【書籍化】マジックイーター 〜ゴブリンデッキから始まる異世界冒険〜

飛びかかる幸運

3 -「仮拠点」

「ゴブリンの狂信者、召喚!」


 [UC]ゴブリンの狂信者 1/1 (赤)
 [自爆魔法Lv1]


 亀の肉を切り分けるために、マサトは新たなモンスターを召喚した。

 そのカードの名は「ゴブリンの狂信者」。

 ゴブリンの狂信者は、(赤)マナで召喚でき、いざという時は自爆させて敵にダメージを与えられる、とても使い勝手のよいモンスターだ。

 ゴブリンの道案内役は鉈を、ゴブリンの狂信者は短剣を最初から所持していたので、それを使ってもらい、持てる分だけ亀の肉を切り取ってもらった。

 ゴブリン達は嬉々として摘み食いしているが、流石にほぼレアなのでこのままでは怖くて食べられない。

 主に寄生虫とかが気になる。

 せめて食べるならこんがり焼きたいのだが、火を起こすのにマナカードと呪文を消費するのも気が引けるし、そもそも燃やすための薪がない。

 まぁ、まだそこまで切羽詰まってないし大丈夫だろう。


(それにしても、この大量の肉を放置していくの…… なんだか勿体無いなぁ…… 食用なら、なんとかして持っていけないかな?)


 すっかりファンタジー世界での冒険者気分になっていたマサトは、肉を運搬するための人手を増やせないか考えていた。


(うーん、もう少し人手が欲しい…… 仕方ない、ゴブリンを増やすか)


 人手は多い方が良いとばかりに、深く考えず追加のゴブリンを召喚する。


「ゴブリンの見張り役、召喚!」


 [C]ゴブリンの見張り役 0/1 (赤)
 [召喚時:ゴブリン0/1 召喚1]


 ゴブリンの見張り役は、召喚時に「ゴブリン 0/1 」を、もう1体追加で場に出す能力を持っている。

 所詮[C]レアリティの使い捨てゴブリンカードだが、今は消費マナを抑えながらも、純粋な人手を増やしたかったので、最適なカードと言えるだろう。

 因みに、(赤)で2体のゴブリンを召喚できる代わりに、このゴブリン2体は、攻撃力が0である。

 そのせいなのか、召喚されたゴブリンの見張り役達は、手に武器を持っていなかった。

 代わりに、腰に小型の望遠鏡っぽいものをぶら下げている。

 借りて覗いたところ、普通に望遠鏡だった。

 MEではただの装飾品扱いだったので気にしたことはなかったが、もしかしたらこれは使えるかもしれない。

 これは嬉しい発見だ。


 ゴブリン達が増えてきて呼び難くなったので、それぞれ名前を付けることにした。


 ・ゴブリンの道案内役 → 案内ゴブ
 ・ゴブリンの狂信者 → 狂信ゴブ
 ・ゴブリンの見張り役 → 見ゴブ1、見ゴブ2


(少しやっつけ過ぎるだろうか……)


 名前と言うより略称に近い。


(まぁ愛着がわいたらちゃんとした名前を付け直せばいいだろ)


 案内ゴブが、手慣れた手付きで亀を解体していく。

 岩陸亀の甲羅は外殻と内殻の二重構造になっているようで、外殻は岩のようにゴツゴツとしていて強度も高いが、その分とても重いので持ち運びには適していなかった。

 その点、内殻は乳白色の滑らかな曲線を描いており、強度も申し分ないようだ。

 何より1人でもなんとか担げるくらいの重さなのが助かる。

 5人で手分けすれば楽に持ち運べるだろう。


 甲羅の内殻部分に、解体した亀肉の食えると思われる部位だけ載っけていく。

 そしてゴブリン達と手分けして肉を載せた甲羅を持ち、移動を開始する。

 重い外殻は、村とか街で素材として売れるんじゃないかと一瞬考えが頭を過ったが、持てないものは仕方がないとすぐ諦めた。


 案内ゴブはどうやら水の気配がする場所へと案内してくれているらしい。

 うろ覚えだが、案内役のゴブリンは “流離いの冒険家だった” という設定があったはずだ。

 もしその設定が忠実に再現されているなら、その冒険家としての経験か何かで、水場を察知したのだろうか。

 ただの推測だが。


 道中、せっかくなので所持カードをざっと確認してみた。


《 初期デッキ 》

*デッキ名:なんちゃってゴブリンウィニー

*マナカード(赤):計20枚

*モンスターカード:計13枚
→ [C] レッサードラゴンの卵 0/1 (赤) 1枚
  [羽化]

→ [C] ゴブリンの見張り役 0/1 (赤) 1枚
  [召喚時:ゴブリン0/1召喚1]

→ [C] ゴブリンの木偶の坊 3/3 (赤)(1) 1枚
  [単独行動不可]

→ [UC] ゴブリンの飛空バルーン部隊 1/2 (赤)(3) 1枚
  [召喚時:ゴブリン1/2飛行召喚2]
  [飛行]

→ [UC] ゴブリンの狂信者 1/1 (赤) 1枚
  [自爆魔法Lv1]

→ [UC] ゴブリンの名手 1/1 (赤)(2) 1枚
  [弓攻撃Lv1]

→ [UC] ゴブリンの戦士長 2/2 (赤)(2) 1枚
  [攻撃時にゴブリン一時強化+1/+0]
  [召喚時:ゴブリン1/1召喚1]

→ [UC] ゴブリンの紅蓮魔術士 2/2 (赤)(3) 1枚
  [火魔法攻撃Lv2]
  [ゴブリン狂強化+3/+0]

→ [R] ゴブリンの道案内役 2/2 (赤) 1枚
  [攻撃参加時:不運な遭遇Lv2]

→ [R] ゴブリンの首長 2/2 (赤x2)(1) 1枚
  [ゴブリン持続強化+1/+1]

→ [R] ゴブリンの参謀長官 3/3 (赤)(4) 1枚
  [召喚時:ゴブリン1/1召喚4]

→ [UR] ゴブリンの女王シュビラ 2/4 (赤)(5) 1枚
  [毎ターン:ゴブリン2/2召喚1]
  [遺物破壊クラッシュLv3]
  [解呪ディスペルLv3]

→ [UR] ゴブリンの革命王オラクル 3/4 (赤)(7) 1枚
  [ゴブリン持続強化+2/+2]
  [カリスマ:ゴブリン]

付与魔法エンチャント:計4枚
→ [R] ゴブリン召喚の大魔法陣 (赤)(2) 4枚
  [毎ターン:ゴブリン1/1召喚1]
  [耐久Lv1]

簡易魔法インスタント:計7枚
→ [C] ショックボルト (赤) 4枚
  [雷魔法攻撃Lv2]

→ [UC] 粉砕 (赤) 1枚
  [遺物破壊クラッシュLv3]

→ [UC] ゴブリンの鬨の声 (赤)(2) 2枚
  [ゴブリン一時強化+2/+2]

大型魔法ソーサリー:計1枚
→ [C] 溶岩の片手斧ラヴァ・ハンドアックス (赤)(4) 1枚
  [火魔法攻撃Lv5]

*アーティファクト:計15枚
→ [C] レッドポーション (5) 1枚
  [ライフ回復Lv1]
  [使用制限:5回]
  [耐久Lv1]

→ [SR] 心繋きずなの宝剣 (5) 1枚
  [装備補正+X/+0 ※Xは支配モンスターの数]
  [装備コスト(3)]
  [耐久Lv2]

→ [C] ゴブリン呼びの鈴 (2) 2枚
  [生贄時:ゴブリン1/1召喚2]
  [耐久Lv1]

→ [UC] ゴブリン呼びの笛 (4) 1枚
  [生贄時:ゴブリン1/1召喚5]
  [耐久Lv1]

→ [UC] ウル山の水晶 (1) 1枚
  [マナ生成(1)]
  [マナ生成限界5]
  [耐久Lv1]

→ [R] ゴブリン呼びの指輪 (X) ※赤マナのみ 4枚
  [生贄時:ゴブリン1/1召喚X]
  [耐久Lv1]

→ [R] ウル山の紅水晶 (1) 1枚
  [マナ生成(赤)]
  [マナ生成限界3]
  [耐久Lv1]

→ [SR] 女王シュビラの結婚指輪 (3) 1枚
  [ゴブリン召喚コスト軽減:(1)]
  [生贄時:ゴブリン3/3召喚1]
  [耐久Lv1]

→ [SR] 起死回生の指輪 (2) 1枚
  [起死回生 装備コスト(1)]
  [耐久Lv1]

→ [SR] 猩紅色のダイアモンド (2) 1枚
  [マナ生成(赤)]
  [生贄時:マナ生成(赤x2)]
  [耐久Lv1]

→ [SR] マナ封じのペンダント (1) 1枚
生贄召喚:マナカード1
  [マナ生成:(生贄マナカード)]
  [マナ生成限界10]
  [耐久Lv1]


 ……。

 ………………。

 なんて言うか……

 眼が痛い。

 ダーっと流し見た結果、眼が痛くなった。

 心なしか、頭も痛くなってきた。

 内容が全く頭の中に入ってこない。

 どういうことだろうか。


 (あー、俺、こういう情報量が、ガーっとくるの、やっぱ駄目だ…… 正直、眠くなる。だからかなぁ…… TCG向いてないんだよなぁ。カードの情報読んでも中々頭に入ってこないし。まぁいいか、考えても仕方ない。デッキは後で1枚ずつ見ていこう。今すぐ把握しなくても、どうにかなる。うん、きっとどうにかなる)


 内容はともかく、このネタデッキ以外にも登録したデッキがあったはずなのだが、他のデッキやカード表示はなかった。

 そして、重要なマナカードは、残り17枚。

 マナがないと召喚できないので、こればかりは大切に使おうと心に留めておく。


 水場には、思いの外、早く辿り着くことができた。

 目の前には、剥き出しとなった岩肌から流れ落ちる小さな滝と、10㎡程度の滝壺が広がっている。


(よし! これで水場は確保できた!)


 後は雨宿りできる場所――寝床の確保だが、運の良いことに、滝壺のすぐ近くに洞窟があった。

 そこを当面の仮拠点とする。


(寝床も水場も確保できたから…… おし、飯にしよう)


 石を積み重ねて即席の釜戸を作り、その上に水で洗った甲羅を載せる。

 甲羅には水と亀肉を入れてある。

 そして、道中に拾った小枝を釜戸に敷き詰め、火をつけようとして手を止めた。


(火をつけるのに適した呪文がないじゃないか……)


 少し悩んだ末、マナカードの使用に踏み切る。


「ゴブリンの紅蓮魔術士、召喚!」


 [UC]ゴブリンの紅蓮魔術士 2/2 (赤)(3)
 [火魔法攻撃Lv2]
 [ゴブリン狂強化+3/+0]


 突如、目の前に紅色の淡い光の粒子が発現。

 その光の粒子は、大気中にパーッと広がると、何かに吸い込まれるように急速に集束し始め、背の低い人型を形取った。

 そして弾けるように霧散。

 光の粒子が集まった場所には、紅のローブに身を包み、手に立派な杖を持っているゴブリンが立っていた。

 ゴブリンとしては、清潔感のある見た目をしている。


 ゴブリンの紅蓮魔術士は、召喚コストが計4マナとそこそこ重い上に、本体のステータスは 2/2 と貧弱なモンスターだ。

 しかし、このモンスターの強さは、毎ターン火魔法攻撃を使えることにある。

 つまりはこいつがいる限り火種に困ることはない!

 ……はず。

 マナカードは13枚に減ったが、必要経費だと思うことにした。

 因みに「ゴブリン狂強化」とは、対象のゴブリンをターン終了時まで強化する代わりに、強化対象はその反動でターン終了後に死ぬという諸刃の強化スキルである。

 ゴブリンを使い捨ての鉄砲玉として使うなら、とても有効なのだが……


(リアル過ぎて、鉄砲玉として使うの躊躇しそうだよなぁ…… 取り敢えず、呼び名は紅蓮ゴブでいいかな)


 紅蓮ゴブにさっそく火をつけてもらい、案内ゴブと狂信ゴブには、周囲の探索と食料の調達に向かってもらう。

 見ゴブ1、見ゴブ2には薪拾いに行かせ、紅蓮ゴブは側で周囲を警戒させる。

 マサトは亀鍋の様子を見ながら、これからのことをボーっと考えていた。


 これからどうしたらいいのか。
 これからどうするべきなのか。


 正直、俺はそんなに頭の良い方ではないので、考えたところで全く良い案が思いつかない。

 少し考えては、まぁいいか、どうにかなるべ?と思考停止してしまう。

 兄からは脳筋となじられることもあったが、趣味は筋トレなので、逆に誇らしく感じていたくらいだ。

 体格はかなり良い方だと思う。

 アメフトでラインバッカーを任されるくらいには鍛えている。

 二の腕は兄の太ももくらいのサイズまでパンプアップしてあるが、サバイバル生活でこの筋肉を維持することは出来ないだろう。

 プロテインが絶対的に足りない。

 物凄く残念ではあるが仕方ない。

 と、また思考が脱線した……


 悩んだときは、兄ならどうするかを考えることにしている。


(兄なら…… うーん、やはりマナカードの消費を最低限に抑えるために、マナ生成用のアーティファクトを先に召喚しておくだろうか)


 兄には「マナ生成は戦略の基本」と何度も言われていたので、きっとここでも有効だろう。

 取り敢えずマナ生成カードを所持カード一覧から探す。


 [UC] ウル山の水晶 (1)
 [マナ生成(1)]
 [マナ生成限界5]
 [耐久Lv1]

 [R] ウル山の紅水晶 (1)
 [マナ生成(赤)]
 [マナ生成限界3]
 [耐久Lv1]

 [SR] 猩紅しょうこう色のダイヤモンド (2)
 [マナ生成(赤)]
 [生贄時:マナ生成(赤x2)]
 [耐久Lv1]

 [SR] マナ封じのペンダント (1)
 [召喚時 : マナカードを1枚生贄に捧げる]
 [マナ生成 : (召喚時に生贄に捧げたマナカードのマナ)]
 [マナ生成限界10]
 [耐久Lv1]


(あーこれこれ。思い出した思い出した。あっ! マナ生成限界のない希少なアーティファクトがあるじゃん!)


 マナ生成限界とは、文字通り「マナを生成する限界値」を指している。

 マナ生成限界3だと、計3マナまで生成でき、マナ生成限界10だと、計10マナまで生成できる。

 マナ生成限界に達すると、それ以降はマナを生成してくれない。

 ただ、限界に達しても壊れることはないので、マナが生成できなくなったアーティファクトでも、他の魔法で再利用したり、生贄に捧げて使い捨てすることも出来たりする。

 マナ生成系のアーティファクトは、どれも1枚ずつしか入っていなかったが、この状況では物凄くありがたいカードだった。


(兄よ…… ありがとう!)


猩紅しょうこう色のダイヤモンド、召喚!」


 突如紅色の粒子が手の平から舞い上がり、光の中から楕円形の宝石が現れた。


(おお、綺麗な宝石だ…… 売ったら高そう)


 日本に持ち帰れたら、いくらになるかなぁと少し現実逃避。

 マナカードが残り11枚になった事を確認し、ちゃんと使えるかどうか試してみることにした。


 [SR] 猩紅色のダイヤモンド (2)
 [マナ :(赤)]
 [マナ生成(赤)]
 [生贄時:マナ生成(赤x2)]
 [耐久Lv1]


 猩紅色のダイヤモンドにマナがあることも確認。

 ダイヤモンドを握りつつ、召喚呪文を行使する。


「レッサードラゴンの卵、召喚!」


 手の平で輝く猩紅しょうこう色のダイヤモンドから、紅色のマナが光の放流となって空中へ舞い上がり、目の前の地面へと集束しながら、光の球体へと変化した。

 地面には直径30cmはあろうかと思える、巨大なまだら模様の卵が、まるで初めからその場所にあったかのように転がっていた。


 [C] レッサードラゴンの卵 0/1 (赤)
 [羽化]


 このカードは、とても好きなカードの1つだったのでよく覚えている。

 召喚してから5ターン後にダイスを2個振り、1のゾロ目が出たらレッドドラゴンに進化するロマンカードだ!

 なぜゴブリンデッキにこのカードが? と思うかも知れないが、それは兄から貰った後に、俺が好きだからという理由で追加したからだ。

 もちろん、兄にはこのデッキに、レッサードラゴンの卵は合理的じゃないと反対されたが、MEの楽しみ方は人それぞれだというもっともな理由で押し通した。

 因みに、ダイスが外れてもレッサードラゴンに進化してくれる。

 この世界で、5ターンっていうのがどういう単位で進むのか分からないが、たとえレッサードラゴンでも、ドラゴン種が1体いるだけで大分戦力は違うはず。

 もしかしたらレッサードラゴンに騎乗できるかもしれない。

 レッドドラゴンに進化したらラッキー! 程度に思っておこう。


 [SR] 猩紅しょうこう色のダイヤモンド (2)
 [マナ : なし]
 [マナ生成(赤)]
 [生贄時:マナ生成(赤x2)]
 [耐久Lv1]


 ダイヤモンドのマナがなくなり、所持マナカードも減ってないことを確認。


(よし! 上手くいった!)


 ダイヤモンドをポケットにしまい込み、レッサードラゴンの卵をどうするか考える。


(あ…… そういえば、この卵…… 羽化するまで温めないとダメとかないよね……)

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