シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第131話】討伐遠征21




 「不思議な石ね……」

 サニーさんが手に取ったその石は中心に向かうほど黒く、表面に向かうほど赤くなっていた。まるで、内に潜む狂気を抑え込んでいるかのような印象を受ける。

 「これ……、軍に渡した方がいいですかね?」

 「どうなんでしょうか……。正直、今のところは用途も出処も不明の不審物と言わざるを得ないですし……」

 「サニーさんは何か感じますか?」

 「んー、ショーくんも持ってみたら?」

 そう言ってサニーさんが俺に石を手渡した。

 「軽っ。……、心なしか熱を帯びてる? これそのものから強いマナを感じます」

 (先程の魔物の力の根源、なのかもしれませんね)

 (じゃあ、ぶっ壊した方がいいのか?)

 (いえ、破壊してしまうとそれに秘められたマナが分散され、またどこからともなく集まって新たな脅威となり得るかと)

 (加工して形を変えた状態で保存するのはアリかな? 一つに纏まってると何かあった時に困りそうじゃん? 盗まれたりだとかさ)

 (よろしいかと思いますよ。それこそその石には火、闇系統の魔法を強める力が備わっていますし)

 (んなこと分かるのか!?)

 (ナビ子はナビ子ですから)

 ウインクとともにそう言い残してナビ子はフッと消えた。

 「お兄ちゃん、お兄ちゃんってば」

 「ん、どしたローズ?」

 「どうしたのじゃないよ急に黙って……」

 「すまんすまん……って、なんか怒ってない?」

 「怒ってない!」

 プイッと顔を背けるローズ。その動作をして怒ってないっていうのは少々無理があるといつも思う。世の女性たち、心当たりはありませんか? こういう状況においての男は地雷原に一人立ち尽くしているような感覚に陥るんですよ。助けてください。

 「ショー、その、なんだ……」

 何故か姉さんがきまり悪そうにしていた。

 「ローズちゃんは」

 「自分の魔法が外れる前提で」

 「ショーくんが動いたのが悲しいのよ」

 「しかもトドメはお姉さんとですから」

 シャロンさん、サニーさん、ヴィオラさん、フィーナさんの順に畳み掛けられた。リハーサルしてたのかってくらい息が揃っている。

 「……、そうなのか?」

 「知らない」

 打つ手が無い。立つ瀬が無い。

 「お取り込み中失礼」

 誰かの声が沈黙を破った。

 「助太刀感謝ッ!」

 来たぜ助け舟!

 「……って、アレ?」

 誰この黒いローブ纏った人。シャロンさんは隣にいるし……。俺以外の皆も目が点になっている様子。

 「なんか小さくね?」

 「子供かな……」

 「厨二病患者かしら……」

 などとひそひそと話し声が聞こえる。見た目はローズと同じくらいの身長(おそらく百四十センチ前後と思われる)だろうか。で、フード付きのローブを纏っていて、首元には赤いチョーカーっぽいのがチラつく。太腿ふとももから下が生脚で足下にはちゃんとした靴。なんだか扇情的エッチな格好である。

 「あ」

 閃いた。

 「あ?」

 ローブの人に聞き返された。そこそこの威圧感。

 「上昇志向ポジティブウインド!!」

 「「「___!!!!」」」

 俺以外のここにいる人間全員が絶句した。カッコつけてポジティブ・ウインドとか言ったけど、やってる事は下から上に風を吹かしてのスカートめくりだから。
 案の定、ローブのちびっ子はローブの裾とフードを抑えている。

 「風力アーップ!!」

 「止めろ馬鹿者!」

 姉さんが俺をぶん殴って魔法を止めるのと、ちびっ子がローブを諦めて下着を死守しにいったのが同時だった。が、

 「……は?」

 「「お、母様?」」

 表れたその顔立ちは我が家のビッグマム、ローラ・ヴァッハウと瓜二つだった。姉さんもローズもビックリ。

 「あっ、でもちげーわ」

 「「えっ?」」

 「母さん、そんな貧乳じゃねーわ」

 「テメェぶっ殺すぞ!!!」

 ロリっ子が怒鳴った。マジギレ。ちびっ子にマジなトーンでキレられるの初めてだからちょっと凹む。

 「ショーくん、自分のお母さんをどんな目で見てるのよ」

 「けだもの……」

 アリスさん、シャロンさん、そんな目で見ないで!

 「失礼。少し取り乱してしまいましたわね。……ふう、では気を取り直して本題に入ります」

 「本題?」

 フィーナさんが聞き返す。

 「ええ。そこのクソ生意気な、あ、いや、威勢のいい糞ガ、少年の手の中にある石をこちらへ渡して頂きたいのです」

 「先ず、貴女は何者です? 街の子供、という訳では無いでしょう?」

 フィーナさんの「子供」というフレーズに、女のこめかみがピキっている。

 「確かに違う。そして、子供でもないわ。ここにいる誰よりも歳は上でしょうから」

 えぇマジかよ……。まあでも、母さんとソックリってことは双子なり姉なり妹なり俺の親族ってことになるのか?

 「……」

 「そんな熱い視線を送られると困っちゃうのだけれど?」

 「ローズでもあんくらいおっぱい実ってるのになぁ……」

 い、いえ、何でもないです。

 「ショーくん、多分本音と建前が逆転してるわよ」

 「アリスさん……、も勝ってますね」

 「人の胸凝視して話さないで!」

 「で、何の用でしたっけ?」

 フィーナさん、振り出しに戻す。

 「だから、その石を渡して欲しいと言っているのです」

 怒りマークがさっきよりも増えている感じがする。

 「目的は?」

 「その石は強大な魔力を秘めています。わたしはそれが欲しい。それ一つで、かの黄金獅子の持つ宝剣と同等の力を秘めている、と言われています」

 「あぁ、あの豪華な包丁な」

 「ショーくんは大佐の剣で何をしてたんですか!?」

 料理です。

 「で、その力を使ってどうする気なんだ?」

 姉さんが問い質す。



 「決まってるわ。魔女の復活よ」



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