シスコンと姉妹と異世界と。
【第188話】父と迷子なチビッ子と⑰
「転移門ってどこだっけ……」
「副理事長室。まぁ名前だけで誰も使ってない、転移門専用室って感じだけどな」
「そっかそっか。一応学園長さんには話通した方がいいのかな?」
「まぁそりゃそうだろ。急に魔力(マナ)がボンと学校中に響いたら事件かと思われちゃいそうだし」
ユイが転移を済ませ、俺だけが部屋に取り残された状況で先生方がなだれ込んできたらと思うと……、事前説明は必須だと思うのだ、絶対。
姉さんやローズに恥をかかせる訳にはいかないしね。
ただでさえ姉妹に対しては、座学がダメという点で足引っ張っちゃっているみたいな、引け目を感じてるのに……。
サボった上に問題起こしたら殺されるかもしれん、実の姉に。
ローズはまぁ、なんか奢れば許してくれるだろうけど。
「ほら、ここが学園長室だ」
「玄関から近いね!」
「来賓をあんまり歩かせるわけにもいかないんだろ。ヴィオラさんいっかな……」
コンコン、と、戸をノックすると。
「どうぞー」
と女性の声が。当然声の主はヴィオラさんだが、少し安堵した自分が居た。
「失礼します〜」
中に入ると、学園長の席がくるっと回転してヴィオラさんの姿が。優雅に脚を組んでおられる。
「あれ? ショー君、確か昨日今日と風邪で休みじゃ……?」
風邪? 馬鹿は風邪引かないって言うけどねぇ……? 姉さんが上手いこと言っといてくれたんだろうか。
「回復したので、とりあえず顔だけでも出そうかと思って……」
だからといって普通は学園長室に向かう事は無い。毎日のように入り浸りしてる人間なら兎も角として。言い訳としてはレベルが低いなと自分でも思う。
「まぁ単位制なわけだし一日二日休んだ所で大したことない……」
ふとヴィオラさんが俺に向けていた視線を落とす。
「誘拐?」
「違います!!!」
「!!??!? ショー君、そう言えばちょっとアリスが呼んでたの思い出したわ。この子のことはわたしに任せてそっちへ行きなさい」
「え、でも」
「いいから行きなさい」
こんな調子で追い出されてしまった。アリスさんが本当に呼んでたにしたって、どこに行くべきかくらいは教えて欲しかったのだが。
とりあえずアリスさんたちの教室に向かう……か?
でも、上級生しか居ない環境ってなんか嫌なんだよな……。「アイツがエリーゼ様の愚弟か」みたいな視線をヒシヒシと感じるから。主に男子から。女の先輩方は普通に接してくれていると思う、多分。
とは言っても世間話に花を咲かせるでもなくて、挨拶を交わすか姉さんのことを聞かれるかなんだけど。
まぁ、二十四時間以上姉さんにも会ってないし、お姉ちゃん成分が不足してるから補給しに行こう。
そんなわけで上級生の巣食う二階へ上がる。
「あ、ショーくん。休んでたみたいだけど元気してる? 明日は平気そう?」
と声を掛けられた。
声の主はいつの間にか真横に並んでいて、皐月の深緑の様な、ダークグリーンのゆるふわロングを揺らしていた。
久しぶりの登場、ゾラさんだ。
ホント久しぶりなので、精一杯の表現をしてみたのだがどうだろうか。
かつて海へ行った時、水着の上を外しながら俺にサンオイルを塗らせている最中に堂々仰向けになる人だ。
その辺がやや無頓着な感はあるが、魔法も座学も、テストでは学年で五本の指に入る程だと言う。
「はい。放課後、いつもの場所ですよね?」
「うん。待ってるからね先生。それじゃ」
要件だけ言って、スタスタと行ってしまった。
そんな彼女が何故俺を先生と呼ぶのか。
それはまた次回以降に語ろうと思うのでよろしくお願いします。
「この時間って姉さん空いてたっけか……? もしかして授業中だったりするかな」
廊下で悩んでいると、階段の方から来る何人かの生徒の中に、並んで歩くサニーさんとアリスさんを見つけた。俺の視線に気付いたのか、何やら二人で話し合っているようだ。悪巧みの算段でもつけたのだろうか。
回れ右しようかと悩んだが、人目に付く廊下ではしゃぐのは止めておこうと観念した。
「やっほーショーくん。元気してた?」
「どうせショーくんの事だから、何かやらかしてたんじゃないの?」
「どもっス。二人で何処か行ってたんですか?」
心配してくれるサニーさんと、茶化しているつもりで核心を突くアリスさん。
掘り下げられるとボロが出て俺の死期が大幅に近づきかねないので、取り敢えず二人の話題に。
「二人でお昼ご飯っ。サニーが『お腹空きすぎて死ぬ〜』って言ってさ〜」
「ち、ちょっと!? ち、違うのショーくん! その……えっと……」
「サニーさんが持ってるそれって何ですか? もしかしてお土産!?」
赤面して俯いてしまったので、助け舟を出すことにした。
にしてもなんだろう、手さげの中身。
「ほうほう。それに気付くとはお目が高いねぇショーくん。それはね、エリーゼに渡そうと思ってた君用のお薬だよ〜」
「風邪ってお姉様から聞いてたから買いに行ってたの! ご飯はそのついでだから、いいね!?」
「は、はいぃぃ!!」
「そ。理解が早くていいね。それじゃほら、これ!」
「ありがとうございます……」
サニーさんに差し出された手さげを受け取り、中を見るとユン○ルくらいの小瓶が二つ。
というか、実際のとこ風邪じゃないからちょっと後ろめたい。
「赤い貼り紙してあるのがね、普通の風邪薬で」
「ちょっと待ってくださいね? 今なんでわざわざ『普通の』って強調したんですかね!?」
「青いのが、ウチで作った『スタミナンX』だよ!!」
これまた何かのゲームに出てきそうな名前を……。
アリスさん前世ではゲーマーだったんだろな。
「この、『しゅたみなんえっくす』ってのが凄いんだって!」
サニーさんの言わされてる感が凄い。通販みたいな喋り方になってるけど、突っ込まないで話だけでも聞いておこう。わざわざ二人が俺のために買ってきてくれたのは間違いないんだし。
「効果としてはね、汗かいて失われた水分の補給、体力、気力の補給かな」
「……え? それだけですか?」
「まあね。これが凄いのは速効性だから。『治療魔法』を瓶に詰め込んだようなものだからね。ホント身も蓋もないこと言えば、HPとMPを同時に回復するものだと思ってもらえれば」
「分かりやす過ぎる説明ありがとうございます」
「ただ、副作用としてね……」
アリスさんが溜めを作る。隣のサニーさんも『初めて聞くけど!?』みたいな顔をしている。俺は続きを待った。
「騎士隊の実戦、最前線での投入を目的に作られてるから、ちょっと女子供では容量過多になるかもしれないの」
要するに、親父みたいな屈強な戦士が主に使う事を前提としたから、ってことだ。
「わかりやすく言えば、体内の魔力が薬の作用で活発になり過ぎて妙にハイになることがある、かな」
「その効能はメディスンじゃなくてドラッグ寄りですやん……」
「勿論、一人一人の魔力保有量には個人差があるから一概にそうとは言いきれないんだけどね」
今の俺には必要なさそうだし、二つとも家の薬箱にでも突っ込んでおこう。そうすりゃ姉さんやローズが風邪ひいた時に役に立つべ。
「あ、そうだ。姉さんってどこにいます?」
「ウチの系列店でドレスアップ中じゃないかなー、今頃。勿論ローズちゃんも一緒だよ」
悲報。俺よりガチめに姉妹(ふたり)が学校を休んでいた件。
「姉さんは兎も角として、ローズには授業が……」
「あ、そのへんは大丈夫。学園長の方に話付けてあるから。最初は建前もあって渋ったんだけど、『ヴィオラも招待するから』って言ったら即堕ちだったよ」
イェイとブイサインをキメるアリスさん。なんだかんだで学園長より立場が上になってしまっている様。
「わたしも行くんだー☆」
碧空を喜ぶ向日葵のような満面の笑みでサニーさんも言う。
「あと上級生で行けるのはゾラかな。『美味しいものが食べれそうだ』って喜んでた」
と、アリスさん。理由を聞いた俺は思わず、
「それって……」
「ローズちゃんみたい、でしょ!?」
「「「あははははっ」」」
三人の笑い声が重なる。さすがに周りからも注目を集めてしまったようだった。
「サニーさんはドレス合わせに行ったんですか?」
「まだだよ。この後、アリスとゾラと三人で行く予定なの」
「そゆこと。ショーくんも一緒に行く? エリーゼにはわたしから連絡してさ、後で合流出来るようにして六人でご飯でもどうかな、って思うんだけど」
「あっ。じゃあお願いしまーす」
この後は危惧していた、女性五人による取調べも行われることなく、なんのトラブルもなく、平和に一日が終わった。
ただただ、長い長い二日間であった。
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