TSしたら美少女だった件~百合ルートしか道はない~

シフォン

「気にしない方が良いことはやはり多いのだろう」

この世の中には、気にしない方が良いことがたくさんある。
たとえば世界で死んでいく子供たちの数だとか、一日に死ぬ人間の数だとか、国家の秘密とかな。
だって知ったところで個人での価値は小さいし、気にしたところで行動へ移すのには大変な労力を必要とする、そんなものは気にしない方が良いんだ。だって得なんてしない。ただ時間を無駄にしてしまうだけなんだ。
だからな、後輩ちゃんと一緒に帰っているこの時間に、わざわざテニス部の方々による熱烈なストー………もといスカウトや、今日見てしまった檜山センセの秘密?のことを気にする必要はないんだ。
分かるよな?幸せに自分で水を差す必要はない。そういうことさ。
つまり、俺はこの瞬間を大事にし、そして他の事を気にせずただただ幸せを実感するべきなのだ。
「先輩、なんだか今日もテニス部の方々はやってきていらっしゃるようですけど………」
「無視で良いんじゃないかな」
俺は後輩ちゃんに、徹底して無視しようという方針だけを伝えると、歩くペースを変えたりもせず、そのまま歩いて家に帰ることを決めた。
なんであんな奴らのためにこの時間を短縮してやらなきゃいけないんだ。そういうことである。

なんというかこの後さらに面倒なことが起きる予感もしてるからなぁ………今のうちに精神に幸せな思い出によるガードをかけておいた方が良いだろう。
単なる直感に過ぎないんだが、そんな気がしてる。だから対策をする。当たり前だ。
というか、恋人関係に至ったのにいまだ普通に一緒に帰る、なんてイベントすら起きてないんだよ!?今時の学園モノギャルゲじゃ絶対に欠かせないイベントの筈なのに、まだ起きてないんだよ!?
現実でイベントが起きるという単語を使うのも多少違和感があるがね、それでもこのイベントがまともに起こったこともないんだ。それは由々しき事態としか言えない。
だからね………俺は、今日こそ後輩ちゃんと一緒に帰るんだ。今日こそは、今日こそはだ。大事なことだから三回は言ったぜ。
とにかく今日こそは平和かつノーマルで普通な帰宅をするんだ。
つまりテニス部の方々やら何やらなんて気にしないのさ。そもそも普通の奴はテニス部のストーカー、もといストーカーの方々に集団で追いかけられるなんてことはありえないんだからな。
「………先輩、なんだか今度は左右からもストーカーの方々が来たんですけど………」
「無視で、いいんじゃないかな………」
そう、ノーマルな人間はストーキングされることも無ければTSすることもないんだ。
………ん?ストーカーが左右から?
おかしいな。スカウトストーカーの方々はそんな挟み撃ちはしなかったと思ったが。

そして俺は、最悪の現実に気付く。
『あれ?そういや今朝の男たちって、どうなったんだろ』という疑問の、完璧な答えに。
正解はストーカー化であり、何より俺の身が激しく危険、そして後輩ちゃんの身も危険ということだ!
なんということだろう。何よりも忌避するべきことが起きてしまったよ。あの男ども、まさかこのタイミングで………いや、まだこのタイミングならましだが、とにかく何故このタイミングで来たんだ?
殴ろうか、いや殴ってやる。顔面を二回ほど殴って一章恨んでやる。
「流石に、これは無視できない気がしますけど………」
「あぁ、俺もそう思う。むしろ生命の危機も同然でしょこれ」
俺と後輩ちゃんは軽く二言三言ほど言葉を交わしたのち、横の道から出てくるのが難しい位置まで移動して、走り出す。
逃走開始。俺としては、これが本日最後の本日最後のトラブルとなることを切に願うよ。
あぁ神様………はあてにならんし、じゃあ仏様!俺にマトモな学園リア充ライフをおくれ!お願いだよ!

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