シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【107話】日常の終わり②




 「つーわけでー、明日から長期任務で遠征となりましたァ!」

 「いえーい!」

 「なんで二人共そんなに嬉しそうなんだ……」

 ヴィオラさん、シャロンさんとのミーティングを終えて、寮に戻って早速その報告。遊びに来ていたアリスさんにも話を聞いてもらった。で、アリスさんと俺のノリノリ具合に姉さんが疑問を呈することになったと。

 「アリス……、お前も行くのか?」

 「勿論っ!」

 「命の危険もあるんだぞ?」

 「だってわたしたちはどうせ国軍の援護だったり、後方支援が主になるんだろうし平気だって! それに、いざとなったらショーくんが飛び込んで来て助けてくれるもんね〜?」

 「なんで肉の壁確定してんすか!?」

 「お兄ちゃんも行くんでしょ?」

 「父さんが俺に指名入れてきたからな。断ったら父さんの面子丸潰れだし」

 「じゃあ仕方ないかぁ」

 「でも、断って困り果てる父さんを見るのも……」

 「ちょっと、面白そう……かも」

 「冗談はそれくらいにして、だ。ローズも行くつもりなのか?」

 「行くつもりっていうか、お兄ちゃんとシャロンさんが人選するんでしょ? だからお兄ちゃん次第じゃない?」

 「まぁ、それもそうか……」

 「正直どんな相手かも分からないからなぁ。一応さっき話したように、火を使うってくらいしか情報が無いから」

 「まぁ万が一戦うにも基本は魔法主体よねぇ」

 「ですよね……。どうする姉さん?」

 「うーむ……。わたしも魔法の才がゼロというわけではないというのが、以前ショーに教えられたからな。今回もショーがいればわたしも」

 「お姉ちゃん、お兄ちゃんにベッタリだね」

 「な、何を言ってるんだローズ!? そ、そんなつもりで言ったわけじゃっ」

 ローズの急な毒に狼狽える姉さん。

 「ゴホン。そ、それにだな。万が一、ショーやローズだけでわたしが付き添わない状況で大怪我をしたり、命を落としたりなんてことになったら、わたしは悔やんでも悔やみきれない。毎日のように自分を呪うことになるだろう。そして、その場にいた父様を恨むことになるだろう。そうなったらわたしは自分が何をするか分からない。だから、わたしはついて行こうと思う」

 「うん。わかった。ローズも頼むな? 魔法はお前の専売特許なんだしな」

 「了解でありますっ」

 つい一分前まで狼狽えていた姉さんだったけど、そんなマジなトーンで想いをぶつけられたら無下にする訳にはいかない。ローズもビシッと敬礼で応えてくれた。

 「じゃあ、ここの4人は全員参加ってことね?」

 「そうなりますね。みんな、よろしく頼む」

 「そんな改まって言うことじゃない。わたしたちは唯一無二の家族なんだから」

 「だねっ」

 「じゃあ、わたしも嫁としてよろしくお義姉様っ」

 「な、何がよろしくだ馬鹿っ! ショーも黙ってないで何とか言え。だから色々と不埒な輩が噂を流すことになるんだ……」

 「そうだよ、お兄ちゃん。……、もう忘れちゃったのかな?」

 ローズがすんごい作り笑顔で圧をかけてくる。完全にピキってるやつよ、これ。

 「忘れてないですすみませんはい……」

 任務行く前に怪我しちゃお話にならない。しかも犯人は身内だってんだから。夜はスリリングなことになりそうだ……。寝れるかなぁ。

 「したら、さ。とりあえずシャロンの方も誰に声掛けたのか気になるから話に行こっか。ふたりとも、ちょっとショーくん借りてくね?」

 「ああ。しっかり頼むぞ」

 「行ってらっしゃぁい」

 「それじゃ、エスコートよろしくぅ」

 アリスさんにサッと腕に手を回される。

 「は、はい」

 「腕を組む必要は無いだろう!?」

 すると案の定姉さんが仲裁に入った。

 「はいはい、じゃいってくるねー」

 目的地はここからちょっと歩いたところにある別の寮。そこでシャロンさんがメンバーを募ってるはずだ。


______。


 ショーとアリスが部屋を出ていってからすぐ、ロースがふと言葉をこぼした。

 「お兄ちゃん、大丈夫かなぁ……」

 「ん、何がだ?」

 暫しの沈黙の後、ローズが重たげに口を開く。

 「アリスさんのこと襲っちゃわないかなって」

 「…………」

 エリーゼはその言葉を噛み砕くのに時間がかかり、理解したところで軽くフリーズした。

 「どったの?」

 「追いかけようか」

 「うそうそ、冗談だってば」

 「冗談になってないぞ……」

 どうしても、学校での姿とは裏腹にショーのことが絡むと冷静さに欠けるエリーゼ。そんな姿を知っているのはごく僅かな人数しかいない。それだけ優秀な人物として知れ渡っているのだ。今回の任務に参加することが広まっても、なんら驚かれることはないだろう。

 「でもね、なんとなーくだけど、アリスさんがちょっと本気でお兄ちゃんのこと好きなんじゃないかな、って思ったりするんだよね……」

 「す、す、すす、好き!?」

 「よく分かんないけどね。お姉ちゃんから見てどう思う?」

 「あいつは今でこそああだが、ふたりが入学する以前は男装というか、意図的男を演じるようにしていたからな……」

 「でもそれが、お兄ちゃんがきっかけになったのかは分からないけど、今はああして女の子に戻ってるんだよね?」

 「まぁ、そうなるな……」

 「それって、やっぱり何かしらの心境の変化があったってことだもんね……。その時に近くにいた男の子に運命めいたものを感じてしまってもおかしくないかも」

 「そういうもの、なのか?」

 「多分……」

 「ふむ……。やっぱりちょっと行ってみよう。なんかもう気になってきて仕方がない! 行くぞっ」

 「おーっ!!」

 何気ない疑問が芽吹き、姉妹はショーとアリスの尾行を開始するのであった。



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