【書籍化】マジックイーター 〜ゴブリンデッキから始まる異世界冒険〜
122 - 「後家蜘蛛抗争7」
巨大な白いドラゴンが、大口を開けて迫ってくる。
(これは…… 現実、か……? 幻術では…… ないのか……?)
奴が召喚魔法を使えることには心底驚いた。
召喚魔法自体が、古代魔法に属する失われた魔法形態なのだ。
それも一度でなく、複数体を同時に召喚するという並列詠唱を実行して見せた。
いや、同じ詠唱を立て続けにコピーして多重展開する多重詠唱だったのかもしれない。
かもしれない? 
違う。
違うだろ。
そんなことはどうでもいい。
普段であれば見過ごせない希少適性も、今この時ばかりはどうでもいい些事に過ぎない。
問題は、奴がドラゴンを召喚して見せたことだ。
ドラゴン種の戦闘力が、一国の軍事力を軽く凌駕することは、ローズヘイムの歴史を辿っても明らかだ。
そのドラゴンを召喚するだと?
ありえない。
鋼鉄虫の召喚魔法も十分あり得ないことだったが、ドラゴンの召喚魔法など、聞いた試しがない。
そんな話は、お伽話でも出てこない。
誰も想像すらしたことのない話だ。
だが、そんな嘘のような光景が目の前で起きた。
私だけでなく、多くの者が、目の前の光景をすぐ受け入れることが出来なかっただろう。
いや、出来なかったはずだ。
マサトのドラゴン召喚で呆気に取られ、滑稽な姿で立ち尽くす私達を、白いドラゴンの大咆哮が襲った。
間近で咆哮を浴びたことにより、一瞬意識が飛びかける。
他の者も、咆哮を浴びてよろめいていた。
だが、この程度で失神までするような軟弱者はいなかった。
当たり前だ。
ここに居るのは、後家蜘蛛が誇る屈強な精鋭達だ。
事前に、灰色の精神支配による精神強化もかけられている。
恐怖に対する耐性はすこぶる高い筈なのだ。
――だが、驚愕の出来事はまだ続いていた。
ドラゴンの後方に紅い閃光が走ると、空気を振動させるような轟音とともに、部下の断末魔の叫びが響いた。
何かが起きている。
そう警戒した直後、左右に火の粉を帯のように引いた火の玉が、構成員へ向けて高速で飛んだ。
――ドンッ
筋肉を硬直させる程の爆音と振動が、空気と地面を伝って瞬時に通り過ぎた。
火の玉を直撃した部下が爆散し、血肉が赤い霧となって周囲へ撒き散る。
近くにいた部下も、その爆風に四肢を弾き飛ばされた。
ふざけた威力だった。
[火魔法攻撃:大] の適正を持っても尚、あれ程の威力は出ないだろう。
――まだ驚愕の出来事は続く。
一発でも相当な高威力となる火魔法を、高速詠唱したのだ。
それも二発同時発動だ。
(高速詠唱に二重詠唱!? な、なんだなんだ!?)
連続で火の玉が放たれ、その度に部下が粉々にされていく――
(ふざけた真似を……!!)
ほんの少し前の出来事が、走馬灯のように駆け巡り、無意識に私の闘争本能に火を付けた。
(私が創造したこの空間で、これ以上奴に好きにさせてたまるか……!!)
沸々と怒りが湧き上がる。
すると、私を守るように、黒いローブの背中に赤い蜘蛛の紋章の入った――背赤の部隊が、ドラゴンと私の間に割って入ってきた。
背赤の部隊は、素早い身のこなしで、猛毒を仕込ませた刃鞭による波状攻撃をドラゴンへ仕掛ける。
いくらドラゴン種とはいえ、背赤達の猛毒を受ければ、普通ではいられないはず――だった。
「何!?」
現実は、容易く私達の想像を裏切った。
こちらの刃鞭による攻撃が、ドラゴンの身体を擦り抜けたのだ。
攻撃を仕掛けた背赤達に、ドラゴンが迫る。
背赤達は再び攻撃を仕掛けたが、ドラゴンは実体がないようで、こちらの攻撃は擦り抜けてしまい一切効果が得られなかった。
「やはり幻術か!!」
幻術であれば対処できる。
そう思い、口元を緩めた瞬間、ドラゴンに弾き飛ばされる背赤達が視界に入った。
「な、何だと!?」
こちらの攻撃は効かず、相手の攻撃はこちらに通る。
そんなふざけた話が……
危険を察知し、直ちに後方へ距離をとった私に、背赤達を弾き飛ばしたドラゴンが大口を開けながら加速した。
ドラゴンと視線がぶつかる。
狙いはあくまでも私か。
「トカゲ如きが調子に乗るなぁあああ!!」
私は全ての魔法適正を総動員し、渾身の魔力で、私の保有する最強魔法を、大口を開けて迫るドラゴンへと放った。
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