ブラックリストハンター ~異世界ルールで警察はじめました~

チョーカー

不死身のユウト

 ユウトが前に出る。
 しかし、その動きは明らかに鈍い。
 左右にふらつき、転倒をさけるために時折、足を止めている。
 その様子にスコーンは―――

 (ダメージが効いてる?)

 スコーンは冷静だった。
 勝負を決めるために開幕速攻で極限魔法を使い、さらに自身の魔力を使い果たすほどの攻撃魔法を使用した。
 確かに、それでも動き続ける相手に驚きも混乱もあった。
 しかし、心のどこかで「これだけでは倒しきれない」と予感もあったのだ。
 ユウトは『不死身』の二つ名を連想させるように、まるでゾンビのような足取りでフラフラと―――しかし、確実にスコーンに向かっていく。 
 対して、スコーンには打つ手がない。
 魔法使いである彼にとって生命線である魔力は使い切り、枯渇している。
 もう反撃の手段もない。誰もがそう思っていた。―――スコーン以外は。

 (急げ!急げ!急げ!)

 スコーンは魔力の再補充リロードを急がせる。
 魔法は精神メンタルの要素が大きく左右される。しかし、それと同時に魔法は理論的ロジカルである。

 もちろん―――

 怒りによって魔力の威力は変化しない。

 生命力など曖昧なものを魔力に変換などできない。

 むしろ、感情は魔法を使うための精度や発動までの速度に関わるため、常に精神はニュートラルな状態が好ましい。
 だから、スコーンの枯渇した魔力が回復する方法は必然的な方法でしかない。

 例えば、極限魔法に使用して、なおも地面に余っている魔力とか……

 そして、それは間に合った。
 「キェーイ」とスコーンの奇声が試合場に響く。
 スコーンの正面には魔力で形成された氷柱つらら
 それを奇声と共に発射させたのだ。
 そして、氷柱はユウトの顔面に吸い込まれるようにヒットした。

 クリーンヒット

 氷柱が顔に突き刺さったユウトの姿。
 その姿にスコーンを含めた多くの者はユウトの死を強く意識させた。
 当然ながら、各所で悲鳴が上がる。
 しかし、ユウトの歩みは止まらなかった。

 「なっ!」

 短く驚きの声を上げたのはスコーンを含め、何人の声だろうか?
 スコーンは続けて、回復させた魔力で氷柱を形成。
 発射させる。
 だが、やはり―――
 それを受けたユウトは、僅かに仰け反るだけだ。

 余りにも理不尽な光景。

 スコーンは歯をガタガタを鳴らし、恐怖に襲われる。
 それでもスコーンは後ろを見せない。
 本来、小心者であるはずの彼は、この1戦で何かが変わったのだ。
 英雄と戦い、勝利が見えた。その事実に彼の内面にどのような変化が起きたのだろうか?
 そして、勝利が零れ落ちた瞬間に彼はどう思っただろうか?
 きっと、それらの要因が彼に精神的な成長を短時間で起こしたのだろう。
 それが幸か、不幸かは別に……

 そして、体が複数の氷柱で刺された人間は、彼の目前まで到着した。 


コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品