【書籍化】マジックイーター 〜ゴブリンデッキから始まる異世界冒険〜
45 -「高級宿」
「目的の宿って、ここだよね?」
「うん…… 凄く立派な宿だね」
ボロ宿から一転、高級宿に泊まることになるとは思わなかった……
宿の敷地に入る門には兵士が立っており、宿の扉には執事が待機している。
俺とベルが敷地に入ろうとしたところで、兵士に呼び止められた。
「お客様、お手数ですがフードをお取りいただけますでしょうか?」
「あ、はい。すみません」
どうやらセキュリティは万全のようだ。
フードを脱ぐと、兵士が少し驚いた顔をしたのが分かった。
恐らく黒髪と白髪が珍しいのだろう。
「ご協力に感謝します。どうぞお通りください」
宿の前に待機していた執事に案内され、宿へ入る。
宿のロビーは、圧巻だった。
床は赤いふかふかの絨毯、天上には宝石のような小さな光る硝子で装飾されたシャンデリアが吊り下げてあり、部屋一面をまるで宝石箱のように照らしている。
壁には高そうな絵画が複数飾られており、ロビー中央には大理石で作られた女神像が、この宿に訪れる旅人を祝福しているかのように立っていた。
チェックインを冒険者カードで済ませ、部屋へ案内される。
「す、凄い凄い! マサトこっちきて! ベッドがこんなに大きいよ! それにふかふかぁ〜♪」
ベルが12歳相応のリアクションを見せたことにホッコリしていると、それに気付いたベルが頬を染めてこちらに戻ってきた。
「レイアさんいつ帰ってくるかな?」
どうやらなかったことにしたいらしい。
「まぁそのうち戻ってくるでしょ。シャワー室ついてるみたいだから先入っておいで」
「うん、分かった。そうするね」
着替えを持って部屋を出るベル。
それを見届けてから俺は、
「ベッドがこんなに大きい〜! ふかふかぁ〜!」
とベッドへダイブした。
「マサト酷いーっ! やっぱり馬鹿にしてぇー!」
戻ってきたベルにのしかかられる。
こういうおふざけコミュニケーションがあってもいいかもなぁと、俺は呑気にもそんなことを考えていた。
レイアは程なくして戻ってきたので、俺はなぜこんな高級宿にしたのか聞いてみたら、他の連中に目をつけられた以上、警備の厳重な宿の方が安心できるだろうという、もっともな回答が返ってきて納得してしまった。
どうやら、レイアはレイアで仮初めのギルドカードを複数持っており、それを状況によって使い分けているとのことだ。
俺はレイアと別れた後の出来事を正確に報告した。また怒られるかと思ったが、レイアは眉をピクピクと痙攣させただけで特に何も言わなかった。
急に何も言われなくなると、それはそれで心配になる訳で……
「これ、レイアにプレゼント。いつも迷惑かけてるから……」
俺は、袋から洋服屋で買った絹の刺繍入りハンカチを手渡す。
現世では、ハンカチを贈り物として渡すことへのタブーイメージが多かったので、もしものときのことを考えて本命はちゃんと別の物を用意してある。
抜かりはない。
白い絹のハンカチを見たレイアは、一瞬目を輝かせたが、何かを思い出したようにすぐさまいつもの仏頂面で俺を見返した。
「これを、私に? ハンカチか? ……いや、中に何か入って」
ハンカチをめくると、中には指輪が。
プラチナでできた甲丸リングに、紫色の宝石が等間隔で埋め込まれている。
それを見たレイアは動きを止め――
一滴の涙が頬を伝った。
そして、まるで子供が許しを請うような不安そうな表情で俺を見上げ――
「これを、私に?」
と言った。
レイアとは思えないくらい弱々しい声で。
「そう。レイアを守ってくれる大切な指輪だから、どんな時も必ず身に着けておいて」
俺は指輪を手に取り、レイアの左手薬指に嵌めた。
そしてマナを込める。
俺の手を通して淡い光の放流がレイアの手へと流れ、光の粒子を取り込んだ指輪は、レイアの薬指の大きさへと変化した。
その光景を見たレイアは、口元をへの字に歪め、目から大粒の涙を流しながら抱き付いてきた。
「おわっ!? レ、レイアさん?」
俺はレイアの背中をポンポンと叩く。
レイアが落ち着くまで暫くそうしていると、ベルがシャワーを終えて出てきたところだった。
ベルは俺とレイアが抱き合っている光景を見て、一瞬動きを止めたが、
「レ、レイアさん何かあったんですか!?」
と、駆け寄ってきた。
「なんでもない。少し眩暈がしただけだ」
レイアはそう言うと、俯いたまま立ち上がった。
そして顔を伏せたまま、シャワー室へと入っていった。
「先に借りるぞ」
「お、おう」
俺と顔を見合わせるベル。
「マサトって、意外にたらしだよね」
少しの間、気まずい空気が流れた。
[SR] 起死回生の指輪 (2)
装備コスト:(1)
装備者が致死ダメージを受けた場合、代わりに起死回生の指輪を破壊し、装備者をオーナーの場所まで転移させる。その後、装備者は+2/+2の修整を受ける。マジックイーターは装備することができない。
耐久Lv1
レイアに渡した指輪は、レイアが帰ってくる前に手持ちのマナカードで事前に召喚しておいた物だ。
装備者を一度だけ甦らせてくれる優秀な装備品である。だが、致死ダメージ以外だと効果が発生しないため、過信はできないが、保険としては十分だ。
これで所持しているマナカードは8マナになったが、まぁどうにかなるだろう。
因みにこの世界では結婚時に指輪の交換をするような儀式や伝統はない。
恐らく嵌める指で気持ちを表すとかいう風習もない…… はず……
シャワーから出たレイアは、何か憑き物が落ちたような清々しい顔をしていた。
その夜はキングサイズのベッドで、3人で川の字になって寝ることになったのだが、両腕をレイアとベルに抱き付かれ…… でも手を出せない状況にもんもんとしながら朝を迎えることになるとは思わなかった。
「うん…… 凄く立派な宿だね」
ボロ宿から一転、高級宿に泊まることになるとは思わなかった……
宿の敷地に入る門には兵士が立っており、宿の扉には執事が待機している。
俺とベルが敷地に入ろうとしたところで、兵士に呼び止められた。
「お客様、お手数ですがフードをお取りいただけますでしょうか?」
「あ、はい。すみません」
どうやらセキュリティは万全のようだ。
フードを脱ぐと、兵士が少し驚いた顔をしたのが分かった。
恐らく黒髪と白髪が珍しいのだろう。
「ご協力に感謝します。どうぞお通りください」
宿の前に待機していた執事に案内され、宿へ入る。
宿のロビーは、圧巻だった。
床は赤いふかふかの絨毯、天上には宝石のような小さな光る硝子で装飾されたシャンデリアが吊り下げてあり、部屋一面をまるで宝石箱のように照らしている。
壁には高そうな絵画が複数飾られており、ロビー中央には大理石で作られた女神像が、この宿に訪れる旅人を祝福しているかのように立っていた。
チェックインを冒険者カードで済ませ、部屋へ案内される。
「す、凄い凄い! マサトこっちきて! ベッドがこんなに大きいよ! それにふかふかぁ〜♪」
ベルが12歳相応のリアクションを見せたことにホッコリしていると、それに気付いたベルが頬を染めてこちらに戻ってきた。
「レイアさんいつ帰ってくるかな?」
どうやらなかったことにしたいらしい。
「まぁそのうち戻ってくるでしょ。シャワー室ついてるみたいだから先入っておいで」
「うん、分かった。そうするね」
着替えを持って部屋を出るベル。
それを見届けてから俺は、
「ベッドがこんなに大きい〜! ふかふかぁ〜!」
とベッドへダイブした。
「マサト酷いーっ! やっぱり馬鹿にしてぇー!」
戻ってきたベルにのしかかられる。
こういうおふざけコミュニケーションがあってもいいかもなぁと、俺は呑気にもそんなことを考えていた。
レイアは程なくして戻ってきたので、俺はなぜこんな高級宿にしたのか聞いてみたら、他の連中に目をつけられた以上、警備の厳重な宿の方が安心できるだろうという、もっともな回答が返ってきて納得してしまった。
どうやら、レイアはレイアで仮初めのギルドカードを複数持っており、それを状況によって使い分けているとのことだ。
俺はレイアと別れた後の出来事を正確に報告した。また怒られるかと思ったが、レイアは眉をピクピクと痙攣させただけで特に何も言わなかった。
急に何も言われなくなると、それはそれで心配になる訳で……
「これ、レイアにプレゼント。いつも迷惑かけてるから……」
俺は、袋から洋服屋で買った絹の刺繍入りハンカチを手渡す。
現世では、ハンカチを贈り物として渡すことへのタブーイメージが多かったので、もしものときのことを考えて本命はちゃんと別の物を用意してある。
抜かりはない。
白い絹のハンカチを見たレイアは、一瞬目を輝かせたが、何かを思い出したようにすぐさまいつもの仏頂面で俺を見返した。
「これを、私に? ハンカチか? ……いや、中に何か入って」
ハンカチをめくると、中には指輪が。
プラチナでできた甲丸リングに、紫色の宝石が等間隔で埋め込まれている。
それを見たレイアは動きを止め――
一滴の涙が頬を伝った。
そして、まるで子供が許しを請うような不安そうな表情で俺を見上げ――
「これを、私に?」
と言った。
レイアとは思えないくらい弱々しい声で。
「そう。レイアを守ってくれる大切な指輪だから、どんな時も必ず身に着けておいて」
俺は指輪を手に取り、レイアの左手薬指に嵌めた。
そしてマナを込める。
俺の手を通して淡い光の放流がレイアの手へと流れ、光の粒子を取り込んだ指輪は、レイアの薬指の大きさへと変化した。
その光景を見たレイアは、口元をへの字に歪め、目から大粒の涙を流しながら抱き付いてきた。
「おわっ!? レ、レイアさん?」
俺はレイアの背中をポンポンと叩く。
レイアが落ち着くまで暫くそうしていると、ベルがシャワーを終えて出てきたところだった。
ベルは俺とレイアが抱き合っている光景を見て、一瞬動きを止めたが、
「レ、レイアさん何かあったんですか!?」
と、駆け寄ってきた。
「なんでもない。少し眩暈がしただけだ」
レイアはそう言うと、俯いたまま立ち上がった。
そして顔を伏せたまま、シャワー室へと入っていった。
「先に借りるぞ」
「お、おう」
俺と顔を見合わせるベル。
「マサトって、意外にたらしだよね」
少しの間、気まずい空気が流れた。
[SR] 起死回生の指輪 (2)
装備コスト:(1)
装備者が致死ダメージを受けた場合、代わりに起死回生の指輪を破壊し、装備者をオーナーの場所まで転移させる。その後、装備者は+2/+2の修整を受ける。マジックイーターは装備することができない。
耐久Lv1
レイアに渡した指輪は、レイアが帰ってくる前に手持ちのマナカードで事前に召喚しておいた物だ。
装備者を一度だけ甦らせてくれる優秀な装備品である。だが、致死ダメージ以外だと効果が発生しないため、過信はできないが、保険としては十分だ。
これで所持しているマナカードは8マナになったが、まぁどうにかなるだろう。
因みにこの世界では結婚時に指輪の交換をするような儀式や伝統はない。
恐らく嵌める指で気持ちを表すとかいう風習もない…… はず……
シャワーから出たレイアは、何か憑き物が落ちたような清々しい顔をしていた。
その夜はキングサイズのベッドで、3人で川の字になって寝ることになったのだが、両腕をレイアとベルに抱き付かれ…… でも手を出せない状況にもんもんとしながら朝を迎えることになるとは思わなかった。
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