シスコンと姉妹と異世界と。
【第183話】父と迷子なチビッ子と⑫
「ふぅ……」
シャワーを済ませ、湯船に浸かる。
ガンガンに曇っていたガラスも晴れ、ベッドからこちらを見ている二人の姿を視線に捉える。
サンドイッチを先にモグモグしているようだった。
「おーい」
とりあえず手を振ってみた。
さすがに湯船まではスケスケじゃないから、色々と大丈夫な筈だし。
と思ったが、返ってきたのは微妙なリアクション。手を振り返してくれてはいるのだが、どこかぎこちない。
二人に何かあったのだろうか?
風呂を出るまで、この疑問が晴れることは無かった。
___フェリ・ユイのターン。時はショーが風呂を出るより前、シャワー中に遡る。
「あの……」
「はい……」
「「見えちゃいましたね……」」
私としては、男の肌なんて初めて目にするものでは無いが、ユイちゃんは別だろう。
なんてことをしてくれたんだあのご主人様は。
でも、
「思ったより、ユイちゃんも慌てないのね……」
「ま、まぁ……。どうしようもないってのもあるんだけど……」
「ごめんなさいね、うちのご主人様の粗末なモノを見せる形になっちゃって」
「改めて言われると……」
ポンとユイちゃんの顔が真っ赤になる。まだまだお子様ってなもんよね。
「ねえユイちゃん、相談なんだけど」
「どうしたのフェリお姉ちゃん?」
「次、私たちが入るわけだけど、このままじゃ良くないよね?」
「確かに……、乙女の柔肌を見せるわけにはいかないもんね!」
乙女の柔肌、って……。最近の子はこうもマセてるものなのかな?
「私たちがお風呂に入っている間だけでも、ご主人様には眠っててもらおうと思うんだけど……賛成?」
「大賛成! でもどうするの?」
それは勿論、定番中の定番、
「食べ物に仕込むのよ。ほら丁度サンドイッチを買ってきてもらってますし、そこに細工しましょう」
「フェリお姉ちゃんはそういうお薬とか持ってるの?」
「いいえ。でも空気を使って魔法で作れるの」
シテる時には媚薬効果のある成分を調合したり。どこかに侵入する時なんかにも睡眠効果のあるのを重宝してたっけ。
まぁ、魔法による空気の調合は婬魔になる前、人間の時から得意にしてたんだけど。
「凄い! わたしにも出来るかなあ?」
「見たところ、ユイちゃんの得意魔法は自己強化に特価してるわよね? そういう意味ではちょっと難しいかもね……」
「え!? なんでわかっちゃうの!?」
ユイちゃんはひどく驚いたようで、思わず立ち上がっていた。
「そりゃまぁ魔法士としての格よね。ずーっと昔になるけど、かなり腕は立ったんだから」
そう言って力こぶを作る。
ご主人様の両親のような二つ名があったわけではないが、単体で城一つを攻め落とせる、くらいには言われていたものだ。
それじゃ、
「ちょちょいのちょい〜」
サンドイッチに魔法をかける。
香ばしいパンや食材の香りを感じ取ると同時に、コロリと気付く間も無く逝けることだろう(夢の中へ)。
「念には念を……」
懐から取り出した小瓶を湯呑みに垂らし、お茶を再び注ぐ。
「フェリさん、それは?」
「心を落ち着かせる薬……みたいなものね。変に眠くなったり害のあるものじゃないから、ユイちゃんも呑んでみたらどうかしら? 色々と今日は疲れてるみたいだし」
 「へぇー。それじゃあ、いただきます」
ユイちゃんは豪快にも喉を鳴らしてぐびっと飲み干した。
「ふぅ……。あれ? なんか身体が暑い?」
「そりゃそーよ。だってお酒だもの」
昔から眠らせるといえば、お酒と魔法の合わせ技が基本だった。驚く程にその効果は抜群だし、なにより深く眠ってもらわないと、『精力吸収』のお礼のイイ夢を
見せてあげられない。
「えぇ!? わたし未成年ッ、あ、やば、それどころじゃッ、ない、かも……」
パタリと仰向けにベッドへ倒れ込んだユイちゃん。思った以上にお酒には弱かったらしい。ちょっと悪いことをしたかもしれない。
「おーい、ユイちゃーん、だいじょぶー? って、ちょ、えぇ!?」
急にユイちゃんの身体が、魔力を孕んだ青白い光に包まれて___
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