シスコンと姉妹と異世界と。

花牧優駿

【第15話】晩餐会①



 アリスさんと別れ俺たちは食堂に向かった。そこにはやはり、親衛隊員の方々も居たのだが、さすがにイイトコの集まりなだけあって節度は弁えてるのかな。

 「ここが食堂だ。大概の食事はここで取ることになる。朝は一種類だが、昼と夜は安く仕入れられた食材で二種類の食事から選ぶことが出来る。まぁ、肉か魚かの二択になるとは思う。おかわりも自由だからな。育ち盛りの男子生徒には大好評だ」

 「やった……おかわり自由……」

 ローズの方が喜んでいたようだ。まさに食べた分が身になるを地でいってるような気がするんだけど……。主に胸方向。

 「姉さんもちゃんと食べないと……」

 「ん? わたしは食事を残すことはないぞ?」
 
 「ですよね……」

 結局、昼食を終えても親衛隊員の方々はこちらへ来なかった。ローズの鬼気迫る食べっぷりにやや引き気味の様子であった。ただ、中には小動物を見るような目をしていた人もいた。その気持ちはちょっとわからんでもない。

 「基本的にここの施設はこの校舎と、修練場、演習場の三つに分かれる。修練場では主に剣の稽古が行われ、演習場は自然に溢れる環境を活かしての実戦さながらの訓練もある。魔法の稽古もここだな。下手に火系統の魔法を使うと森を焼き払いかねないから注意してな。まぁ、監督者がいるから消し止めるのもすぐだろうがな」

 案内の中でざっと姉さんが説明してくれた。案内中、後ろをずっと親衛隊員の方々がついて来て、ちょこちょこ補足説明をしてくれた。そしてちょこちょこ、ローズにクッキーが与えられていた。

 「さてと。そろそろ丁度いい時間になりそうだし、一旦部屋に戻ろうか」

 「そだね。えと、皆さんもありがとうございました」

 「はーい、じゃねー可愛い弟クン」

 「またね〜ローズちゃん」

 うしろにいた2人の親衛隊お姉さんが手を振ってくれた。普通にしてれば美人さんなんだけど、姉さんの虜なんだよな……。そんなこんなで部屋に帰ってきた。

 「さて、ショー。着替えが終わったら先に玄関へ行ってくれ。わたし達も着替えを済ませたらすぐに行く。アリスを待たせることはないと思うが、念のためな」

 「ん、わかった」 

 「「……」」

 「俺着替えるけど?」

 「「そう……」」

 まぁ、同じ部屋に住んでるんだし出てけってのも変な話だしなぁ。俺が気にするのがおかしいのかな。12歳の俺ってどうだったんだろ?
 もう着替え終わっちゃったよ。なんで2人とも普通にこっち見ながら黙ってたのよ。

 「……さ、さぁ、ショー先に行って待っててくれ」

 「お兄ちゃん待っててね〜」

 「……」  

 「早く行ってこい」

 手厳しい……。ちょっと疎外感。行こ。





 「わたしは別に見られたってどうってことないんだけど……」

 「わたしがダメだ!」

 その……胸が比較されるッ

 「水着でお風呂入ったじゃーん」

 「それは言うな!」

 恥ずかしすぎて、逃げるように湯船に浸かって、のぼせて、ショーに抱えられた上に介抱までされて……。ダメだ、思い出してしまうッ。最悪の思い出だ。




________その頃。


 「やぁ、ショー。2人はまだ着替えてる?」

 もうアリスさん来ちゃってます。まだ15分前。まぁ付き合いの長い姉さんの事だし、アリスさんが早く来ても暇しないように相手してろ、ってことなのかな。

 「え、あ、はい。先に行っててくれって姉さんが」

 「そっか。じゃあ僕と少しお話でもしてようか。どう?この服」

 そう言って一回転。青のフリルワンピの裾がふぁーっと広がってどこか優雅。

 「よ、よく似合ってると思います。女性らしくて、とても新鮮な感じです」

 彼女いない歴=年齢の俺。上手い褒め言葉がどこにも見当たらない。思ったままを素直に吐き出すことしか出来ない。

 「新鮮って言ったってまだショーくんと会うのは2回目だよ?初日だよ? まぁでも、女の子らしくて、か。世辞でも嬉しいね」

 「いや、お世辞なんてつもりじゃ……」

 「まだ2人は来なさそうだし、僕の話をしようか。
 僕の家は僕しか子供がいなくてね。父は僕を男として育てようとしたんだよね。その流れで剣を習うことになって。そして9歳の時。大会に出たらいきなり優勝だ。剣が僕の生きる道だ!って思ったね。でも次の大会でエリーゼ、君のお姉さんに負けて準優勝だった。天狗の鼻はすぐに折られたよ。女の子でもあんな綺麗で強い剣を振るうことが出来るんだと思ったら、ね。」

 「6年も前から姉さんと……?」

 「いや、その後、女に負けるなんて、ってお父さんが怒っちゃってね。剣は辞めさせられたんだ。でもどうしても諦められなくて、こっそり道場には通い続けた。自分が男だろうが女だろうが、剣は誰にでも振り向いてくれる。そう思うと楽しくてしょうがなかった。一昨年、道場の先生がここに推薦してくれて、家から逃げるようにここに来た。でもお父さんはすべてお見通しで、ただ一言『お前が選んだの道なのだから頑張れ』って入学式のときに言ってくれたんだ。嬉しかった。
 ひと目でエリーゼのことはわかったんだけど、向こうが覚えてなさそうで話しかけられなくて。模擬戦で剣を交えて初めて思い出してくれたんだよ」

 「剣筋で思い出す姉さんって……」

 脳剣だな。うん。

 「エリーゼらしいよね……。おっ噂をすればなんとやら」

 「すまない、やはり待たせてしまっていたか」

 「アリスさん、すみません。お待たせしてしまいまして」

 「いーのいーの。ショーくんともお話出来たしねー」

 「え? あ、そうですね」

 「どんな話をしてたんだ?」

 なんと答えづらい質問を……さすが姉さん。アリスを伺うとウインクを返された。

 「ショーくんがねー、『アリスさんの格好、女らしくて超素敵です!』って」

 「えっ!? ちょっ、違……」

 「『女らしくて』とか、お兄ちゃんのエッチ」

 ローズが両手を肩にやりながら拒絶の姿勢をみせる。
 ローズもワンピースを選んでいたためか。

 「『女らしくて』な……」

 タイミング悪く、姉さんが選んでいた服はパンツスタイルだった。

 「「「……」」」

 出発前に、何とも重たい空気になってしまったのだった。


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