シスコンと姉妹と異世界と。
【第123話】討伐遠征⑬
脚元まで来た狐を抱え上げ、目線が合ったところで事態は動いた。狐の目が赤くハッキリと光ったのを見た。
「ん? なっ、が、ォォォォォォオオ……」
「おい!! どうしたショー!?」
腕が疼いたと思った矢先、全身の血液が沸騰するような感覚に襲われ、俺は立っていられなくなった。
「ぐぅッ…………、クソ、何だってんだ……」
(ショー様、緊急事態です!)
(くっ、ナビ子か……)
(ショー様のマナが左腕に無理やり掻き集められています! このままでは腕が耐えられなくなるかもしれませんっ!!)
(なんで急に……)
(あの咬まれたアレは呪印の一つだったのかもしれません)
(じゃああの狐は魔物だってのか)
(おそらくは、そうです)
「ちょっと!? ショーくん腕が! 熱ッ!?」
サニーさんが俺の腕を取ろうとしたが、どうやら触っていられる状態ではないらしい。腕を見ると、黒かった斑点がマグマの様に赤く光を放っている。
「これは一体……」
「お兄ちゃん!! アクア!!」
ローズが俺の腕に水魔法をぶつけるが、腕に触れる前に蒸発し気化してしまった。
「そんなっ!?」
腕の輝きが益々強まっていく。すると、商店街の家屋や店に付けられていた狐の足跡も、それに呼応するように赤く光り始めた。
「なっ!? 何がどうなってるの!?」
流石のフィーナさんも現状の把握はままならないようだ。
「ぐぁぁああッ」
(ショー様!! もう限界ですッ!!)
「皆伏せろ!! (硬化魔法ッ!)」
ありったけの声を振り絞って叫ぶ。と同時に腕の光が一瞬強まり太陽のような輝きを放ち、爆散した。
(なんとか腕は吹っ飛ばずにすんだぞ……)
(無茶し過ぎです)
「そんな……、街がッ」
ヴィオラさんが悲鳴に近いような声をあげる。地面を舐めていた俺も周りを見ると、その理由は簡単に理解出来た。街が、燃えていた。
「ショー! 大丈夫かっ!?」
姉さんに抱えられ上半身だけ起こされる。
「ゼェ、ゼェ……。なんとか……。ただ今は身体が動かせねぇかも」
(体内のマナの大半が奪われ、魔法の起動に使われたようです)
(魔法たってあの狐がか!?)
(恐らくあの足跡は一種の魔法陣として意図して描かれていたのでしょう。どなたかが模様に見えると仰っていたのは間違っていなかったのだと思われます)
(じゃあ狐を操ったりしてた黒幕みてぇなのがいるってことかよ!?)
(可能性はあると思います。しかし、あの狐そのものが所謂天災的な存在なのかもしれません)
「あの狐は何だったんだ!? どこいった!?」
「皆……屋根の上に」 
「何なのあれ……」
シャロンさんが静かに指を差す。するとそこには先程よりふたまわり以上大きくなった狐がいた。ダックスからゴールデンレトリバーくらいへのサイズアップ。しかしその姿はとても一般的な所からは掛け離れていた。
火の毛皮を纏っている、という表現がしっくりくだろうか。
「ショーくんのマナがあの狐に奪われた?」
「アリス、視えるのか!?」
「なんとなくだけど、そうでしょう、ショーくん」
「ええ。九割方はパクられたと思いますよ……」
(まぁショー様は寵愛が有りますからあと数分で全体の六割ほどには黙ってても回復しますよ。或いはあの方から授けられた能力を使えば一瞬で全開できるかと)
(いや、皆の目がある前で能力を使うのは避けたい。説明のしようがないからな)
(確かにそれはそうでございますね)
(だから腕が弾けないように硬化魔法も使ったしよ。本当に絞りカスみたいな状態だったから賭けだったけど。それでも腕弾けました、五秒後元通りになりましたじゃ、色々とヤバすぎるしな)
(難しいものですね)
(マジ疲れたわ。まぁそんな悠長なことも言ってられないけどな)
(頑張ってください!)
(最後雑かよ!)
「腕にはまだ残ってるか……」
熱感や発光現象は見られず、斑点の範囲もかなり狭まっているが、それでもまだ呪印(のようなもの?)は消えていない。狐を処理しねえと駄目なのかもしれない。
「狐火……、まさか実在したというのですか」
フィーナさんがつぶやきを漏らす。
「それは何なのですか?」
「いえ、この話は後にしましょう。まずは街の火を沈静化させるのが先決です」
街の人たちもすぐに異変に気付いたようで、所々で消火活動が行われている。後から聞いた話だが、事前に街が火事になった際の備えを父さんたちが住民たちとしていたらしかった。
「元凶は、アレで間違いなさそうね」
シャロンさんの冷たい声が周囲の温度を下げたように感じられる。
「とりあえずこの場所を本隊に知らせます!」
「ちょっと待って下さい!!」
「どうしましたサニーさん?」
「あっちの山とか森から上がってるのって、フィーナさんと同じような信号弾ですよね……」
信号弾と共に火の手も上がっているように見られる。
「応援は期待出来そうにない……か」
「申し訳ございません……」
フィーナさんが俯き加減で謝ってしまった。
「フィーナさんが謝る事じゃないっすわ。とりあえずはやれることをやりましょう」
「あ、逃げた!」
「よし、追うぞ!」
姉さんの言葉を合図に狐火との鬼ごっこが始まった。
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