シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第137話】姉




 「あー、ざびーー……」

 「……、心頭滅却すれば」

 「姉さん、それもっと寒いから!」

 辺り一面、視界を埋め尽くすは銀世界。あの時の軽い返事でここまでの事態になるなんて思いもしなかった。
 時は一昨日の放課後に遡る___。



 「ご無沙汰していますショーくん」

 放課後、学校に訪ねてきた獣耳エルーンの軍人(本人は周りには公表していないわけだが、色々あって俺にはその耳を触らせてくれたりした)であるフィーナさんだった。
 目的としては、先の九尾討伐における報告、ということだった。なので鎧を装備したりはしておらず、あくまで伝令役として軍支給のロゴ入りローブを羽織り、頭には耳を隠すための帽子を被っていた。
 とりあえず今は応接室(常時遮音フィールド展開)に腰掛けている。

 「あ、お疲れ様です。ご無沙汰……って言うほどでも無いっすね」

 すると、ちょっとフィーナさんは恥ずかしそうにしながら、

 「ちょっと報告書の作成だったりでバタバタしててここのところ忙しかったので、もうひと月くらい前みたいな気分でした……」

 実際のところには半月にも満たず、一週間とちょっとくらいなのだが黙っておいた。話題を変えようとして、

 「今日は耳触ってもいいんですか?」

 「だ、だめだから! 結構くすぐったいし恥ずかしいんですよ!?」

 任務モードが切れて素に戻るほどの拒絶を示された。断崖絶壁。まるで姉さ……。やめとこ。まるで船越英一郎! ……、もう意味わかんねえなこれじゃ。

 「えぇ、残念……。っと、報告でしたよね。皆も呼んだ方がいいんすよね勿論?」

 「空いている方だけでも構いません。ヴィオラさんには立場上、先に紙による資料の提出だったりで報告済みですし」

 「ああ、なるほど……」

 放課後……、姉さんとローズは教室で待ってくれている、かな? サニーさんとかシャロンさんは寮が違うし一緒に帰るってことも無いしな。

 「とりあえず教室で話します? そこに姉さんたちが居れば少なくとも三人は話を聞く人間がいますけど……」

 「ショーくんがしっかりと伝えてくれるのであれば、別に他の人を呼ばなくてもいいんですよ?」

 「あー、それならここで済ませちゃいましょうか」

 提案しといてなんだが、移動するのが面倒なのもある。教室だと防犯上の点でもイマイチだろう。

 「……、なんで鍵を閉めたの? しかも魔法使ってまで……」

 「人が入ってこなければ、フィーナさんも気兼ねなく帽子取って話が出来るじゃないですか。いくら冬とはいえ、屋内で帽子っていうのは暑いですよね……」

 「大丈夫です」

 「俺が言うのもおこがましいですけど、屋内で帽子被るってのも作法的に……」

 「うっ……、いや、大丈夫です」

 「……………………、ハゲますよ?」

 これがトドメの一言となり、フィーナさんは少し悩むような仕草を見せながらも帽子を外した。

 「では、報告を始めさせて頂きますね。とは言っても自分の目で見ているショーくんに今更何をということもあるので、九尾についてと、獄陽石強奪の女についてお話します」

 「宜しくお願いします」

 互いに頭を垂れてスタート。

 「ではまず九尾について……」

 聞いた話をざっくり纏めると、アレはいにしえの魔女が生み出したとされる災厄の一つで他にも似たようなものが存在しているそう。
 で、あの女の話していたことと合わせると、あの女が属している組織はそれら災厄を目覚めさせ、そして鎮めてその力の一端を宿した結晶を集めているようだ、というのが軍の見解らしい。
 今回パクられた獄陽石もそのうちの一つなわけだ。ローズの活躍(?)で被害は半分で済んだが。

 「あの女本人の素性は……」

 「それは、わたしの口から説明しないといけないわね……」

 声の主は我が家のビッグマム、ローラ・ヴァッハウその人だった。

 「うぇっ、母さん!?」

 「ウッソ……、なんであの"紅蓮"が……」

 フィーナさんもマジでびっくりしているようだ。同様が隠し切れていない。耳がピーンとなっている。

 「うちのパパから話を聞いたから、ね? ちゃんと話しておかないとかなって思ったわけ」

 「あの……」フィーナさんがおずおずとした感じで少し手を挙げて、「ショーくんのお姉さん……でいらっしゃいますか?」

 「あら嬉しい……。でもショーが口走ったように母親よ?」

 背筋が凍るようにゾクッとするような、冷水を顔に浴びせられたような気分になった。なんで母親に母親って言ってこんな思い……、理不尽。

 「で、何から話したものかしらね」指を顎に当てながら思案を巡らせつつも、「とりあえず結論から言えばあれはわたしの三つほど上の姉よ。名前はアリーザ」

 それはまぁ想像通りではある。あれだけ似てて血の繋がりが無いんじゃもうホラーだ。モノマネ芸人どころのレベルではなかったのだから。

 「つまり俺の叔母さんにあたるわけか……」

 「オバサンじゃなくて叔母さんよ? 間違えたら命取られちゃうわよ?」

 「失言一つに対してはリスクがデカくねぇ!? って、フィーナさんは驚かないんすね」

 「わたくしも隊長から話はある程度窺っておりますので」

 「なるほどなるほど」

 「じゃ、続けるわね。わたしたちの実家はとても裕福には程遠い環境で、物心がついた頃には両親が他界。国が管理している孤児院に預けられて育ったの。そこの施設は、ある程度の見込みがある子供を早くに選定し育成する為の枠組みとして存在していたの。姉もわたしもある程度魔法に対しての適性があったから、そこまで酷い待遇を受けることは無かったわ」

 そこで一旦言葉を区切り、母さんは人差し指を立ててその上に水の玉を作り出し、飲んだ。

 「ごめんなさいね。ただ姉は妹であるわたしを守ろう、楽させてあげようという思いが強かったのか、強くなることにとても前向きだった。孤児院に入る前には何処からか食糧を拝借して来ることもあったから。わたしが十歳になると、姉は修行に出ると言って姿を消したわ。その時にはわたしも施設の中では片手の指に入る実力だったから、ここの学舎に入ることを許可されたわ」

 「その後お姉さんから手紙が来たりしたことは無かったのですか?」

 フィーナさんが続きを促すように尋ねる。

 「無いわ。全くのゼロよ。でも、こちらから特に連絡を取ることも無くて。わたしの姉なら何処かで必ず生きている、と思っていたから。で、アリーザはどんな様子だったの、ショー?」

 母さんが尋ねる。家族としてどこにいようとも心配にはなるんだろうか。口ではああ言ってても。

 「なんだろう……」一呼吸置いて、「人間味がある人で案外好印象ではあったかも……」

 『ホントに?』という視線がフィーナさんから熱烈に投げかけられる。

 「最初は顔隠しててさ、ちびっ子呼ばわりしちゃったわけ。で、いざ顔を見てみれば母さんとそっくりときた。姉さんやローズは母さんじゃないかと信じかけてたくらいに。でも俺は騙されなかった。彼女の胸はぺったんこで母さんには遠く及ばなかったから。それを本人にも言っちゃったんだけど、まぁ、キレたよ……」

 『ぶっ殺してやる!』だもんな……。モーリスと巨大倉庫内で共闘した時の余裕はどこへやら、って感じでしたよホント。

 「ちゃんと栄養摂ってなかったのかしら……」

 「……、そこ?」

 「他には何か無かった?」

 「んー、これといって特にってのは無いかなぁ。今動いている目的としては魔女の復活だってさ」

 「魔女って言うと、あの昔話の?」

 「だと思うよ……」

 「そう……。わたしの方でも色々と調べてはおくわね。それでいいかしら、フィーナちゃん」

 「は、はひ!」

 急に話しかけられて、フィーナさんは飛び上がりながら返事をした。

 「それじゃあ、話せることは話したし、帰ろうかしらねそろそろ」

 母さんが胸を強調するかのように(?)伸びをしながら言う。

 「姉さんたちには会わなくていいの?」

 「楽しくやれているならわたしが特に口を挟む必要も無いと思うから。それに変に気を遣わせるのも……ね?」

 「そういうもんかぁ……」

 「そういうものよ。それじゃあ行くから、二人によろしくね。バイバイ」

 母さんが手を振ると同時にぼふんと煙が上がり、身体が消えた。

 「そういう帰り方するの……」

 「消えてしまいました……」

 煙が少しして消えると、母さんがいた所には、ゴロゴロと野菜が顔を覗かせるポトフが鍋に収まって鎮座していた。

 「置き土産ってやつ?」

 「良かった……ですね?」

 「もうわけわかんないですけどね……」

 「とりあえず、報告事項として伝えたい事は伝えたので、今日はこれで終了となります。引き止めてしまって申し訳ありません。……ひゃっ!?」

 フィーナさんが頭を下げるもんだから、思わず耳を触ってしまった。気付いたら手が勝手に動いていた。……、なんか痴漢の言い分みたいだ。

 「もう、バカなんですか!? 急に触るのはダメだって言ってるじゃないですかっ」

 『コンコン』

 フィーナさんが憤怒を露わにしたところで、扉がノックされる音。誰だろう?

 「……」

 帽子をかぶるようにジェスチャーでフィーナさんを促す。それに従うようにササッとフィーナさんは帽子を身に付けた。ここで反抗するような人ではないのだ。

 「ショーくんいるー?」

 「アリスさん!?」

 「いるのかー。話が終わってたら入ってもいい?」

 「話は済んでますけど鍵がかか」

 「お邪魔しまーす!」

 普通に何も施錠されてなかったかのように、サッと応接室入口の扉が開けられた。

 「あ、フィーナさん、ご無沙汰しています」

 「いえ、こちらこそ。アリスさんも元気でいらっしゃいましたか?」

 「はい。任務からもフィーナさんのご指導のお陰で無事に帰れましたし」一端言葉を区切り、俺の方に向き直ると「……で、ショーくん。ちょっと今週末空いてる? 付き合ってほしいんだけど……?」

 「デートのお誘いですか!? 勿の論でおーけーです!!」


______。


 そんなノリで話をしていたら、十一月の北海道に連れてこられてしまったというわけだ。最初は荷物持ちくらいのもんだろうと想像していたが、話を聞けば新装開店前のホテルの視察に付き合ってくれということらしかった。

 「はぁあ、なんかいいこと無いかな……」

 その言葉通りにはいかないものだと後に痛感することになるのだが、それはまた次回以降に。


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