シスコンと姉妹と異世界と。
【第130話】討伐遠征⑳
「うし、じゃ、俺らも用意するぞ」
「うん!」
「ローズはいつでも魔法撃てるように備えといてくれ」
「はーい」
「グギャァァァア!!!」
「な、なんだぁ!?」
「え、何いまの……」
すんごい声したけど。
「ショーくんやったよー!」
九尾の方に目を向けると、してやったり顔のアリスさんがこっちへ手を振っていた。
「倒しちゃったんすか!?」
「んーんー、急所への一撃が入っただけー」
「急所、っすかー?」
「そー。お尻にズドーンって!」
「うわー」
そりゃ九尾もあんな断末魔みたいな声出るわな。
「ヴィオラとサニーのを防いでて後ろガラ空きだったから、ついやっちゃった!」
「お、おー」
思わず自分のお尻を抑えてしまった。正直九尾に対して、同情の念を禁じ得ない。カンチョーは痛いよねぇ。しかも氷の槍ブチ込まれてるんだろ……。
「九尾さん、ちょっと可哀想だね……」
「まぁ、運と相手が悪かったんだろうな……」
「ね……。それじゃ詠唱始めるよ!」
「うん。じゃ俺も直ぐに用意する! クリエイト・プリズム!!」
なーんにも謳い文句が思いつかなかった。ので、詠唱省略。俺らと九尾の丁度中間地点くらいにプリズムを生成。
「アレが目標だね! ……極光よ、全てを照らす太陽よ。我らの闇夜を穿ち、打ち払え!」
ローズが詠唱を始める。詠唱の文言って母さんから習ったのそのままだったりすんのかな?
「その力を以て、我らが覇道をここに示せ! 偉大太陽光線!!」
ローズが天○飯の気功砲のような構えから、小さな太陽のようなものを創り出し、そこから物凄く光り輝くビームを放つ。
「凄い!」
ローズが放った魔法はしっかりと俺が的と評したプリズムを捉え、光線は四方八方、縦横無尽に伸びて九尾の視界を埋め尽くす。そして、その肉体を無数の光の矢が貫いた。
「やったか!?」
姉さんが叫ぶ。
穴だらけになった九尾はその場に倒れ込んだ。
「まだマナは消滅したわけじゃないわ」
アリスさんが視てくれた。
「トドメ、といこうかしら」
その言葉を残してシャロンさんが飛んだ。
「離れて!」
アリスさんがなにかに気付いてそう叫んだ。それに合わせてシャロンさんが隣に帰ってきた。
九尾の、光線に穿たれたところから激しく燃え上がり、そのまま全身を火が包む。
「トドメを刺される前に自分で……ってこと?」
「そうかもしれませんね……」
ヴィオラさんとフィーナさんが話し合っている。
「……違う。皆、構えて!」
アリスさんが声を荒らげる。
「なっ!? ……、小さくなった?」
燃え盛る火の中から現れたサニーさんが見つけたそれは、尻尾レベルが三になった九尾だった。数減ってるんだから九尾っていうのかな? 細かいことはいいか別に。
「アイツ、尾の数だけのライフポイントがある、みたいな感じじゃないっすか?」
「ショー、らいふぽいんと、って何だ?」
「命そのもの!」
「そういう事ね! ローズちゃん、まだ魔法はイケる!?」
さすがアリスさんは理解が早い。
「ショーくん、なにか手があるんですね? お任せしますよっ」
フィーナさんから許可が出た。
「はい! クリエイト・プリズム! ローズ!! ありったけを打ち込め!」
「うん! ……極光よ、あーもうめんどくさいっ。グラン・ソルス!!」
遂に端折りやがったー!! しかもめんどくさいからってマジか。人のこと言えないけども!
「ああっ」
ローズが悲鳴に近い声を上げる。尻尾レベルが一気に三に下がった分、プリズムで一斉掃射の形を取っても足止めにしかならなかった。
「ナイス足止め!」
「えっ!?」
「姉さん、いくよ!!」
「ああ!」
「「輝十字の福音ッ!!」」
かつて岩を処理する時に姉さんと発動したこの魔法。姉さんの刀の刀身部分を分解し、高速で一定の空間を移動させて刀身を拡大した剣で対象を仕留める魔法。今回はそれを"切る"のではなく"刺す"ことでトドメとしている。
光の十字架が逃げ場を無くした九尾を天から貫いた。
「これで、終わりですね……」
「わたしたちで倒せたんだ……」
フィーナさんとヴィオラさんが未だ信じられないと言わんばかりに座り込んでしまった。
(ナビ子、ナビ子)
(はい、どうしました?)
(前に話してたお前が実体化……みたいなのあったじゃんか。九尾ってどう……かな?)
(うーん、狐の姿は確かに可愛いとは思いますが……)
(ますが?)
(この姿では抱きしめられても、わたしからショー様を抱きしめることができません)
(なんなのお前超可愛い)
キュン死にしそう。
(という訳でこれはパスですね)
(あいよ)
「ショーくん、何自分の身体抱きしめてるの?」
「うぇ!? あーいや、何となく安心して……」
「ふーん、変なショーくん」
なんかシャロンさんに見られてドン引きされた。ただ、何となく身体を充実感が包んでいて、地に足が付かない感じでフワフワしていた。
「ショーくん、これ何!?」
サニーさんが見付けたのは赤黒く光る謎の石だった。
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