シスコンと姉妹と異世界と。
【第119話】討伐遠征⑨
貸切ということでみんなで風呂へ行くことになった。さっき盗み聞きしていた四人はは頭にたんこぶを作っていた。
提案者はフィーナさんで、バスタオル巻いて入れば平気ってことらしい。もう一度、一致団結するのが目的だって。まぁ事件発覚後に俺は退室を許可されたので、女性陣の中で何が話し合われたのかは知らない。一発以上鉄拳制裁が入ったのは見ての通りなのだが。
で、とりあえず身体をさーっとタオルで擦り荒いして湯船で待ち。
数分もしないうちにガラッとドアが空いて女性陣が入ってきた。ただ、もう慣れたものでそんなにドキドキすることもなくなった。……、まぁ口に出したらさすがにやばそうだが。失礼だ、って怒られそう。
「ショーくんお待たせしました。お湯加減は如何ですか?」
「いやーさすがアリスさんのとこだけあって、最高っすね。この木の香りがまた……」
ここの湯船は檜(檜)の木枠で作られていた。あの独特のいい香りが漂い、鼻腔をくすぐる。湯も透明でザ・温泉といった感じに思えた。
「でしょー? 檜高かったらしいわよ」
「急に現実に引き戻しますね」
「まあねー。ローズちゃん、入らないの?」
「いや、ちょっと熱いかなって……」
ローズのやつ、中身まで猫化が進行してきてるのか? 俺の横のスペースを片脚でそーっとチョンチョンしている。
「あっつ! あっ」
「「「あっ」」」
完全に足を滑らせたローズの身体が宙を舞い、タオルとのドッキングが解除される。かなり危険な体勢に思われたが、クッション(俺)が効いて後頭部を浴槽の縁に打ち付けることなく入水。急に濡れてパニクったローズが俺を下敷きにしたまま暴れる。
「わっわっ、あつっ!!??」
「もがが……」
ローズの太ももの間、目の前の光景に思わず息を噴き出してしまい、肺から酸素がなくなった。早くしないと溺れちゃう。マリオ程俺は息が持たないのだから。ディス・イズ・トラブル!
「あっ!」
誰かが何かに気づいたような声が聞こえたが特に伝わらない。
「よいしょおっ!」
とりあえず力強くでローズを押し退けて顔を出した。
「ふぅ……。危なかった」
「ショーくん、危険は回避できなかったみたいよ?」
「へ? どゆことすかヴィオラさん。てか色っぽいすね」
「阿呆なことを言ってるんじゃない。ほら、落し物だ」
「ん」
姉さんからタオルを渡されて悟る。小五・ロリと書いて悟りと書く。そんなことを考えられるくらい、どうしようもない状況。
「……、まぁ取れちゃったものは付け直せばいいよね!?」
サニーさんの謎のフォローが心苦しい。というかもう女性陣も俺の裸見てもなんとも思わなくなってるのでは!? それはそれでどうなんだろう……。
______閑話休題。
全員が無事湯船に使ってほっと一息ついていた。シャロンさんは逆上せやすいからと縁に腰掛けて足湯みたいな感じになってるけど。
「ま、まぁとりあえず落ち着きましたね? とりあえず今後の予定のおさらいです。今夜はゆっくり身体を休めて、明日以降に備えます。ただ明日の天候次第では、何もせずにまたここで待機することになります。天気が良ければ森の拠点に待機し、魔物退治に備えます。ここまではいいですよね?」
全員が頷いて答える。
「では続けますね。皆さんの中で、水系魔法による遠距離攻撃が可能な方はいますか?」
「「「はい」」」
ヴィオラさん、サニーさん、アリスさん、ローズ、俺の五人が手を挙げた。さすがに騎士校の上級生は達者ということらしい。ヴィオラさんなんて頭張るくらいなんだから当然っちゃ当然か。
「おふたりは水系魔法そのものは使えますか」
「ええ」
「なんとか剣に纏わせるくらいは……」
後者は勿論姉さん。たまに修行に付き合わされていた時に俺が姉さんに教えた。最初は剣から水がチョロチョロと出るだけという、なかなかシュールなレベルからのスタートだったが、水を刀身に纏わせて切れ味を大幅に増幅させるくらいのことは一人でも出来るようになったのだった。
俺と姉さんが同じイメージを持って魔法を行使しても結果にバラつきが生まれた。その時気付いたのだが、俺と姉さんではマナによるイメージの再現度に差があるように思われた。俺が百イメージしたらマナはそれを百再現するが、姉さんの場合は六割程にスポイルされるようなのだ。
それが『寵愛』における差なのだろうか。
「それなら有事の際にも対応は出来そうですね。ただ敵はどんな姿形をしているのかすら分かりませんので油断しないでくださいね」
クッパみたいな火を噴く亀とか、愛着湧いていいよなぁ。倒さなきゃいけないわけだけど。
「いいですか、ショーくん」
「え、はい」
「さっきから上の空で別のこと考えてるように見えましたので。ちゃんとこっちを見てください」
「いやー、あのー」
「なんだ、理由があるならハッキリしろ」
姉さんに言われてはもう濁すわけにもいかないか。
「その……。皆タオルが濡れて肌にピッタリくっ付いてるから、色々浮いてて目のやり場に困ってます」
ここまで正直にストレートに潔く言った男は未だかつていないだろう。ショー青春伝説の一つとして刻まれていいくらい。……、まぁ刻まれたのはリンチという名の恐怖だったわけだけど。
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