。

 目に見えない何かで攻撃されていた。


「いっ…… つぅ……」


 痛いが、恐らくこの程度のダメージなら即死にはならなそうだ。


「悪いな。俺にも時の秘宝が必要なんだ。あれは、俺が貰っておく」

「っざけんな! そんなことをオレが許すとでも……」

「お互い人殺し同士。この世界で仲良くやろうや」


 ここまで拗れたら信頼関係の修復は無理だろう。

 俺は半ばヤケ糞気味に言い放つと、男に気付かれぬよう手首に隠していた心繋きずなの宝剣を起動し、そのまま間髪入れず男の身体を両断した。


「え……」


 上半身と下半身が分断されたことに目を点にさせた男が、声をあげる時間もなく意識を飛ばし、そのまま空から落ちていく。

 その姿を見下ろしながら、後戻りできなくなった後悔の残る現状に溜息が漏れる。


「はぁ…… プレイヤーとは敵対確定か。でも、時の秘宝があれば、フロンやシュビラが死ぬ前まで時を戻せるかもしれない」


 後悔の残る過去を変えられるかもしれない。

 新たに見えた光明に縋るような思いで、俺はその場を後にするのだった。



◇◇◇



「おいおい、忠の奴、やらちゃったぜ?」

「何でやられた? 魔法無敵発動してただろ?」

「魔法じゃねーことは確かだな」

「じゃあ武器か? あんなに簡単に身体を分断される武器あったか?」

「知らねーよ。つか、そんなもんMEにはいっぱいあんだろ」

「つかさー、自己強化型のデッキ相手にタイマンで挑むとか馬鹿でしょ。馬鹿。そりゃ負けるわ。相手舐め過ぎ。舐めプ過ぎ」


 カーキ色のモッズコートのポケットに手を突っ込んだ茶髪の男達が、異なる姿勢で空に浮かびながら言葉を交わしている。

 姿勢が違うだけで、皆、顔から声まで全て同じだった。


「おい、忠。どうすんだよ」


 唯一、他の者達とは違う――尻尾のない男に、その中の一人が話を振った。

 ただしと呼ばれた男が、ゆっくりと目を開くと、少し苛立ちながら話し始める。


「あの泥棒野郎、以前にも時の秘宝を使ってんな」

「マジ?」


 尻尾の生えた忠――忠をコピーしたクローン変異種達が、オリジナルの忠へと一斉に視線を向ける。


「そうじゃねーと可笑しいだろ。オレが時の秘宝を持ってるって情報、どうやって入手できる? ありえねーだろ。普通に考えて。無理だ。不可能。だが、あいつの召喚したゴブリンは、明らかにオレの時の秘宝を狙ってきた。ご丁寧に迷わず保管場所へ一直線だ」

「くはは。あの時は皆でビビったね〜。突然、部屋に大量のゴブリンが雪崩れ込んで来てさ。普通、あり得ないっしょ? だって、場所は寝室だぞ?」

「あれも謎だよな。どうやったんだ? 空間の切れ目みたいなのは確認したけど」

「召喚モンスターを相手の近くに飛ばせる大型魔法ソーサリーならいくつか知ってるが、自己強化型系のデッキで採用した例なんかあったか?」

「オリジナルが知らないことをクローンのオレ達が知る訳ないだろ」

「くそ…… 使えねーな」

「つか、狙いはオレ達だったんじゃね? それが無理だと判断して、急遽 "時の秘宝" 奪取に変更したって感じがすっけど」

「どっちでも同じだ。あの泥棒は、最初からオレと敵対すると分かって先に手を打ってきた。そう考えると全てしっくりくる。だから厄介なんだよ。ゲームと違って時を戻すという行為が、言葉通り全ての時を戻すっていう効果に変わってんなら、あの泥棒は成功するまで時を戻してやり直せることになる」

「それチート過ぎるでしょ!」

「だから厄介だって言ってんだろ! お前達、本当にオレのクローンか!?」

「「「クローンに決まってるだろ! そんな当たり前のことすら分からないなんて、お前こそ本当にオレのオリジナルか!?」」」

「うっぜ…… くそ、自分のクローンに言ってもブーメラン過ぎる」

「ふざけてないで、結局どうすんだよ。泥棒が時の秘宝使った時点でリセットなら勝ち目ないだろ」

「ああ、だから使わせなきゃいい」

魔導具アーティファクトの起動能力妨害か。あれも使うのか。カードは有限なのに勿体ねー。でも、今回ばかしは仕方ねーか」

「そう言うこと」

「あー、一人少ねーと思ったのはそのためか。監視役既に行かせてんだな」

「だが、相手もプレイヤーだ。何のデッキか確認できるまで下手に仕掛けねー方が良い。無駄にカードを消費させたくない。慎重に行くぞ」

「慎重に、ね〜。既に全軍ローズヘイムに向かってんのに? 全面戦争秒読みだろ?」

「あの泥棒は、一丁前に一国の王様気取りらしいからな。盛大に炎上させてやろうぜ?」

「周りが混乱すれば、相手にも隙が生まれやすいんじゃね? なんせ自分の国が炎上するんだからな」

「こっちは何人死んでも気にならないしな。確かに慎重案だわ」

「使えるモノは何でも使う。オレが優先するのは自分の命だけだ。分かったならお前達も行って来い」

「「「ふざけんな。お前が行け」」」

「チッ…… うぜー。わーったよ。行くぞ。脳筋狩りだ」

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