シスコンと姉妹と異世界と。
【第49話】下ごしらえ④
予定の時間通りに寮を出立し、街で馬車8台と合流。護衛対象は1人あたり2台という分かりやすさだった。そんなこんなで話し相手が居なくなったので、馬車の荷台の上で暇を持て余した俺は、久しぶりに彼女の姿を見ようと思い立った。
(ナビ子、出てきてくれ)
(……)
(可愛い俺のナビ子、出てきておくれ)
なんかの話で聞いたような気取ったセリフに歯が浮きそうになってしまった。言ったのは自分だというのだから我ながら阿呆だなと思うが。
(……お待たせしました)
ナビ子はメイド服で隣に座るように現れた。マナを通じて今回の目的の事も知っているのだろう。それゆえのチョイスであるはずだ。
(なんか時間かかったな)
(女の子には色々と準備があるのです)
(ふう〜ん)
(なぜ目を合わせようとしないのですか)
(いや、だって……)
激しすぎない程度にその存在を明確に主張している肉の果実。あるいは桃とでも言うのだろうか。メイド服ってそんなに露出してたっけなぁ。
(これはショー様の記憶、もといエロい妄想を自動的に再現したものですので、見て頂かないと困ります)
(そんな直球勝負で来るなよ! でも、その、よく似合ってると思うぞ……)
(鞭を持たない騎手はいませんから)
(どゆこと?)
(……メイドと同じ機能を果たすわたくしが、メイドの服装をするのは当然の事です)
(なるほど、そりゃ確かにそうかも)
競馬で鞭持ってないジョッキーなんか居なかったもんな当然。まぁ稀に落としてしまった騎手が自分の手でペチペチやってるのを、昔観たことがあるような気もするけど、それは例外だろう。
(でも、準備って何かあったのか?)
(普通女性にそれを訊ねるのはタブーかと思いますよ? 元々ショー様のいらした世界でもこの世界でも、です)
(そう言われても気になるしなぁ)
(……)
内緒話をする時のように、ナビ子が口元を手で覆いながら耳に近づいてくる。息遣いが何故か伝わるようで変にドキドキしてしまう。
(下着とかです)
(……ッ!!)
(冗談です。一般的な女性はそういう時にはそれなりの装備で立ち向かう時があるというだけでございます。わたくしが遅れたのはただ、ショー様が、全然外で呼び出してくれないので、マナの適合に少し時間が掛かっただけでございます)
なんか喋っているうちにツーン、となってしまったんだがどういう事なんだろうか。なんか気に触ったのかな? 寮の中でも会話くらいはたまにしてたのにな。
(ごめん……)
(分かればいいんです、分かれば)
(はい……)
(では、罰として)
え、罰あるの!? でもナビ子は物に触れないんだから苦痛を伴うことは無さそうだし、正直ちょっと安心だな。ここの3人に何か罰ゲーム言い渡されたら無事では済まなそうだし。
(帰りもこうしてお話してください)
(もうナビ子可愛すぎる!)
「あ」
(あ)
思わず抱きついたのまでは良かったのだが、それまで。ここは馬車の荷台の上なので、当然着地地点は無くなっている。マズイマズイマズイマズイ! もう1杯ってか。そんな余裕ない!
①ローズが助けてくれる
②アリスさんが受け止めてくれる
③姉さんがなんとかしてくれる
④ナビ子が理論を超えて俺をキャッチ
⑤そのまま進む
①がベスト! 氷の滑り台でも作ってくれ!!
「寝てる、だとッ……。ローズ、末代まで祟るぞ……」
そりゃ身内だからやっぱりやめておこう。姉さんもアリスさんもあっと驚いた表情だが、動けてはいない。ダメだ。諦めたからここで試合終了だ。
正解はもちろん、⑤でしたー。
「間に合え、バリアー!! いってぇぇぇぇ!!」
服の中、擦り傷がやばそうだ……。骨とかはなんも問題なさそうだけど。さすがに馬車は停車し、姉さんやアリスさんが駆けつけて来た。
「おい、大丈夫か!?」
「ショーくん、蝶を追い掛ける仔犬みたいだったよ……」
「大丈夫です……。なんとか魔法間に合ったから」
「本当に? 『痛い!』って一瞬聞こえたような気がしたんだけど……」
「魔法で衝撃緩和したんですけど、さすがに荷台から落ちたんで……思わず声が出ちゃいました。へへ」
「笑い事か!」
スパーンと姉さんの超手刀が炸裂。
「いってえ!!! こっちの方が痛えかも!!」
「エリーゼ、加減しなよ……」
「ふん! そんだけ声が出せるなら平気だ!!」
「もう……」
まぁ過度に心配されるよりはこんくらいのほうがいいけどさ。にしても脳細胞大量に死滅したぞ多分。
(痛いです……)
呼び出し継続中だったナビ子にも、マナで連結してる為かフィードバックがあるらしい。マンガみたいなたんこぶ作って、「ふええ」と涙目になっていた。おーよしよし。さっきまで罰がどうこう言ってたのと同じ人物だとは思えないけど。
「みなさんすみません! 余計な心配かけさせてしまって! でももう大丈夫です!!」
商人の皆さんもホッと胸をなで下ろした様だった。荷台から転落する騎士学校生なんてそう居ないだろうし。最悪暗殺されたと思われてもおかしくない状況だったのかもしれない。
「それじゃ、気を改めて、しゅっぱーつ!!」
「「「お前が言うな!!」」」
皆様からのあたたかな声援に包まれた。ついにローズはずっとこっくりこっくり船を漕いだままだった。
「ファンタジー」の人気作品
書籍化作品
-
-
70810
-
-
2
-
-
6
-
-
125
-
-
107
-
-
149
-
-
89
-
-
93
-
-
104
コメント