シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第134話】討伐遠征24




 身体全体を開放感が満たす。

 「あぁっ! ローズいくら何でも兄妹でそれはっ」

 「おーい」

 おでこに軽い衝撃があった。

 「えっ、あっ!? あれ……」

 「お兄ちゃん、わたしと夢の中で何してたの……?」

 「ゴメンなさい聞かないでください……」

 完全に目が覚めたはずだが、血の気が引いたせいかまた眠くなった気がする。

 「いやー、お兄ちゃん急に寝ちゃって沈んでくからびっくりしたよー」

 「マジ? ローズいなかったら死んでたじゃん……」

 視界は真っ白だ。おそらくタオルだろう。頭の裏は太腿だろうか。

 「もっと感謝してよねー。あ、そろそろ起きれる?」

 「ん、ああ……、ぐへ」

 起き上がろうとしたら押さえつけられた。これが湯船のふちだったらアカン。

 「起き上がれるならちょっと待って。目、瞑っててね?」

 「は、はい……」

 と言いつつ薄目を開ける。

 「目、瞑ってて?」

 眼の前にはチョキがあった。そっとまぶたを閉じた。

 「……、ゴメンなさい」

 「はい、起きていいよ」

 タオルが取られる。

 「サンキュ」

 状況としては、俺が溺れ死にかけたところをローズが引き上げて湯船の縁に膝枕で寝かせてくれたらしかった。自分が巻いてたタオルを水で濡らして顔に掛けてくれてたみたい。変な夢を見たのはそのせいだろうか。

 「どうしたのホント。なんか薬でも飲んでたっけ?」

 「いや、飲んでないけど……」

 ん? お茶は飲んだ、か。

 「疲れてたのかもねー」

 「かなぁ。まぁ、そうだな……」

 深くは考えないでおこう。

 「さっ、出よ出よ。わたしも逆上のぼせちゃいそうだよ」

 「スマンな。帰ったらなんか奢るわ」

 「あっ、それなら売店にあったギュー乳がいい!」

 「あったか。したらグイってやるか」

 「うん!」

 勢いよくローズが立ち上がる。そのせいで取れるタオル。色々あったけど、良い二度目の人生だったと思う。



 ギュー乳をグイッとしてから部屋に戻る。時計の針は十五時を示していた。

 「どーする? んだろ?」

 「分かんない。まだ帰らないのかなぁ?」

 二人で戻ってきたはいいが、特に誰かが呼びに来たり待ってるわけでも無かったので、手持ち無沙汰状態。

 「とりあえず、作っちまうか」

 「えっ、ここで?」

 「うん? ここでよ。別に窯に突っ込んだりするわけじゃないしな」

 「火事とかにならなきゃいいけど……」

 「信用しろって。アイテムボックスは……」

 そう言ってアイテムボックスから獄陽石を取り出す。

 「まずはとりあえず半分にすっか」

 スッと石の周りを一周なぞり、カット。

 「すご。触っただけで切れちゃった」

 「ローズも切っちゃうぞー」

 手をワキワキさせながら近づく。

 「……」

 だんまりときた。

 「いや、反抗してくれないと面白くないっつーかさ。あるじゃん、流れとか。ただただ俺がローズのおっぱいに迫ってるだけみたいになるとさ、扉から覗いてる姉さんが……な?」

 「えっ!?」

 ローズが驚いてドアの方を見やる。

 「の、覗いてるだなんて人聞きの悪いことを言うなっ。ぐ、偶然通りかかったら二人の声がしたから……」

 「まあまあ、姉さんにも来てもらって正解だし」

 「ん? どういうことだ?」

 「えっと、かくかくしかじか……」

 説明中……。

 「なるほど。でも良いのだろうか?」

 「いいんじゃない? もう貰っちゃったんだし、手元にあるのは変わらないしさ。形が変わるってだけで」

 「物は言いような気もするが……。まぁ受けられる恩恵も捨て難いものだしな……」

 「もー作っちゃいまーす」

 もう一度石をなぞりさらに二等分。そのうち一個を手に取る。

 「じゃ、先にローズの分な。……はっ」

 石にマナを注ぎ込み液状化させる。

 「うわっ」

 液状化した石がローズの指にまとわりつく。つかせてるんだけど。サイズ測定です。

 「嫌がるなよー」

 「そんなドロドロの石、めっちゃ熱かったりするのかと思ってたら、案外ヒンヤリしててビックリしちゃった」

 「悪い悪い。じゃ締めにかかるぞ」

 石が固まりだして工程はデザイン決めに。名前を彫って、ダイヤの指輪のように石も残して……。

 「凄いな……」

 姉さんが感嘆の声を漏らす。

 「きれー」

 「ふぅ。こんな感じでどうでしょうかお嬢様?」

 「うむ。苦しゅうないぞよ」

 「誰なんだお前たちは……」

 姉さんが呆れたように目に手をあてる。

 「にしても、だ。本当に綺麗な仕上がりになるもんだな。しかも指には一切影響を与えずに上手く石だけに干渉していたし……。名前まで彫ってあるし一生モノだな」

 「そんな、手放しに褒められても姉さん用の指輪しか出ないよ?」

 「十分過ぎるよ」

 「じゃ、姉さんのも……」

 以下省略。


 「コレでわたしも魔法がうまく扱えるようになるんだな?」

 石を埋め込まれた剣をうっとり眺めながら姉さんが言う。

 「火系統ならまず間違いないと思うよ。俺を信じてくだちい」

 「試す場所は……」

 「お姉ちゃん、帰ってからにしよ?」

 気持ちが乗ってたかぶる姉さんをローズが抑える。

 「で、結局姉さんは何で俺の部屋に?」

 「そうだった! あれだ、出発時間を知らせに来たんだがすっかり忘れていた……。あと二十分もしたら下に集合だ」

 「急だ!?」

 「本当にすまないと思っている!」

 ジャックバウアーか!

 「じゃローズもまた後でな」

 「うん!」

 ローズが慌てて部屋を出ていく。

 「……姉さんは?」

 「……」

 黙ったまま近づいてくる。

 「許せ……」

 「えっ!?」

 強めに抱きしめられた。一瞬刺されるのかと身構えてしまった。

 「よく無事に帰ってきた。今回は慣れ親しんだ面子で多少心の余裕があったのもあるが、中には初の任務で命を落とした学生もいなくはないんだ」

 「うん……」

 「それに、こんな素敵な贈り物までしてくれるなんてな。どうしてお前はわたしの心をこんなにも揺り動かしてくれるのだろうか……。お前の姉で、誇りに思うよ」

 胸がギュッとなる感じがした。それでも、本当に最高の笑顔で、素直に頑張ってよかったなぁと思えた。




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