シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第151話】北の幸⑫




 「うぁー疲れたー」

 例の組織のメンバーである、『時計クロック』のキャシーとの邂逅を終え無事に帰ってきた。
 何やかんやで緊張していたのだろうか、自分の部屋に戻ってくるなりベッドにダイブを決めてしまった。

 「…………ぬぁー」

 「ショーくん、お疲れのところ悪いんだけど……」

 色々あって同室になったサニーさん。なんか髪ちょっと濡れてて色っぽい。

 「? 膝枕耳掻きでもしてくれるとか?」

 「膝枕くらいならお安い御用なんだけど、そうじゃなく。ちょっと窓から外見てみて?」

 「はーい。よっこらせっk、おっとっと」

 思わず口が滑りそうになってしまった。んなしょーもないことでドン引きされるのは悲し過ぎる。

 「……」

 ベッドに腰掛けていたサニーさんがスっと足を掛けてきた。

 「えっ? とわっ!?」

 避けきれずに横転。なにかに捕まろうと手をバタバタとさせると、右手は確かに柔らかな手応えを得た。そしてそのままサニーさんを押し倒してしまう。

 「あれ? さっきもこんなことしてませんでしたっけ?」

 「人の胸鷲掴みにしたまま冷静に語らないで欲しいんだけども……」

 だってわざと足掛けたのはサニーさんやないですか……。俺のせいちゃいますわー。なんて言えるわけもなく。

 「アレなの? ショーくんはわたしなんか女の子として眼中に無いってことなの? だからおっぱい触ってもドキドキもしてくれないんだ……」

 (何言い出してるんだ急にッ!? おっぱいに興味が無いわけないじゃないかッ!!!)

 と言いつつちゃんと飛び退いている辺り、とんだチキン野郎だなと自分で自分が嫌になる。てかなんでいつも俺が自己嫌悪に陥らなきゃならないのよ。

 「で、外でしたよね……。ってなんじゃこりゃ……、世紀末かな?」

 『一九XX年、世界は核の炎に包まれたッ!!』的な感じの光景が広がっていた。なんというか空爆後の市街地みたいな。

 「ありゃ、マリーさんとアリスさん? 喧嘩でもしてんの?」

 肩で息をしながら逃げ回るアリスさんと、対照的に笑いながら特に動くこと無く魔法を小さく打ち続けているマリーさん。
 アリスさんからしたら防戦一方で、マリーさんとしては遊んでいる感じなのだろうか。

 「あ、姉さんもいる。審判やってんのか」

 止めようがなくてオロオロしてるけど。小動物みたいでなんか萌える。本人には絶対言えないけども。
 もし言ったら俺が小動物みたいな扱いを受けるけども(主に可『可愛がる』のベクトルが変わる)。

 「なんかねー、ショーくんたちが歯医者行くのに出てってからすぐにアリスとお姉様が手合わせ始めて。それに触発されたのかマリーさんが動いて今に至る感じ」

 「サニーさんは行かなかったんすか?」

 「んー。さっとシャワー浴びてたからね。ほら、髪がまだちょっと乾ききってないでしょ?」

 「あ、ホントだ」

 たしかに触ってみると、若干の湿り気を感じ取れた。

 「行く?」

 「下にっすか?」

 「うん」

 「いや、止めときます。巻き込まれて身体中穴だらけとかにされたくないですしね。こーやってのんびりサニーさんとお話してる方が幸せですよー」

 下手に巻き込まれて修繕費用を負担させられたりでもしたら大変なことになりそうだもの。冬休みぶっ潰してバイトに明け暮れなきゃいけないなんて悲し過ぎる。
 正月は実家に帰って父さんも一緒に家族五人でのんびりしたい。

 「もー。そーやって調子いいことばっか言ってー」

 ぷうっとしちゃいるが、どこか笑っている。まぁ悪い気はしていない、ってところだろうか。

 「あ、そうそう。ショーくんに聞いときたいことがあったんだった」

 「聞いときたいこと?」

 恋バナは夜にやるもんだと思うんだけども……。

 「そ。なんか洗面台に置いてある物の中で一つ使い方分からないのあってさ」

 「サニーさんで分かんないものを俺がどうこう出来る気がしないんですけど……」

 「ま、まあまあ。物は試しにさ、見てきてよ。歯ブラシの隣に並んでるから」

 なんだろう。なにか釈然としない感じはするけど。とりあえず言われるがままに洗面台に向かう。

 「あ? ふむ……、うーん………………」

 ペン立てみたいな物に歯ブラシが二本入っていて、それらと一緒に綿の付いた引っかき棒があった。おそらくサニーさんが気にしていたのはこれのことだろう。
 それよりも視界の端に留まって離れないのが、綺麗に畳まれた女性用下着(ピンク色の上下セット)。

 「どうしよ」

 本来ならばどうもこうも無いのだが。
 まぁ被るのが論外なのは分かる。どうやっても変態仮面にはなれないのだし。
 嗅ぐのもダメだ。その一線を超えたら人としての何か大事なものを失うのが目に見えている。
 ド級の変態トロフィー回収祭りは今現在行っていないのだ。勿論今後も開催する予定など無いのだが。

 「どう? どうやって使うか分かった?」

 「うおっ!? あ、はい。用途は確認できましたので大丈夫ですはい」

 両手を挙げて何も持っていませんのポーズ。

 「……、その手に持ってるのは?」

 「へ?」

 サニーさん指差す先。そこには俺の手があり指先(with肩ヒモ)があり。

 「おっふ」

 「遺言はそれだけ?」

 「やっぱり、おっぱいってイイっすね」

 「ありがとう」

 ブツンと意識が吹っ飛んだ。



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