【書籍化】マジックイーター 〜ゴブリンデッキから始まる異世界冒険〜
126 - 「黒崖の力」
「これ、地震じゃないよね……?」
「マ、マサト! 部屋が崩れ始めてる!」
「マジか…… 早くここから出ないと! 出口は、出口どこだ!?」
辺りを見回すが、出口らしい出口が見当たらない。
あるのは藍色の壁のみ。
だが、その壁も所々崩れ、その先に漆黒の闇が見える。
「おおお、なんだか不味い気がする…… 目の前の背赤達はずっとこっちの様子を窺って動かないし…… どうする…… どうする……」
二人で必死に出口を探すが見つからない。
ベルのマサトを掴む力が強くなる。
(ま、待て待て、考えろ…… 確かパークスは、この空間が黒崖の能力だって言ってたはず。それなら、黒崖が死んだから崩壊し始めているわけで…… あっ、さっき手に入れた黒崖のカード!)
すかさず、先程手に入れたカードを表示させる。
[UR] 後家蜘蛛の頭領、黒崖 2/2 (黒)(11)
[適性移植]
[異空間創造]
[物理ダメージ転移]
[魔法ダメージ反転領域]
[全属性魔法攻撃Lv1]
[無詠唱]
[回復魔法強化:大]
[筋力強化:中]
[魔力増加:中]
[剣術:中]
[武術:中]
[身かわし]
[衰弱体質]
(な、なんだこの能力の数は……)
黒崖のカードの強さに驚愕するマサト。
(総コスト12も異常だけど、能力が13個もあるなんて、そんなのMEで見たことないぞ……)
通常、MEでのカード能力は多くても4つ程であった。それが13。異常である。
(魔法ダメージ反転って…… 魔法は効かないわけじゃなかったのか…… それに中とか大って表記は見たことないけど、こんな抽象的なパラメーター、MEにはあったかな……)
気になる表記がありつつも、[異空間創造] の能力があったことに安堵する。
(黒崖を召喚すれば崩壊を止められるはず。って、黒崖カード化しなかったらゲームオーバーだったんじゃねぇ!?)
その事実に気が付き、背筋が凍る。すると――
「あ、危ない!」
「うお!?」
目の前の地面が崩壊し、その先に底なしの闇が顔を覗かせた。
(ヤバいヤバい、のんびりしてる時間なんてない!)
「後家蜘蛛の頭領、黒崖、召喚!!」
「えっ!?」
マサトの言葉に、ベルがあり得ない発言を聞いたと驚く。
だが、何も起きなかった。
『召喚に必要なマナ限界数を超えています』
(なに…… あっ! もしかして召喚マナ限界突破11!? や、やばい)
「マ、マサト……?」
不安げな様子のベルを他所に、マサトは周囲に光源がないか必死に探す。
(まずいまずいまずい! い、今ここで紋章Lv上げないと終わる!)
後家蜘蛛の構成員を大量に殺したはずだが、その屍からマナが浮かび上がる気配は感じられない。
黒崖の使っていた魂刈りの大鎌が、死体からマナを吸収してしまったようだ。
そうしている間にも、壁や床がぼろぼろと崩れ続ける。
広がる光の届かない闇。
既に部屋の半分が漆黒に侵食されていた。
ベルの掴む手に力が入る。
(目の前の背赤を仕留めるか!? い、いや駄目だ、間に合わない! こ、こうなれば一か八か!)
手を広げ、イメージする。
夢で得た――
空気中に漂うマナを引き寄せる感覚を。
「――来い!!」
すると、闇の中に紫色に発光する何かがポツポツと現れ始めた。
(い、いける…… いける! 来い! 来い来い来い!!)
闇の中に落ちていく無数の屍からも、黒い光の粒子が浮かび上がり、まるで夜空を流れる流星群のように、黒紫色の光の帯を引きながらマサトへと吸い込まれていった。
(まだだ…… まだまだ全然足りない! もっと、もっとだ!!)
「全て、ここにいる全てのマナよ! 俺に集まれぇえええ!!」
マサトの叫びに呼応するかのように、数多の粒子が一斉に浮かびあがった。
ベルが息を呑みながら、その様子を目を丸くして見守る。
「うぉおおおおおお!!」
マサトへと一斉に光の線が集束する。
そして――
《 マナ喰らいの紋章 Lv26 解放 》
(き、きた!!)
急いでステータスを開く。
(た、頼む!!)
<ステータス>
紋章Lv26
ライフ 21/44
攻撃力 99
防御力 5
マナ : (赤×3074)(緑×99)(黒×44)
加護:マナ喰らいの紋章「心臓」の加護
 炎の翼
 火の加護
装備 : 心繋の宝剣 +99/+0
補正:自身の初期ライフ2倍
+2/+2の修整
召喚マナ限界突破12 New
火魔法攻撃Lv2
飛行
身体麻痺Lv10
*猛毒カウンター5
*神経毒カウンター10
*腐毒カウンター3
「きたぁあああ!!」
「マ、マサト!?」
「ご、ごめん、でももう大丈夫! これでいけるはず!」
「えっ、えっ!? 」
混乱するベルを他所に、マサトは再び召喚魔法を行使した。
「後家蜘蛛の頭領、黒崖、召喚!!」
黒光りする光の粒子が、渦を巻いて吹き荒れる。
その渦の中央に光が集まり、瞬く間に人の形に成長すると、粒子の渦とともに光だけが弾けた。
弾けた光は、そのまま空気中へと溶け込むように消え、光の粒子が集束していた場所には、先程まで死闘を繰り広げていた後家蜘蛛の頭領――黒崖が佇んでいた。
「黒崖! この空間の崩壊を今すぐ止めろ!!」
「断る」
「なっ!?」
まさかの拒否発言に、今度はマサトがあり得ない発言を聞いたと驚く。
「な、何を言って」
「私に命令するな。命令されるのは嫌いだ」
黒崖はそう告げると、顔を逸らした。
(なっ!? えっ!?)
「わ、分かった。分かったから、頼む! 時間がないんだ! お前にしかこの崩壊は止められない!!」
「そこまで言うならやってやろう」
(め、面倒くせー女だ!)
「気が変わった。やらない」
「あああー! ごめん! 嘘嘘! お願いします! この通り!!」
マサトが両手で拝むように手を合わせてお願いすると、黒崖は仕方ないなと言わんばかりの表情で渋々頷いた。
「異空間創造」
黒崖が両手を掲げると、今までの崩壊が嘘だったかのようにピタリと止まり、まるで逆再生するかのように、元の外観を取り戻し始めた。
「助かった……」
「うっ……」
「あ、お、おい……」
突如、膝を折る黒崖。
すると、背赤達が瞬時に動き、黒崖を庇う様に集まった。
「止せ、アカ。奴はもう敵ではない」
「……クロ?」
背赤が戸惑いを見せる。
だが、黒崖は続けた。
「もういい。もう、私達の戦いは終わった。これからは、奴についていく」
「わかった…… クロがそういうなら……」
そういうと、背赤達は構えていた武器を降ろした。
マサトに、黒崖の苦しみの片鱗が流れてくる。
「黒崖…… 辛いのか?」
黒崖は答えない。
だが、マサトは続ける。
「[衰弱体質] のせいか?」
すると、溜息をつきながらこちらへ振り返り、被っていたフードを脱いで、顔を露出させた。
ボブカット風の黒髪の下にあるその顔には、無数の青白い血管が浮き出ていた。
よく見れば、その青白い血管は、顔だけでなく、首や腕にも見えている。
恐らく、全身そうなっているのだろう。
唇も蒼く変色しており、見るからに辛そうな状態だった。
「そうだ。少しずつ衰弱していく状態異常のせいだ。これのせいで、私の寿命は残り少ない」
「もしかして、ベルを狙ったのは、その体質のせいか?」
「ああ。その娘の持つ王家の適性が必要だった」
「[状態異常無効] の適性か……」
マサトを掴んでいたベルの手に、少しだけ力が入ったのに気付く。
マサトはベルの手を優しく叩くと、「大丈夫」とだけ呟いて、黒崖との会話を続けた。
「分かった。じゃあ俺がそのペナルティ能力―― [衰弱体質] を消せればいいんだな?」
マサトの言葉に、黒崖が目を見開いて驚く。
「出来るのか?」
「恐らく。ただ、一つ約束しろ」
黒崖が睨むようにして眉を寄せる。
(おかしいなぁ…… あいつ召喚したはずだよな? なら俺の配下のはずだけど…… なぜこうも反抗的なんだ……)
「俺の言うことを聞くこと。俺との約束を守ること。それが聞けないなら……」
「問題ない」
こちらの話に被せるように即答してみせた黒崖に、マサトが言葉を詰まらせる。
「どうした? 問題ないと言っている」
「そ、そうか」
(嘘では…… ないみたいなんだよな…… 反抗的な態度を取った割には、やけに素直な…… ま、まぁ信じるか)
「《 解呪 》」
白い光の帯が黒崖を包み込み、黒崖の身体に張り巡らされていた青白い血管が消えてなくなった。
自分の手や腕を見て、その顔に笑みを浮かべる黒崖。
「や、やった…… これで…… これでもう苦しまずに…… 済む……」
両手で顔を覆い、黒崖は一人泣き始めた。
その背中を背赤の一人が摩る。
「あ、ああ。大丈夫だ、アカ。もう、大丈夫だ」
瞳を潤ませた黒崖が、マサトに向き直る。
その顔は、先程とは見違える様に綺麗で、可愛く、また美人に見えた。
少し目尻の上がった、気の強そうな大きな瞳に、長い睫毛。
小顔で、血色の良い小さな唇。
少し見惚れそうになっていると、ベルに脇腹をつねられて正気に戻る。
「じゃ、じゃあ、ちゃんと約束は守れよ?」
「問題ない」
「これからは、適性移植のために無闇に人を殺すな。せめて、今の内は罪人だけにしておけ。それと、牢に捕らえている罪のない者達は皆解放しろ」
「問題ない」
「それと……」
いくつかこの場で取り決めを交わした。
今後、後家蜘蛛は竜語りの配下に加わる。
無闇に解体しても、末端の構成員が外に放たれるだけだと思い、いっそのこと竜語りの支配下としたのだ。
メリットも勿論ある。
後家蜘蛛は、竜語りに敵対する裏組織への対抗手段となり得る。
再び後家蜘蛛のような裏組織に付け狙われても危険だ。
予防策も、手数も、両方必要になるだろう。
それに、闇ギルドの相手なら、同じ闇ギルドの後家蜘蛛が適任だとも考えた。
主要な戦闘員は、先の一戦で俺が軒並み殺してしまったらしいが、末端の構成員はまだ多く健在とのこと。
後でシュビラに頼んで、ゴブリンを監視役兼伝達役として派遣する必要がありそうだ。
拠点は暫く同じ場所を使うが、竜語りの拠点と出入口を繋げてもいいかも知れない。
これはトレンと相談だ。
すると、黒崖が背赤を紹介し始めた。
「背赤だ。後家蜘蛛の幹部の一人。もう一人の幹部、灰色はお前との戦闘中に逃した。逃げた先は知らない」
紹介された背赤が黒いフードを脱ぎ、その素顔を晒した。
赤い長髪に、血色が悪いどころではない白緑色の皮膚に唇、それに緑色の血管。
瞳は赤く、その上充血していているせいで、眼全体が真っ赤だった。
とても同じ人間とはいえない容姿をしていた。
「背赤は、毒皮膚の適性を持つ毒女。体液全てが毒となる。その影響で、短命というペナルティを背負ってしまった、可哀想な――姉だ」
「えっ? 姉?」
良く見れば、肌の色や髪の色は異なるが、顔の造形は黒崖に似ている。
(って、全員同じ顔してない!?)
フードを脱いだ背赤達は、全員が同じ顔をしていた。
「双子どころの話じゃないな…… まさかクローン?」
「似たようなものだ。背赤には、[分裂] という希少な適性を移植してある。どういう訳か、分裂した個体は、分裂元より少しだけ長く生きることが出来た。今では分裂を繰り返すことで生き長らえている」
(分裂すれば長く生きられるって…… どういうことだろ…… 分裂先には、既に蓄積した毒カウンターまでコピーされないとかが理由だったり……?)
「その [分裂] って、分裂した背赤から移植したりはできるの?」
「それはできない。一度試したが」
(た、試したんだ……)
「基本的に適性移植で移植できるのは一度までだ。二度は移植できない」
「なるほど…… 手に持ってる武器も同じ見た目に見えるけど、もしかして持ち物も分裂する?」
「いや、分裂しない。この鞭は、背赤の背骨を原料に作らせた魔鞭だ。その希少な武器を作れる奴は、お前に殺されたがな」
「そ、そう…… 背骨って……」
「ところで…… 私のように、アカを――背赤も治すことは出来ないか?」
「それは、今は出来ないなぁ」
「何故だ」
「その力がもう使えないからだよ。無限に使えるわけじゃないんだ」
「どうすれば再び使えるようになる」
「それは分からない。モンスターを大量に殺せば、もしかしたら再び使えるようになるかも知れないけど」
「そうか。分かった。早速手配する」
「いやいやいや、待て待て待て。そんな物騒なもの手配しなくていいから。それよりも、シュビラに頼んだ方がきっと早い」
「シュビラ?」
「そう、シュビラ。あれ? 何か繋がり感じない?」
「……いや、何も感じないが」
召喚したモンスターは全てが繋がりを持っているわけではないのだろうか?
「まぁ、後で紹介するよ」
「後でだと? そんな悠長に待てるわけないだろ! 今すぐ紹介しろ!」
「おい、黒崖。いい加減に……」
そう告げようとして、黒崖の瞳に涙が溜まっているのを見てしまい、寸でのところで言葉を飲み込んだ。
「はぁ、分かったよ。シュビラには伝えておく。ここから歩いて数日かかるくらい離れた場所に居るから、すぐにとはいかないぞ」
「それでいい」
「全く……」
召喚した黒崖はとんだジャジャ馬だった。
(どうして俺の周りには、こうも気の強い女性が集まるのか……)
「ああ、そうだ…… 俺に解毒薬をくれ。身体が痺れて辛いんだ」
「解毒薬などない」
「んな、無いわけ…… 無いのか? 本当に?」
「ない」
「な、何で」
「必要ないからだ。それに、お前を刺した剣は、腐毒蛾の鱗粉剣と、蒼海月の刺胞剣。それぞれ、国宝級と、遺産級の代物だ。その強力な毒に対する解毒薬など存在しない」
恐らく、腐毒蛾の鱗粉剣が緑色の鱗粉が舞い散っていた短剣で、蒼海月の刺胞剣が海月の足のような刃が特徴的だった青色の短剣だろう。
(ふ、ふざけんな…… そんな物騒な物で滅多刺しにしやがったのか……)
その事実に顔が引き攣るのを感じたが、屋敷に戻って熟練の薬学者のエドワードとフレードリッヒに、至急解毒薬を処方してもらえば大丈夫だと考えて溜飲を下げる。
「ふ、ふぅー…… よし、もういい。お互い殺し合いしてたんだ。仕方ないよな。うん。仕方ない。ってことで、行くぞ」
怪訝な顔をする黒崖。
「何処に連れて行くつもりだ」
「俺の――竜語りの屋敷に決まってるだろ。後家蜘蛛が竜語りの傘下に入ったって紹介すんの。それと黒崖と背赤の紹介。後、うちのクランが抱える天才薬学者が、お前に受けた毒の解毒薬を開発するのに付き合ってもらう」
「紹介か。それは構わないが、解毒薬の調合は無理だと……」
「俺が無理だと思ってるかどうか、お前なら分かるだろ?」
そう告げて黒崖を見つめると、黒崖が一瞬目を見開き、静かに頷いた。
「それで良し。分かったら行くぞ」
(ふぅ…… なんか性格のキツイ相手とやり取りしてると、こっちまで言葉遣いが刺々しくなってくる気がするな…… いかんいかん…… 平常心平常心……)
ベルに支えられながら、鋼鉄虫に乗り移動し始めるマサト。
先頭を黒崖、その後ろをマサトとベルが続き、白い靄となった永遠の蜃気楼、背赤達の順で進む。
道中に遭遇した構成員には、黒崖が事情を簡単に説明して下がらせた。
「この先が適性提供者の牢屋だ。私はいない方がいいだろう。ここで待機しているから心配するな」
「ああ、そうか。そうだな。分かった」
「鍵は渡しておく」
牢屋に閉じ込められている人達にとって、黒崖は恐怖の対象そのものだ。いない方がいいだろう。精神的にも。
(黒崖も、相手の気持ちが分からないわけじゃないのか……)
マサトとベルが、鋼鉄虫に乗りながら牢屋の前まで移動する。
すると、マサトの姿を見た適性提供者が騒ついた。
「どうして、ここへ……」
「ま、まさか…… やったのか?」
「あんた、勝ったのか?」
鉄格子越しに問いかけてくる適性提供者達に、事の概要を伝える。
「ああ。勝ったよ。竜語りの勝利だ」
「「「おおおおおお!!」」」
抱き合い、手を叩き合い、泣き合い、それぞれが喜びを露わにした。
「だけど、後家蜘蛛を全滅させたわけじゃない。この通り、手痛すぎる反撃を食らってね。満足に身体も動かせないんだ。だから、後家蜘蛛と交渉した」
マサトの言葉に、場が静まる。
皆が手放しで喜んではいけない何かがあると感じとったのだ。
マサトは続ける。
「今後、後家蜘蛛は竜語りの管理下に置かれる。黒崖には、今のような蛮行はさせないし、しないと誓わせた。今、俺にできるのはこれが限界だったんだ。それで納得して欲しい」
助けに来てくれた者にお願いされる形となった適性提供者達は動揺した。
誰も贅沢をいえるような立場にないと自覚していたからだ。
無事にここから出られればそれでいい。
その気持ちだけだった。
適性提供者達が皆一様に頷いたのを確認したマサトは、唯一、部屋の端でボロボロのぬいぐるみを抱えて震える女の子に気が付いた。
「あ、クズ! 助けに来たよ! もう大丈夫だから、出ておいで」
マサトの問い掛けにも反応せず、ずっと震え続ける狐人のクズ。
「ベル、俺がクズを迎えに牢屋の中に入るから、ベルは他の牢屋を開けて回ってくれるかい?」
「うん、分かった」
牢屋の入り口は狭く、鋼鉄虫が入らなかったため、痺れる身体に鞭打って、不恰好ながらも何とか自力で歩く。
そして、クズの目の前まで来ると、屈みながらクズの頭を優しく撫でた。
「大丈夫。もう大丈夫。一緒に帰ろう。な?」
恐る恐る、顔を上げるクズ。
すると、こう呟いた。
「こ、こわい人…… ずっと…… ずっとそこにいるの」
「えっ?」
ふいに、マサトの背後から声がかかる。
それは、聞いたことのある声だった。
「マサトさん、ここへまた来ると思ってました。でも、それが運の尽きです」
背中を何かが貫き、激痛が、激しい痺れとなって全身を駆け巡り、目の前が青色に明滅した。
「ぐ、ぐはっ!?」
身体が無意識に仰け反り、どうすることも出来ず床へ倒れこむ。
「デ、デクスト…… てめぇ……」
「マサトさん、あなたを殺せば、僕は後家蜘蛛で出世できるんです。出世すれば、新たな適性が貰える。そうすれば、希望の無かったゴミ溜めみたいな人生とは決別できるんです!」
「く、くそ…… 身体が……」
「僕の為に死んでください。さようなら、マサトさん」
ベルの悲鳴が、マサトを必死に呼ぶ声が聞こえる。
(くそぉ…… 油断…… した……)
そのまま闇の中へと意識を沈めていった。
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