シスコンと姉妹と異世界と。
【第126話】討伐遠征⑯
生い茂る木々に囲まれているせいでよくは見えないが、数箇所で煙が立ち上っているようだった。
「他の場所でも火の手があがっているようね……」
「それは隊長たちに任せましょう。わたしたちは敵の本丸を叩いてショーくんを解呪しなくてはいけませんから」
山を走っているのに誰ひとりとして息が乱れる様子はない。
「ショー、腕は痛むか?」
「痛まないけど、姉さん抱えるので疲れた」
「それは……すまない。まだ今は微細なマナの制御が出来そうにない」
一歩踏み込んだだけで上空へ飛び出したり、前方に立ち塞がる物にタックルしたりと、姉さんの修行は困難を極めていた。
(そのまま登り続けてください。山頂付近は森が開けていて岩肌が露出していますが、急斜面になっているという訳ではありません。むしろ平坦と言えるでしょう。そこへ敵を連れ出せれば思う存分戦えるはずです。ただ、本当にショー様がやり過ぎると、噴火を引き起こして地図を書き換えることにもなりかねないので、その点だけはお気を付けください)
(おっけおっけ。まぁあんまし派手な事はしないようにするから。フィーナさんから軍に伝わって……ってなったら面倒なのは目に見えてるもんな)
(あっ、ちなみにですけど。腕を切り落として再生機能が働いたとしても、もう噛まれてからとっくに二十四時間経過しているので呪印も一緒に回復してしまうので。再びマナを吸い上げられて陣の効果が発動してしまい、被害が拡大することになるでしょう)
(切り落とす前に言ってくれて良かったわ。無駄に痛がらずに済んだってわけだ。まっ、意地でも魔物を倒さなきゃってことさな。まぁ退く気はハナっから無いから安心してくれや)
(恰好いいところ見せてくださいね?)
(応!)
山を翔けること十数分。絶えずマナを全身に巡らせて走っていたので全員にそれなりの疲労が見られた。ので、これからに備えてほんの少し休憩を取ることになった。
「ショーくん、大丈夫? エリーゼ重いから大変でしょう?」
「いや、別にもう慣れてるから平気っすよ。腕力も魔法で強化してますしね」
「否定するところはきっちりと否定してくれ!」
アリスさんからの質問に素直に答えたら姉さんに怒られた。そんなにダメな回答だったとは思わないのだが。
「はい、ショーくんこれどうぞ。ほら、ローズちゃんのぶんもあるからね」
そう言ってサニーさんがおにぎりを手渡してくれた。なんと全員分作って持って来ていたらしい。俺とローズは二個ずつ頂戴したが、ローズは足りたのだろうか。いや、足りないだろう。
「美味いっす! いいお嫁さんになるやつですよこれ!」
「ショーくんのお嫁さん!? い、いきなり何言ってんの!?」
このおにぎりと味噌汁があればもう……。緊張なんか解けちまうな。
「はい、ショーくんこれも」
「まさか……」
サニーさんから手渡されたのは蓋がコップになるタイプの水筒。ちゃんとこれも全員分の水筒が用意されていた。洗うの大変そうだなぁ……。いや、魔法があるのか。底面洗うのに苦労しなくていいんだもんな。異世界万歳。
「んっと、お味噌汁? だってさ。アリスが」
「わたしが作り方教えてあげたんだー。おにぎりと一緒にあったら男の子は喜ぶもんね?」
「最高の組み合わせっすよね〜」
「気が利く女は」
「いい嫁になる、っすね!」
「ショーくんてば、アリスにもそんなこと言って。誰でもいいって感じなの?」
「案外浮気性な感じなの?」
「「ダメ夫!」」
アリスさんとサニーさんが声を揃えて俺を口撃する。
「なんか俺泣きそうなんですけど。ああ、味噌汁が心に沁みます……」
「御三方、ちょっとよろしいでしょうか」
フィーナさんが微妙な面持ちで訊ねてくる。
「「「なんでしょう?」」」
「このスープは何というのですか? 私、これを頂くのは初めてでして……」
「お味噌汁、といいます」
「ウチ発祥のやつなんです!」
超巨大な大嘘をアリスさんが言い放った。もうビックリで頭回らない。
「味噌という調味料を魚等からとった出汁で溶いて作るんです。具材は季節の野菜や肉、魚などほぼなんでも合いますよ」
「なんと……。今度是非調理の仕方をご指導願えませんか?」
「お易い御用ですよ!」
フィーナさんはアリスさんの商人魂に火をつけたようだ。今後デュボワ家の発明品だったりを手当り次第に買い漁ったりして、色々なハプニングを巻き起こすことになるとは本人同士も想像していなかっただろう。
「……さて、そろそろ決着を付けに行きましょうか」
「「「はい!」」」
全員で声を揃えて気合を入れる。
「じゃあ代表してショーくん、なにか一言お願いします」
フィーナさんの無茶振りで俺の気は一瞬で泡のように弾けた。
「飲み会じゃないんすから……。まぁ、一言っていうかひとつだけ。ちょっと全員に魔法を」
「「「おお〜」」」
俺以外の全員が、何をしてくれるんだろうかという期待の目をこちらへ向けている。プレッシャーである。
「夜空に煌めく無限の星たちよ、今その力をここに示し、我等の希望、光指す道となれ! 星空の儀式!!」
皆の足下を囲うように光のサークルが出現し、円柱状に空へと一気に伸びて繋がる。
「凄いな……。ショーはいつの間にこんな魔法まで覚えたのか」
「お兄ちゃん、凄い綺麗な魔法だね……」
「ショーくん、この魔法にはどんな力が?」
アリスさんに説明を促される。
「ちょっとした傷に対する再生能力、脳から肉体へのの神経伝達速度の向上、闇系統魔法への抵抗力の向上、といったところになると思います。こんな感じで」
腰に下げていた短剣で俺は自分の人差し指の先をプツッと少しだけ切った。一瞬血が出るも、服で血を拭って再び見せると傷はしっかりと塞がっていた。
「……凄い」
シャロンさんにも褒められた。
「自分で実験しなくても信じていたんだけど……」
ヴィオラさんはちょっと俺が自分の指を切ったことに対して引き気味だった。
「勿論永続的なものではないですよね?」
「星の加護ですんで、日陰に入ってしまわなければそれ迄は大丈夫です」
フィーナさんに訊ねられ正直に答えた。
「ショーくん、君はいったい……」
「まぁ『紅蓮の幼女』の息子ですからね。色々とあるんですよ色々」
「深く詮索するつもりは無いですが……。いえ、すみません。早く行きましょう」
「ええ! 俺の腕、返してもらうぞ!」
充電完了だッ!!
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