【書籍化】マジックイーター 〜ゴブリンデッキから始まる異世界冒険〜

飛びかかる幸運

46 -「煙突掃除の姉弟」

「ゴホッゴホッ……」

「お姉ちゃん、大丈夫?」

「うん、大丈夫。咳が出るだけだから」


 長年の煙突掃除により、灰や炭が肌に染み込んで黒くなった手を見ながら、血が出てないことが分かって少し安心する。

 両親は6歳のときに強盗に殺されたからいない。

 いるのは弟だけ。

 今はお父さんの遠い親戚だと名乗るおじさんの人のもとで暮らしてる。

 といっても、わたしたちが寝泊まりしてるのは、そのおじさんの家の脇にあるボロ小屋。

 冬はとても寒くて辛いけど、弟が一緒にいたからなんとか耐えられる。

 弟も同じ気持ちだと思う。

 8歳まではそのおじさんの家の掃除から畑仕事を手伝っていたけど、おじさんからはよく足手まといと言われて殴られた。

 そして8歳からは煙突掃除が仕事になった。

 家の手伝いをしていたときはよく殴られたけど、煙突掃除がうまくいってお金を稼げるようになったら、おじさんは何も言わなくなった。

 その代り、10歳を過ぎた頃から咳が止まらなくなった。

 最近では咳で血が出るときもある。

 血が出る度にわたしはとても怖くなる。


(こんなところに弟を置いて、死ねない……)


 わたしは今年で12歳になった。

 身体も大きくなり、煙突掃除にも支障も出始めてきた。

 それを知ったおじさんは、8歳になる弟が代わりに煙突掃除をしろと言った。

 わたしは反対したが、結局はおじさんに従うしかない。

 今はわたしが弟に煙突掃除の仕方やコツを教えてるけど、残念ながら弟は要領のいい方じゃなかった。

 よく同じ失敗をしては、おじさんに殴られてを繰り返している。

 それを庇うとわたしまで殴られた。


 今では、わたしと弟の髪は灰や炭のせいで黒くなり、肌は洗っても落ちないくらいに黒ずんでいる。

 そのせいで買い物のお使いも乞食に間違えられるためにできなくなった。

 一度、おじさんのもとを訪れた男の人に、この見た目じゃ奴隷娼婦としても売り物にならないと言われたこともある。


 ――死にたいけど、弟を残しては死ねない。


 それがわたしの本心だった。


 おじさんが腰を悪くしてからは、薪割りの手伝いで冒険者の人たちが来るようになった。

 一度だけ、わたしたちを見て食べ物を恵んでくれた女の人に、助けを求めたことがある。

 でも何も変わらなかった。

 その事実を知ったおじさんにいっぱい殴られただけだった。

 それからは冒険者の人たちがきても何もしない。

 ただ見ているだけ。

 結局は誰もわたしたちを助けてはくれないから。


 でも良いこともあった。

 おじさんが泥棒を警戒して犬を3匹買ってきたのだ。

 もちろん、お世話はわたしたちの担当になる。

 おじさんは名前を付けなかったので、わたしたちが勝手につけた。


 頬っぺたの垂れてる「グリ」。

 垂れ目の「プリ」。

 耳の垂れてる「ウリ」。


 グリとウリは 、プリは だ。

 この三匹のお蔭で、それ以降の冬は凍傷にならずにすんだ。

 今ではわたしたちの新しい家族だ。


 今日はおじさんの家の煙突を掃除することになった。

 煙突の上からロープを垂らし、それに掴まりながら徐々に降りて煙突の内側を掃除していく。

 おじさんの家の煙突は大きめなので、わたしが煙突掃除を担当し、弟のウィークが下に落ちた煤の掃除を捨てる担当にした。


 わたしがいつも通り、煙突の中を掃除していると、部屋からおじさんのどなる声が響く。


「このクソガキがぁ~! 煤を撒き散らすなと何度言ったらぁ! こいつっ!」

「ご、ごめんなさい! 痛いっ…… やめて……」


 わたしは歯を食いしばりながら掃除を続けた。

 弟を不用意に庇うと、お仕置きが酷くなるだけだから。

 早く終わらせてしまおうと焦ったのがよくなかった……


「きゃあ!?」


 ロープを掴み損ねたのに焦り、両足で踏ん張ったが、足を残して背中側だけが滑り、頭を下にして落下した。


 寸前でロープを掴むも勢いを全て殺せず―――


 ドンッ


 あまりの衝撃に呼吸ができなくなる。

 耳がキーンとなり、筋肉が強張った。

 誰かが近づいてきたような気がするが、煤が目に入り上手く開けられない。

 肺の中にもう空気は残ってないのに、咳が出て肺の空気を更に外に出そうとする。


 ぐ、苦しい……

 死んじゃう……


 痛みと苦しさで涙が溢れ出し、次第に意識が遠くなる。

 涙で煤が流れたのか、最後に少しだけ目を開けることができた。 

 そこには見知らぬ男の人の顔があった。

 この世界では忌み嫌われている黒髪黒眼。

 どうやらわたしはその男の人に担がれているようだった。


「大丈夫。俺が助けてやるから安心しろ」


 その男の人の笑顔とその言葉を聞いた途端、身体の力が抜けるような安堵感に包まれた。

 無意識にその男の人の手を握りながら、わたしはそっと意識を手放した。

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