シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第61話】眠れない夜から




 さすがにこんな朝を迎えたのは、俺の人生の中において初めてだった。多分この世界における世界初だった。

 まず寝ている間に俺は瞬間移動をしていたらしい。どうだろう、世界初と言えるのではないだろうか。ソファベッドに寝たはずだ、間違いなく。クラリスさんとの一件もあったし。

 で、今は完全にベッドの上だ。しかもベッドが3つくっ付けて並べられたその上にだ。

 そこで俺は人の波に飲まれている。文字通り。左右にアリスさんとローズ。上にクラリスさんとエリーゼ姉さん。指1本動かせないぐらいに四方を塞がれていた。物理的に。倫理的に。

 まぁ口と鼻を塞がれてないだけマシなのだろうか……。あんまりこういうことを言うべきではないとは頭では分かっているのだが、言う。

 重い。重いのだ。どうしてこーなった。悪夢だ……。

 黙ってやり過ごすか、黙って指から動かすか。

 思春期の俺は3秒間の熟考に基づき、後者を選んだ。



______。




 そして案の定怒られ、ベッドから突き出されたのだった。勝手にベッドに入れられ、勝手に戻される。理不尽だ!

 「乙女の柔肌を……」

 なんて誰かが言っていたが、んなこたぁない。知ったこっちゃない。管轄外。俺は『性』を……おっと、『生』を勝ち取りに行っただけなのだから。

 姉さんが1番酷かった。もう首に巻きついて寝息がくすぐったいくらいに密着してきてたくせに、最初に目を覚まして言い放ったのが、

 「なんでお前がわたしにくっついてる不埒者!」

 ということだ。もちろんビンタ付き。めざましビンタ、ノーマルタイプ。なぜか、こうかはばつぐん、だった。

 不埒者、以外は俺の台詞に違いないはずなんだが。何でみんなそんなに仲良くくっついて寝たんだか。まだ俺が寝た後も罰ゲーム続いてたのか? 左右ならまだしも上はダメだろ。死んじゃうもん。

 んで、突き出されたソファベッドの上で、クラリスさんとローズに慰められていた。


 閑話休題。


 「ショーくん、今日はどうするの?」

 「いや、もう帰るだけじゃないですか? 衣装や食材もアリスさんが色々と手を回してくれたお陰で」

 「いや〜それほどでもあるんだけど……。今日帰るにしても、出発は午後まで待ってほしいのよ」

 「それは何故だ、アリス?」

 姉さんが尋ねる。

 「午前中いっぱいでクラリスは仕事を終了して学校は向かうことになるから、どうせなら一緒に、と思ってね」

 「という訳でございます」

 「イイじゃんイイじゃん! ね、お姉ちゃん?」

 「そうだな。ショーもいいか?」

 「もちろん!」

 「なんだ、やけに嬉しそうじゃないか。そうかそうか……そんなに可愛い女の子が大好きなのか……」

 「エリーゼ、焼きもちはみっともないわよ〜」

 「や、焼きもちなど焼いていない!」

 「お姉ちゃん……かわいい……」

 「な、やめろ、ローズ! 頭を撫でるな!!」

 「姉さん、遠慮しない方がいいよ」

 「どの口が言うか! ええい、その口を塞げ!」

 「だってさ、ショーくん。そういう訳だから、おねーさんと熱いキッスをしようか。……んー」

 アリスさんが唇を突き出す。横ではクラリスさんもノリノリでキス体制である。それを見た姉さんが慌てて制止……なんてことをキャッキャしているうちに、朝食の時間が終わってしまっていた。

 クラリスさんは結果的に朝から仕事に出ないことになってしまった。平たく言えば、サボりだった。

 キレたローズを何とか抑え込み、アリスさんが直ぐにチェックアウトを済ませてくれた。隣の竹の宿で早めの昼食(お魚ランチ)を食べることでローズが納得していたからだった。そしてその後、無事学校に帰ることが出来たのだった。






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