シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第135話】呼び出し




 「ねえみて!」

 誰かが呼び掛けている。

 「おにいちゃんがゆびわくれたの!」

 黒髪の少女が母親に抱きつきながら嬉しそうに語る。

 「これでけっこんなんでしょ!?」

 母親が少女の髪を撫でる。

 「おにいちゃんありがとう!」

 少女は母親から離れ、今度は兄と思しき黒髪の少年に飛び付いた。二人の笑顔が弾ける___。

 「なんでそこでショーの顔が浮かぶんだ!? しかもお兄ちゃんとは……。わたしの方が姉だというのに……。これがわたしの願望とでも言うのか? いや、決してそんなことは……ない……」 

 未だ隣で熟睡する弟妹をよそに、エリーゼの遠征から帰った初日の目覚めはイマイチなものだった。




 時はその日の昼休み。俺はアリスさんから呼び出しを受けて、今寮の食堂で待たされていた。

 「ごめーん、待たせちゃったね」

 「いえ、今来たばっかりなんで」

 「エリーゼと一緒に帰ったんだから、待たせちゃってるのは分かってるからいいのよ。そういう気遣いは嬉しいけどね」

 「今日姉さんがなんか変だったんすよねー」

 「変、って?」

 「なんかシンプルに俺を避けるんすよ。メンタルズタボロマジパネーションって感じっす」

 「そんなチャラい感じで言われても」

 と言いつつも笑ってくれている。

 「まぁ今日呼び出したのはエリーゼの事なんだけどねぇ」

 「姉さんがどうかしたんすか?」

 「ショーくんが指輪あげたんでしょ?」

 「そっすよ? あのー、獄陽石を加工したのをローズと姉さんにあげたんです」

 「それを見ながら、にへら〜ってするのが止まらないみたいなのよ」

 「じゃあ授業中も?」

 「授業中はなんとか平常心を保ててるみたい。ちょっといつもより気が抜けてるとは思うけど。腹立つことに模擬戦とかでの強さは変わらなかったんだけどね。緩み=隙って訳じゃなかった」

 やんなっちゃうよねー、とアリスさんは脚を投げ出して組んだ。

 「それだけなら、まぁ酷い影響があるって感じではなくないですか?」

 「それがまた得意気にチラつかせてきたりするから腹立つのよ。嬉しい気持ちになるのはよく分かるんだけど、ねぇ?」

 「はぁ……」

 意図が掴みきれない。

 「わたしたちの分も作って欲しいわけよ、平たく言えば」

 「ええ!? もう素材が……」

 獄陽石はもう完全に使い切った。あの女が持ち去った半分はどこかに存在しているのだろうが。

 「そういうと思って、ジャーン」

 そう言いながらアリスさんが収納箱アイテムボックスからゴツイ木の枝(ラグビー部の太ももくらいあるか?)を出現させた。周りの視線が気にならないといえば嘘になる。

 一応、

 「……、なんすかこれ?」と聞いてみたが、返ってきたのは

 「

 の一文字だった。

 特に俺から言うこともなくなってしまったので黙っていると、アリスさんが『しょうがないなぁ』と言いたげな顔をしながら口を開いた。曰く、

 「これは学校の授業でも使ってる演習場の木の枝。太っといよねー。ショーくんの腕どころじゃないね。一応樹齢五百年を越す霊木なんだってさ。そもそもこの世界が五百年の歴史があるのか疑問が残るんだけど。まぁそれはおいといて。で、これをサニーと二人でかっぱらってきて、二人に何かをスーパー鍛冶屋スキルを身に付けたショーくんに作ってもらおうと思ったの」

 ということらしい。

 「それではお客人、何がご希望かな?」

 「わたしが木刀と」

 「わたしが木刀!」

 サニーさんが突撃してきた。

 「……、木刀が二つでよろしいかな?」

 「ちょっと、ショー君ってば目を逸らしながら無視しないでよ! それでもちゃんと注文には数入れてくれてる優しさは嬉しいけどっ!」

 「でも、お高いんでしょう?」

 アリスさんも寸劇を続ける。サニーさんはスルーの方向で。

 「へっへっへ。そりゃそうでさぁ」

 「どんな要求をされるのかしらっ」

 「二人共無視する感じなの!?」

 「五百年モノの霊木ときたもんだ……。何かしらの悪い力が儂に襲い掛かるかもわからん。そうさなぁ、一本五百万円と言ったところか。もし、払えないなら……」

 ジッ、と二人を見据える。

 「その舐め回すかのような牡の熱い視線。一体どのような恥ずかしい要求をするのかしら。するならこの娘を差し出しますからどうかわたしだけは……ッ!!」

 まさかのスルーからの生け贄扱い。さすがに同情する。

 「ええっ!? そんないきなり……。でも、心の準備が……まだ……」

 「ストーーーップゥ!! ちょっと色々我慢効かなくなりそうだからやめまーす」

 「ショーくんってば照れちゃってー」

 「えっ? えっ?」

 「あのサニーさん。俺何もしないっすよ。ちゃんと木刀も作りますし」

 「……、辱めを受けるとかの話は」

 「勿論ナシですよ!?」

 「……」

 無言でカタカタ震えだした。一種のホラーだ。

 「じゃあとりあえずここでやるわけにも行かないし、ショーくんの部屋に行こうか」

 「行くっ!」

 気迫の籠った声でサニーさんが返事をする。

 「拒否権は……」

 「「ナシ!!」」

 ですよね……。



 部屋に戻る。

 「ただいまー」

 「「おかえり」」

 姉妹からの返事。行ってきますとかおかえりのチューとかって今後してくれたりしないのかな……。今度何か賭けの時にでもお願いしてみるか。

 「おっじゃましまーす」

 「……お邪魔します」

 アリスさんはいつも通りに、サニーさんは少し緊張気味だ。

 「二人がどうしてここに?」

 姉さんの当たり前の疑問。

 「簡単に言うとね……」

 アリスさんがかくかくしかじか説明を二人にしている。

 「はいじゃあ、本日二度目の登場っ」

 という掛け声のもとに霊木が登場。

 「じゃあ、ショーくん。お願いします」

 「お願いしますっ」

 二人がペコッと頭を下げる。そんなに改まった感じじゃなくて良いんだけどなぁ。

 「ショーはもう何か考えがあるのか? これから作るものについては」

 「木刀って希望を出してもらってるからね」

 「木刀……」

 「いいなぁ、とか思ってるでしょお姉ちゃん」

 ローズが小悪魔っぷりを発揮した。

 「し、してないっ。わ、わたしはこれを作ってもらったんだから十分だ」

 そういって指輪を見つめる。これでサニーさんたちふたりは不満が募っていったわけか。

 「じゃあまずはサニーさんのから作ってみますか……」

 「うん……」

 部屋はちょっとした緊張感に包まれた。


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