ブラックリストハンター ~異世界ルールで警察はじめました~

チョーカー

そして殺人事件発生

 
(僕は失神してる間、どれだけの技を使ったんだ?)

 気を失ってからも戦い続ける事ができたのはスタンにとって僥倖だったのは間違いない。
 しかし、切り札として用意してきた技が自分の知らない間に使用していたとなると……

 (非常にマズい!)

 未知の技は相手に取って脅威になる。
 知らない技を一瞬の判断で対処するのは当然だが、難しい。
 逆に言えば、相手が知らないだろうと高を括って、使用した挙句、あっさり対処され追撃を受ける事は避けたい。

 (さて……どうするか…) 

 スタンが対無敵用に考えた作戦は、複数ある。
 まずは先ほど使い、あっさり破られてカウンターを食らいそうになった打撃だ。
 面積の大きな手の平と踏み込みの力を使った打撃。衝撃を相手の内部へ送る技だ。
 これは、どうも使用済みらしい。

 次に魔法。
 最初の打撃と近しい原理だが、その上位互換の攻撃を用意していた。
 と言っても使用者であるはずのスタンも原理まで知らないのだが……
 どうもこの世の中には、物体をすり抜ける性質を持った物体が存在しているらしい。 
 その物質を魔力によって形成し、拳に乗せて打ち込むという魔法と打撃の混合技だ。

 3つ目はさらに純度の高い魔法だ。
 炎系や水系の魔法を使った攻撃。
 攻撃と言うか……
 炎系や水系の魔法を使いユウトの周囲から酸素を奪う作戦。
 いくら攻撃に対して無敵と言っても、意識を保つための酸素がなくなれば、戦いどころではない……はず!

 4つ目は直接的な方法だ。
 ユウトの隙をついて組み付き、そのまま寝技グランドへ移行。
 鎧を着こんだ体に関節技サブミッションが、どこまで有効なのかわからないが、本命メイン絞め技スリーパー
 要するに相手にダメージを与えなくても、戦闘不能に持ち込んでしまえばいいのだ。

 これら4つの作戦。
 致命的な欠点がある。
 それは……
 スタンの魔力残量、体力やダメージから逆算して……
 どうやら、既に使用済みらしいという事だ。

 (これは困ったなぁ……)

 スタンは困ってしまった。
 なぜなら、残された切り札は1枚だけになっているからだ。

 切り札。

 それをそう呼んでいいのか疑問は残る。
 スタンに残された作戦はシンプルなものだった。
 上記の技が通じなかったなら、全部同時に仕掛ければいい。そういうものだったからだ。
 つまり1つ1つの技が通じなくても、連続技という1つの技として全ての技を使えば、予想外の相乗効果が起きてユウトを倒せる!! 
 ……かもしれない。

 スタンは覚悟を決めた。
 もし、この技でもなんの効果も見いだせなかったら……
 大丈夫。次の手を思いつくはず!
 そのまま、スタンは一歩前に踏み出した。

 スタンが繰り出したのは、再び諸手の掌底。
 それをユウトは無防備に受ける。明らかにノーダメージ。
 こちらの打ち終りに合わせてユウトの鉄拳がスタンに向かって来る。 

 鉤突きフック

 まるで死神の鎌のような軌道でスタンの頭部を襲って行く。
 まともに受ければ、その見た目同様に生命を刈り取ってしまうに違いない。
 だが、それはスタンに届かない。

 2撃目!

 スタンの拳がユウトの体を打ち抜いた。
 魔力の込められた一撃。ユウトの攻撃が止まる。
 その衝撃によって動きを止めたのか?それとも有効打ダメージを受けて動きを止めたのか?
 それを確認することもなく、スタンは動き続ける。

 胴タックル

 両手をユウトの胴体に絡める。そのまま浴びせ倒そうとするもユウトは耐える。
 ならば、スタンはユウトの背後バックを取る。
 体重のかけて倒そうとするスタン。耐えるユウト。
 スタンは狙いをユウトのひざ裏。 自身の土踏まずをユウトのひざ裏に合わせて、前に押し出してやる。 
 子供が遊びで行う膝カックンと同じ。しかし、格闘技では有効手段だ。
 ユウトの体が後方へ反れていく。
 だが、ユウトは耐える。
 耐える。 耐える。 耐える。
 倒れる事を拒否する。
 その隙にスタンの腕はユウトの首へ。

 スリーパーホールド!

 ユウトの鎧が邪魔をして、完全には極まらない。
 ユウト本人も防ごうともがく。
 しかし、スタンの最後の攻撃が開始された。

 「ファイア!」

 火を意味する言葉はスタンは叫んだ。
 裂帛の気合と共に使用した魔法は、スタンの体を覆い包み、炎の柱となりユウトの体を燃やす。

 おそらく観客からは悲鳴が上がっているのだろう。
 酸素が燃焼する炎の内部に空気の振動は伝わらない。
 無音の世界だ。
 オレンジ色に染まった視界に慌てふためく観客たちがスタンには見えた。

 凄惨な試合だ。
 人が燃えている……これが戦いなのか!?と抗議の声を上げる者がいる。
 ここまでやるべきではない。あるいは、これは殺し合いだ。
 観客たちの否定的な声は周囲に広がっていく。
 しかし、そんな声は文字通り当人たちには届いていない。
 試合が動いた。

 炎に包まれた両者が激しく動き始めた。
 いや、動いているユウトだけか。
 ユウトは背後から首を絞まられたまま、暴れ狂う。
 背後のスタンを剥ぎ取ろうと首を振り回す。

 (このパワー……流石に規格外!)

 スタンが感じたパワーは、まるで暴れる猛牛から振り落されまいと抱き付いている感覚。
 まるでロデオ。
 常人が真似をすれば首の骨が取り返しのつかないダメージを受けてしまうはずだ。
 それをものともせずに首の力だけでスタンを振り落そうとするユウト。

 (無敵のチート能力だから可能なのか?)

 そんな分析も虚しく、スタンはついに根負けした。
 腕の僅かな緩みから、フワリとした浮遊感。
 気がついた時にはスタンの体はユウトから離れ、宙を舞っていた。

 「くっ!」

 着地したスタンは、さらに前にでる。
 1度効かなくても、何度でも……効くまでやる!

 だが、できなかった。

 スタンとユウトの間に何者かが入ってきた。

 (ら、乱入者!?)

 しかし、その人物は乱入者ではなかった。
 スタンとユウト以外に試合場に最初からいた人物だった。
 その人物の正体は―――審判だ。審判が攻撃を加えようとするスタンを止め、ユウトを庇うように抱きしめていた。
 何が起きたのか?スタンには理解できない。
 そんなスタンに向けて審判は―――

 「決着だ。すでに事切れている」

 と告げた。
 つまり、ユウトは死んでいるという意味なのだが、暫くスタンは理解できなかった。

 その後、メギ署両馬景署長から岡山県警へ事件発生の一報が送られてきた。
 その内容を要約すると

 『殺人事件発生・・・・・・
 被害者は武道大会の最中、何者かに背後から鋭い刃物で一突き。
 犯人は不明』

 という不可思議な事件内容であった。

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