シスコンと姉妹と異世界と。
【第34話】護衛任務③
「どうする?」
「とりあえず1番小さくもない、大きくもない、真ん中くらいのを覗いてみようぜ」
「分かった。まぁ3泊できれば比較出来るんだけど」
「連泊は厳しいな……。姉さんが許さないから……」
「箱入り娘みたいだな……」
「返す言葉も無いよ」
「さぁ、入ろう」
中サイズの宿、竹の宿の戸を押す。
「いらっしゃいませ! 竹の宿にようこそ!」
若い男の人が爽やかに営業スマイルをぶつけてくる。塩顔男子とでも言うのだろうか。そのせいか客層は7対3くらいで女性の方が多いようだ。
ていうか、竹の宿って言うのかよここ……。身の丈を弁えているってことなんだろうか。
「お泊まりですか?」
「いや、まだ早いのでお茶だけいただけたらと」
「うん、それでお願いします」
「かしこまりました。こちらがお品書きとなりますので、決まりましたらお呼びください」
そう言って受付兼ホールのお兄さんが離れる。
「ショーはどうする?」
「どうするって?」
「注文だよ」
「んー、コーヒーかなぁ……」
「案外大人だねえ」
「そう? まぁ姉さんや両親が基本的にコーヒーか紅茶だから、その影響はあるかもしんない」
「なるほど。じゃ僕も同じのにしよう」
「すいませーん」
「はい、ご注文はお決まりですか?」
「コーヒー2つでお願いします」
「かしこまりました。暫くお待ちください」
10分くらいしてコーヒーが運ばれてきた。
「んで、モーリスはどう思う、この宿」
「見てない客間以外については特に気になることはないかな。ぜんぜんここに泊まってもいいかな、と思えるくらい」
「そっかー。もう他のとこいくのやめる?」
「いや、とりあえず様子を伺うくらいはしようよ。正直興味はあるし、今度来た時に泊まる候補になるかもしれないから」
「モーリスに賛成〜」
「よし、それじゃ行こうか」
グイッとコーヒーを一気飲み。それってどうなんだよ……。
「ちょっとだけ待ってくれ……。俺猫舌なんだよ」
「でたでた」
「仕方ないだろーコレばっかりは。母さんからの遺伝みたいなんだよ」
淹れたてのコーヒーをすぐに飲めないのが悲しい。この『猫舌の寵愛』が恨めしい。
ふーふー。
(ふーふー)
はい?
(お疲れ様です、ショー様)
(なんでふーふーしてるんだ?)
(気持ちだけでも、冷めろ〜と思いまして)
(それは嬉しいんだが……近い……)
(美女がこの距離でふーふーしてあげているのですから、ここは喜ぶべき場面ではないのですか?)
(はいはい、ありがとよ)
「……よし。ご馳走さま。待たせてすまん」
 
「いいって。さすがにもう慣れたよ」
「笑ってくれるなよ」
「お代は?」
「おひとり様800円になります」
「「はい、ご馳走さまでした」」
「またお越しくださいませ!」
「さて、どっちから覗く?」
「ショー、それはあんま声高に言わない方がいい。知らない人からしたら、風呂を覗こうとしてる不埒な子供2人にしか見えていないはずだ」
「そ、そっか、ごめん……」
「とりあえず小さい方の宿に行こう」
「おっけー」
「なんだここは……」
暗すぎるだろ……。恐怖の館だぞこんなん。点いてる灯りも蝋燭だからゆらゆらしてるし……。
「モーリス、ここ泊まりたい?」
「ま、まぁ食事が絶品だったりす」
「やめておこう」
「……だね」
100mくらい歩いた先にある大きな宿に向かう。
「こっちはどうなんだろうな」
「こんなに大きいんだしさぞ豪華なんだろうね」
「じゃあ、開けるぞ」
……うわぁ。あるんだ、ここにも。
「見なかったことにしよう。まだ僕たちには早そうだ」
「同感だな」
この世界にも「いらっしゃいませご主人様っ」のシステムがあったとは。そりゃまぁ世話係として屋敷に仕えてるようなメイドは居ると思っていたが、それを商売に組み込むところまで来ているなんて。
……という訳で。
「「今晩部屋空いてますか?」」
竹の宿に落ち着くことになった。
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