TSしたら美少女だった件~百合ルートしか道はない~

シフォン

「思ったよりあの人は怒っていたようです」

背後から来る気がした何かからの逃走中、俺はこんなことを考えていた。
このまま逃げるとして、まず家に駆け込むために家の前の変態をどうにかしないといけないけれどそもそも変態たちをかいくぐらなきゃ家に入れない。
しかしその変態たちをどうにかするのは難しい。
つまりは目的地に逃げ込むためにまずは障害を乗り越えなきゃいけなくて、かと言って障害を乗り越えるために時間はかけられないって状況なわけだ。
結論から言えば相当な無理ゲーと言えるだろう。いやむしろ不可能系の難題だこれは。

後ろに居る奴はまずどれくらいの脅威か分からないが少なくともここんとこのトラブルの傾向から考えて軽く考えていいものであるはずがないだろう。
とりあえず後ろの奴の危険度は特大判定で良しとしようじゃないか。
それじゃ次、家の前に居る変態たち………は、もう言うまでもなく危険度特大。ステラの一件は忘れもしないぜ………あれはちょっと不気味過ぎてトラウマ級だった。
とにかく、俺は今前門の虎後門の狼ならぬ前門の変態後門の正体不明と言った状況にあるわけだな。
どーすんだこれ。

「後輩ちゃん、俺今思っていたよりもものすごくピンチだってことに気付いたんだ」
「どんな感じにですか?」
「家に逃げ込めないよ!」

ひとまず後輩ちゃんに意味もなく相談して精神の安定を図りつつ、この先の逃走ルートを考える。
もちろん三秒で挫折したが。
家に帰るまでの道以外での通り道のレパートリーなんてあんまりないことを忘れてたんだぜ………スーパーと駅とこれまでに通った学校くらいしか行く方法が分かってる場所がない。
こりゃ本気で方向音痴と言うかインドア体質を治した方が良いか。生き残れたらの話だけどさ。

………こうなりゃ一か八か家に突入してみますかね。
今のところ危険度が完全には分からずひとまずで特大にしている正体不明のヤツよりも家の前に居る変態たちの方がまだ危険度が分かっている分安全だろうからな。
実際は比較形で安全ってことだからどちらにせよ安全ではないが、それでもここで変に逃げて正体不明のヤツに捕まる方がリスクが高いだろう。
俺は覚悟を決め、家に向かうルートを辿ることにした。

「ところで後輩ちゃんよ、家に向かうのならこっちじゃなかったと思ったのだけど」

まぁその前に気になったことを1つ聞くんだけどな。
後輩ちゃんの家とは方向が違う気がするんだよな。こっちは。

「そりゃ、先輩を一人で行かせたら大変なことになるかもしれないですからね」

………そりゃどうも。というか後輩ちゃんの中で俺って存在はどう思われているのか非常に気になる発言だなぁ今のは。
ただ確かに大変なことになるかもしれないのは確かなんだよなぁ。
例えば先日のステラの一件とかステラの一件とかステラの一件とかな。それを考えると後輩ちゃんが近くに居てくれるのは助かるとしか言えない。
俺はジェスチャーでありがとうと伝え、微妙に心強く思いながら気付けば思ったよりも近くなっていた家に突入するのであった………



うぇい?



しかしその目の前で、思いもよらぬ光景を目の当たりにして俺と後輩ちゃんは急停止した。
………なんと、驚くべきことに我が家の目の前に警察車両パトカーが停まっていたのだ。
え?どゆこと?何故にパトカー?もしかして亮太がやっちゃった?
俺の思考をたくさんの疑問符が覆いつくす。
そして、家の近くで立ち尽くしている俺たちが視界に入ったのか、一人の警察官が近づいてきた。

「あ、どうもこんにちは」
「………何があったんで?」
「いえ、居候を名乗る方から通報がありまして………」

ふむふむ、ステラがね………110番知ってたのか。まぁ確かにステラもあの変態たちは怖いだろうから、それを警戒して覚えたのかもな。
しかしパトカーの人よ、それはともかくとして何故我が家のドアにブルーシートが掛けられているのかね?嫌な予感しかしないですよ?

「あ、家のドア、気になっちゃいます?」
「そりゃ、まぁ………」
「いやいや、私もここの手の事例は人並みに経験してますけど、今回みたいな事例は初めてですよ。まさかドアを酸で破るとか驚き以外の何物でもないです」

………………え?ドアを酸で?
俺は、その単語を聞いた瞬間頭が真っ白になり、思考が停止してしまうのであった。
ドアを破るのは今朝もあったけど、正直酸まで使うとか予想外だぜ。
いくら我が家が一般家庭とは言っても金属のドアを破るほどの酸なんて、入手するのは相当に難しい………あ、でも今は後輩ちゃんによる応急処置を施されただけの状態だからちょっとだけ破られやすかったのかな?
いや、この言い方だと後輩ちゃんの詰めが甘いみたいに聞こえるな。じゃあ純粋に変態どもの技術力が俺の想像を上回っていたということにしよう。
俺はひとまず酸によってドアが破られた件をそこらに置いておくことにした。

「ところで、親御さんの方は今どこに居らっしゃるので?」
「へ?」
「いやだから、ご両親が居ないようですけどどこに居るんですか?」

しかし、折り合いをつけた途端に新たに問題がやって来やがったぜコンチクショウ。
ウチの両親?えぇどこに居るか分からないですよ。
今のところ俺にはよく分からないけど外国でなんかやってるってことしか分からないね!
今更だけど本当に両親が何やってんのか訳わからん!
とりあえず警察官には外国に居るはずとだけ伝えるが!

「外国に居るはずです」
「そうですか………ところで後ろに鬼神のような形相の女性が居ますけど、お知り合いでしょうか?」
「へ?」

また驚きのあまり言葉が出なくて何故か変な音が出てしまった。
鬼神のような形相のってなんだっての。というかようやく気付いたがこの感じさっき逃げまくったあの恐ろしい気配にそっくりなんですが………
何かとんでもないものが我が家の前に居るような予感がしつつ、そーっと振り返る。
そこに居たのは………

「ただいま」
「くぁwせdrftgyふじこlp」

正に、鬼神とでも表現するべき形相で親父を抱えている母さんが、そこにいた。
………しかし俺は、その怒りに満ち満ちた母さんから放たれた恐怖の波動に耐えられず意識を速やかに奪われてしまった。
怖すぎだよ母さん。

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