シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第78話】貸し出し権④(サニー編)




 結局俺は姉さんの隣の席に戻り(拉致ともいう)、みんなから分けてもらったお弁当を食べていた。もとい、食べさせられていた。

 「ほら、口を開けろ。あーん」

 「あーん」

 「ふふ。ほっぺにご飯粒が付いてしまったな。取ってやろう」

 「……ありがと」

 「可愛いヤツめ。やはり弟には姉がいなくてはな。そうだろう?」

 「そ、そうだね。姉さんがいてくれて俺も嬉しいな、はは」

 「そうだろうそうだろう。うんうん」

 満足げに深く頷く姉さん。この場面じゃなければもっと素直に感情を込めてリアクションが出来たというのに。お姉ちゃん大好きっ、くらいの勢いで抱きついてベッドにバックドロップ決めるくらいは出来たのに。

 「ショーくーん? しんどかったらいつでもこっちに戻ってきてもいいんだからね〜?」

 「はーいってぇ! なんで叩くのさっ」

 「……お前はわたしじゃ嫌だと、そういうのか……?」

 おぉ、そんな潤んだ瞳で見つめられると……。

 「弟に色目使うなんてはしたないぞー」

 「そーだそーだ!!」

 アリスさんとサニーさんから野次が飛ぶ。

 「な、色目など使ってない! 断じてだぞ!」

 姉さんがヒートアップしている隙に手元から姉さん持参のマイ箸を奪い、弁当をかき込んだ。

 「……ごちそうさま」

 「はーい、お粗末さまでした」

 「ショー、いつの間にわたしの箸を……ッ」

 「そりゃ手で食べる訳にはいかないもの。ねぇ?」

 「(……プイッ)」

 えぇ……。ローズさん無視ですか……。助けを求めてステラさんの方を見るも、俯いて目線を合わせようともしてくれない。悪夢だ。寝るか。

 「姉さん、あとどの位で着くの?」

 「そうだな……大体1時間くらいじゃないか?」

 「そっか。したら寝てるから着いたら起こしてよ」

 「ああいいぞ。ちょっと待ってくれ……」

 「?」

 「ほら」

 と言いつつ姉さんは自分の膝を指差す。よく目の前に不機嫌そうな妹と恥ずかしそうなステラさんがいるのに、そんな大胆な行動に出れるよなぁ。

 それにそこで寝ようとしたら俺の膝から下が通路に完全にはみ出すし。それこそそこにアリスに座られたりして、寝れなくなるのがオチだろう。でも、それも悪くはないか? 決してアリスさんのお尻がどうという訳ではなく、温泉に浸かるんだからある程度筋肉を疲れさせて効能を肌で感じるのもアリだ、ということだ。ホントだ。

 「いや、恥ずかしいから普通に寝るよ……」

 「遠慮するな、ほらっ」

 「あのね、姉さん。ステラさんも困ってるしさ」

 「えっ!? あっ、すまない……」

 「だから帰ってからよろしく」

 「……!! あぁ、お前がそこまで言うなら仕方ないな!」

 「ショーくん、膝枕してほしいの?」

 「その役目はわたしでもいいのかな……?」

 「わたしもやったげるっ☆」

 「4人で膝枕されても、どう寝ればいいのか分かんないっすよ……」

 それはもう枕じゃなくてベッドくらいの規模じゃないの?

 なんて事は言わなかったけど。とりあえずホント寝よ。お腹満たされたから眠気が回ってきた。

 窓に頭を預け目を瞑ってから5分ほど経ったが、どうも寝れない。明らかに視線を感じるような気がしている。

 「……ステラさん?」

 「ひゃい!?」

 「そんなにまじまじと見られると、いくら男でもちょっと気恥ずかしいものがあるんですけど……」

 「あの、ゴメンね! なんか見てたら落ち着くっていうか、可愛いなぁって……」

 「俺、そんな呆けた顔になってました?」

 「ううん! あ、とりあえずまだ寝てていいから。わたしもそんな見ないように気をつけるから……」

 気をつけるつけない、って話でもないと思うんだけど……。まぁ男の寝顔なんて減るもんじゃないし、いいんだけど。



______。



 (ショーくん、そろそろ付くから起・き・て?♡)

 「!!」

 (サニーさん、そんな色っぽい起こし方されるとなんか……)

 (そっか〜ショーくんも男の子だもんねぇ〜)

 (そんな意味で言ってないです!)

 (あははは、ゴメンゴメン。隣のお姉様も起こしておいて。あと10分もすれば到着みたいだから)

 (わっかりました〜)

 トイレいっとこ。

 そう思って立ち上がると、俺の肩を枕にしていた姉さんが椅子になだれ込む。一瞬悲鳴が聞こえたような気がしたが、振り返ることなく歩を進めた。

 「あら、レディーのお手洗いについてくるなんて、ショーくんもご乱心ね?」

 「何言ってんすかアリスさん……」

 「うそうそ。さっきまでぐっすり寝てたもんね〜。ローズちゃんが羨ましそうにしてたよ〜?」

 「え、ローズが?」

 「そうよ〜。エリーゼが肩を枕にしてたでしょ? ちょっと『いいなぁ』って声に出てたもの。ジェラシー凄いんだろうなぁ」

 「それはちょっと怖いっすね……」

 「だから埋め合わせじゃないけど、それとなーくのフォローはしておいた方がいいわよ。難しい年頃だし」

 「はい、分かりました。でもなんかその言い方だと母親みたいですね」

 「失礼ねぇ〜。お姉さんくらいにしときなさい? あんまり悪いこと言うと、チューして口塞いじゃうぞ?」

 「ご、ゴメンなさい!!」

 「そんなに一瞬で謝らなくてもいいのに……」

 「あの……アリスさん」

 「どうしたの? そんな顔して……まさか……襲われちゃう?」

 「そんなことしないですよ! ただ、アリスさんってやっぱり向こうから来たのかな、って……」

 「向こうって?」

 「あ、いや深い意味は無いんですけど……気にしないでください。何言ってるんだろ俺……」

 「向こうが『日本』を指しているならその通りよ」

 そう、アリスさんは言い放ったのだった。




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