4 -「亀鍋」

　紅蓮ゴブに、卵の下に敷くための落ち葉やら枯れ草を集めてもらい、洞窟内へ即席の卵の巣を作る。

　途中、見ゴブ1、見ゴブ2が枝の束を集めてきたので、使う分だけ釜戸へ置いておき、残りは卵の巣に使った。

　この世界での夜がどれだけ冷えるのか分からないが、半袖で日中過ごせるくらいの気温であればそう問題はないだろう。

　と言っても、筋肉のお陰で、多少寒くても半袖で過ごせるくらいの代謝はある。

　狩りに出かけた案内ゴブ達がまだ帰ってこないので、見ゴブ1には「武器になりそうな何か」を探してくるように指示を出した。

　紅蓮ゴブと見ゴブ2には、洞窟内で寝るために小石や岩をどけてもらう。

　俺は亀鍋の火加減調整を担当。

　薪に使っている枝に水分が多いのか、火力は弱いままだ。

　甲羅に汲んだ水もまだぬるい。

（亀の内殻はあまり熱を通さないのだろうか…… このままバキッて、割れたりしないよね？）

　少し不安になりながらも、火を絶やさないように調整し続ける。

　すると、案内ゴブ達が帰ってきた。

　大量の食料？を抱えながら……

「お、おお。凄い大漁だ。これ全部お前達が狩ったのか？」

「ゴブ、ゴブブ」

　どうやら、案内ゴブが1人でほぼ狩ったらしい。

（案内ゴブの能力にある『不運な遭遇』効果？いや、違うのか？メッセージとか何もなかったし。まぁいいか）

　獲物は、でかいネズミが3匹に、角の生えたウサギが2匹。

　狂信ゴブは、野草やキノコを両手一杯に抱えている。

　野草やキノコが安全なのか聞いたら、案内ゴブは大丈夫だと自信たっぷりに頷いていた。

（案内ゴブが言うなら…… 信じるか。死にはしないだろ）

　案内ゴブが、そのまま亀鍋を任せろと訴えてくるので、飯の支度は全て任せた。

　すると、案内ゴブは他のゴブリンにテキパキと指示を与え始めた。

　紅蓮ゴブには火加減指示を、狂信ゴブには獲物と材料の料理補佐を、見ゴブ2には材料の水洗いと水汲みを、それぞれに指示を出した。

　案内ゴブから指示を受けた他のゴブリン達も、何の反発もなく順従に動いている。

（さすが召喚モンスター。仲間の連携はバッチリそうだ。頼りになるなぁ）

　暫くすると、見ゴブ1が武器に使えそうな丈夫な木の枝を複数持って帰ってきた。

　その見ゴブ1を加え、夕飯は巨大な甲羅に大量の野草やキノコ、亀肉の入った亀鍋を皆で囲んで食べた。

　煮込みに時間がかかったこともあり、その間に即席の木の槍や、俺用の箸も作ってもらった。

（案内ゴブ、有能だなぁ。何でも作れるじゃん。職人かよ。でも本当、召喚して良かったわ）

　彼を召喚できたお陰で、この世界で生きていく希望が少し見えた気がする。

　因みに、お椀は森に生えていた木の葉――大きく丈夫なものを折り重ねたもので代用した。

　亀肉は少し筋張っていて固かったが、一緒に煮込んだ香草やキノコのお陰で臭みはなくなっていて、比較的美味しく食べれた。

　角の生えたウサギは、皮を剥いで内臓を取り出し、近くの木に吊るしてある。

　ネズミも、ウサギ同様に皮を剥いで内臓類を全て取り出した後、肉を草に包み込み、釜戸の火元の脇へ置いて炙り蒸してから食べた。

　味はチキンみたいで美味かったが、腹を壊さないか少し不安だ。

　だって、ネズミだし……

　ゴブリン5匹に人間1人で亀鍋をつついたが、亀肉は半分以上残っている。

　それだけの量を運んできたから当たり前なのだが、少しの間は食い繋げそうだ。

　頑張って運んできた甲斐があった。

　食べ終わる頃には、日が傾き周囲が薄暗くなっていた。

　鍋に葉を被せ、用意していた洞窟の寝床へと向かう。

　小石を退けて、土の上に落ち葉を、その上に大きな葉を敷いたので、寝心地はそれほど酷いものでもなかった。

　ベッドに比べたら断然に悪いが贅沢は言えない。

　少なくとも冷たい地面の上で寝ることはなくなっただけでも良しとする。

　見張りについても、頼れる案内ゴブに一任したので大丈夫だろう。

　他のゴブリン達と、夜の見張りについて話し合っている。

　何語で話しているのかは、さすがに理解できなかった。

　ただ、なんとなくそういう意思が伝わってくるだけだ。

　これは召喚した者と召喚された者の繋がりなのだろうか。

　目を瞑りながら、もし明日目が覚めても、まだこの世界だったらどうしようかなぁと考える。

　食料はゴブリン達がいるから現地調達でどうにかなりそうだ。

　水の心配も、火の心配もない。

　でも病気になったらどうだろうか？

　ゲームの世界かも知れない場所で、病気の心配するのも可笑しな話だが、現実世界だと言う可能性も高い。

　やっぱり、早めに人の居る場所を探した方がいいだろう。

　もしかしたら、自分と同じ境遇の人が見つかるかもしれない。

（…ん？自分と同じ境遇？もしかして、兄も同じようにこの世界に飛ばされたんじゃ？）

　そして思考は徐々に脱線していき、マサトはいつの間にか深い眠りへと意識を沈めていった。