シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第104話】帰郷⑧




 カレーを食べ終え、「ご馳走さま」を合図に各自自分の部屋へと散った。片付けをしようというか手伝おうとしたのだが、母さんが魔法で一瞬で済ませてしまった。油の分解とかすすぎとか乾燥とかパパパッと。食事中一通り喋ったし、洗い物もないしで一旦食休みを兼ねて部屋へ、ということ。

 「あら……」

 懐かしい寝間着がベッドの上に綺麗に畳まれて置かれていた。いつの間にか母さんがやってくれてたのか。でも殆ど一緒にいたような……? 分裂でもした? ……、まさかな。

 「にしたってさ……」

 独りの部屋ってこんなに静かなもんだっけ、とベッドに身体を投げ出し思案する。学校入ってからはずっと2人と一緒だったからなぁ。しかも2人以外にもアリスさんやサニーさんが積極的侵入を試みたりしてくるから、基本的に寝る時以外は賑やかだし。

 一応鍵ついてるんだけどね。魔法で開けてるんだか、生徒会長のヴィオラさんが合鍵作って渡したか、はたまたピッキングしてるのかは分からないけど……。まぁどれにしたってやばいわ。

 「お兄ちゃんいるー?」

 はい、1人のプライベートタイム終わり。時間にして5分経つか経たないかくらいだ。

 「いるよー。どしたー」

 「お邪魔しまーす。いや、なんか1人で自分の部屋にいるっていうのがなんか落ち着かなくてさ。学校入ってからは一緒だったじゃん?」

 「俺も丁度そんなこと考えてたわ」

 「だよねぇ〜。ふふ、お兄ちゃんの匂いがする〜」

 「んな、くっつくなって。まだ風呂にも入ってないんだからさ……」

 「くんくん。別に変な匂いとかしないよー? あ、そうだ。一緒にお風呂入ろっか?」

 「い、いい、いや別に、ローズも独りの方がゆっくり出来るだろうしさ……」

 危うく「良いのか?」と聞いてしまうところだった。それは本音が出すぎと言うか、兄としての威厳とかそんな所が引っかかるのだ。

 「じゃ、じゃあ……」

 「あー、ニヤけてるー。へんたーい」

 「いや、そんなつもりじゃねえんだって。つい! 思わず!」

 「それじゃただの本心でしょー?」

 「……、はい。間違いありません」

 「じゃ、早速だけど入りに行こっか。ちゃんと水着用意するから安心してね?」

 「そりゃ残念」

 「はいはい」

 もう妹にいいようにあしらわれている。マジで威厳もクソもないわコレ。でもさー。年頃の男子としては、妹から一緒にお風呂入りたいって言われちゃ、断る理由が無いもんな〜。どうしようもないよ。

 「じゃ、取ってくるからちょっと待っててね!」

 「いってら〜」

 勢いよくローズが出ていこうとドアを開け放つ。

 「ふぎゃっ!?」

 すると姉さんのこんな声が聴こえた。ドアに顔面を強打したのか鼻を抑えて目に涙を浮かべている。漫画とかテレビだったらペラッペラの紙みたいな演出がされるシーンだ。ローズはそのまま気付かず(?)に自分の部屋へと向かって行った。

 「……、な、何てことをするんだ……。わたしが何をしたと」

 「何って、なんで姉さんがそこにいるのさ……」

 「いや、盗み聞きとかしてた訳じゃなくてだな、その……」

 「じー……」

 「本当に違うんだっ。ただ、さっきは美味しい、カレーだったか? を作ってもらったからな。せめてものお返しに背中でも流してやろうかと思って……」

 姉さんがモジモジしながら淡々と告げる。

 「でも、姉さんも手伝ってくれたし、お礼なんてそんな……」

 「わたしがしてやる、って言うんだから大人しく言う事聞くんだ。学校でそんなことを言ったら倒れる人間だって出るかもしれないんだぞ?」

 姉さんはどこか遠い目をしつつそう言った。

 「あの、実はですね……ロ」

 「お兄ちゃんっ、お待たせー!! ……あ、お姉ちゃん」

 「「…………」」

 何故かもう既に黒の水着姿でローズが突入してきて、姉さんがそれを見て口を開けっ放しにしてフリーズしている。俺は何を言っても丸く収まる気がしないので、今は黙ってることにした。

 「? 早くお風呂いこー?」

 「お前は妹に何をさせているんだ!?」

 「いや、風呂入ろうって言うから……」

 「は、破廉恥にも程があるぞ!」

 「姉さんも今さっき背中を流してやる、って言ってたじゃん!?」

 「それはそれ、これはこれだ!」

 んな理不尽な……。

 「お姉ちゃんも一緒に入る?」

 「いやでも、水着でもう破廉恥とか言うんだし無理だろ……。てか、背中流すって言ってたけど、どの格好で入るつもりだったのさ?」

 「う、う、うるさい! ……、わたしも準備してくるから、少しだけ待っててくれ」

 姉さんが議論をぶった斬るようにして部屋から出ていった。

 「行っちゃった」

 「お姉ちゃんも大変だなぁ……」

 「ん?」

 「何でもなーい」

 「寒くないか?」

 「ん、ありがと。大丈夫だよ。ねえねえそれよりさ、先行っちゃお?」

 「え。でも姉さんが煩くなるぞまた……」

 「多分水着選ぶのに時間かかるからさ。抱っこで連れてって?」

 「抱っこっておい……。子供じゃねーんだから」

 「まだ子供だもーんっ」

 「俺の一個下が何を言うか」

 「じゃあお兄ちゃんも子供だもーん」

 「はいはい」

 「もうケチンボ〜。最初は2人でって話だったんだから、男らしくその埋め合わせくらいしてよねっ?」

 「分かったよ……ほら」

 「わーい。ってええ!?」

 ひょいっとローズをお姫様抱っこしてやると、ローズはなぜかひどく驚いた。

 「何だよ?」

 「いや、さすがにこれは恥ずかしいっていうか……。その、おしりとか……」

 「前で抱っこするよりは俺の精神衛生上こっちの方がいい」

 それは絵面もやばい事になる。兄妹でやることじゃねぇ。

 「良くわかんないこと言って……」

 「ほら、俺はお前を抱えてて両腕塞がってんだ。お前が扉開けてくれぃ」

 「はーい。とおっ」

 ローズが脚で勢いよくドアを蹴る。

 「ぐあっ」

 その裏で水着姿の女性が鼻血を出して倒れていた……。



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