シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第142話】北の幸④




 「なんでここまで来てこんな扱いなの俺ッ!?」

 頭を抱えて深く重くしゃがみこむ。

 「……、とりあえず誰がどこの部屋を割り当てられてるのか確かめよっか」

 無情にもアリスさんは俺をスルーし、話を前に進めた。
 皆、「これわたしの荷物じゃない」、「あ、これわたしの!」、「ん? これは?」とワイワイしながら各部屋を行ったり来たり。
 特に出来ることもないので、廊下の壁に背中を預けて体育座りをしていた。

 「ショーくんは誰と寝たい?」

 結局この議論に落ち着いた。落ち着いてはいられないのだが。

 「一人部屋……じゃなかったんすか?」

 「うん。ちゃんと各部屋ベッド二つが備え付けてあるわよ。別にわたしは同じ一つのベッドを使ってもいいのだけど?」

 なんと魅力的かつ悪魔的な提案だろうか。

 「じゃあ」

 「ショーは特別にわたしの部屋で預かろう。アリスと一緒だと何をされるか分かったものじゃないからな」

 乗ろうとしたところ、遮られた。かけられた梯子はしごに手をかけた瞬間に外されたような。
 特別にっても、普段寮で一緒の部屋で過ごしているわけだし……。それでも姉さんと二人ってのは無いからなぁ。新鮮かもな。

 「じゃ」

 「それなら、お兄ちゃんはわたしと一緒に。わたしだったらちっちゃいから一緒のベッドでも大丈夫だし!」

 またもや発言の機会を失う。次はローズか。
 確かに体躯としては小さいが胸は別だ。……実に面白い。
 というか、別々で寝るって選択肢どこいった?

 「じ」

 「わたしも一緒がいいな。その……、慣れないところで一人で寝るのってちょっと怖いじゃん? だから……」

 その上目遣いはズルいですよサニーさん。普段の明るい感じとのギャップね。あーこりゃこりゃ。
 頼りにしてもらえている、ということなのだろうか。

 「いっそもう俺だけ廊下でもいいよ? 荷物もあることだし……」

 「「「「それはダメ!」」」」

 四人から真っ向から否決された。かといってここで一人を選ぶのは良くいえば男らしいのかもしれないけど、色々と角が立つというか……。しこりが出来てしまう気がするのだ。

 「じゃ、ジャンケンにしよ!」

 サニーさんの提案。妙に自信がありげだが……。

 「それなら、公平だし文句は無いな!」

 姉さんも乗ったことでこの路線が確定。
 結果は四回連続あいこの後、サニーさんが勝ちきった。




 そんなこんなで、各自の部屋に入った。
 その中の、陽光が鋭く差し込むとある一室にて。

 「はぁ、何でここ一番で運が無いのかね」

 アリスが自分の手を見ながら呟く。

 (折角二人で来れるいい機会だと思って半ば強引に連れて来たけど、結局エリーゼだったりローズちゃんだったりサニーだったりを、ショーくんは誘っちゃうし。女心が分かってないのよね、まだまだ)

 「むう……」

 どうしたものかと思考を巡らせる。が、これといった案も浮かばないのだった。
 声をかけにいこうにも、確実にサニーがいる状況では二人でどうこうと誘うわけにもいかない。

 「まぁ、サニーの気持ちも分かってるんだけどねぇ……。こればっかりはどうも譲りたくないっていうかなんていうか……」

 実際問題、この点がアリスを悩ませる最大の要因となっていた。友達の恋を応援したい気持ちもあるし、自分の気持ちも当然ある。積極的に奪いに行くなんて出来るわけもなく、かといって黙って見過ごすわけにもいかない。

 「あーあ」

 「むぎゃっ!?」

 ベッドに身体を投げ出した途端に身体の下からうめき声がした。それに、確実に人間の感触がある。掛け布団を剥がしてみると、

 「なにしてんのクラリス。……てかなんで下着」

 アリスが呆れた調子で声を掛けたその相手、クラリス。
 アリスにとっての幼なじみであり、代々デュボワ家に仕えてきた家系の出身である。色々あって現在では同じ学舎に通っているが、それまではアリスの専属メイドであり、先の文化祭においてはショーのクラスの出し物であるメイド喫茶にて特別講師を務めたりもした。

 「うぅ……、ぐるじい、重い」

 「はぁ!? テキトーなこと言わないでよ!」

 「だって実際ッ」

 「アリスさん大丈夫ですかッ!?」

 ショーが御用だとばかりにカチコミをかけてきた。

 「ちょっと、なんでこのタイミングなのよ、もう!」

 アリスは手元にあったものを適当に数個掴み(ブチっと音を立てたのが気になったが、もう既に投げるモーションに入っている)投擲。

 「うわわわぁっ!?」

 ショーは自分の顔に投げつけられたものを払いのけようとして偶然キャッチした。

 「ショーくん平気? なんか凄い声したけど……」

 「はい、大丈夫でした、なんとか」

 ビキリッ、と音が聞こえたような気がして、ショーは思わず口をつぐむ。

 「ショークン、ソノテノナカニアルモノハナニカナ?」

 「カタコト怖い! は? へ? うわぉ!?」

 アリスは見た。ショーが手にしていたのは純白のブラであった。しかしそれはアリスのものではない。アリスはどちらかというと濃い目の色を好む。黒とか。

 「アリスのバカぁ……」

 潤んだ瞳でこちらを見上げるはクラリス。久しぶりの出番だというのになんだか申し訳なくなる。アリスが引きちぎったのは彼女のそれだったのだ。

 「クラリスがそんな格好で寝てるからッ」

 「……………………、たすてけ」

 そんな声が聞こえた気がしてふとショーの方を見やると、ショーが引きられてドアの外へと消えていった。

 「お疲れ様……」

 とりあえず、手を合わせることしか出来なかった。



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