ブラックリストハンター ~異世界ルールで警察はじめました~

チョーカー

スコーンの猛攻

 ほぼ、全ての観客たちは、こう予想していた。
 小賢しいスコーンの魔法をユウトは真っ向から打ち砕き、あっさりと決勝進出を決める……と。
 しかし、その予想は裏切られた。 しかも、予想外の裏切られ方だった。

 試合開始の銅鑼が鳴る。
 次の瞬間―――

 爆発が起きた。

 ―――否。本物の爆発ではない。
 高濃度の魔力がユウトにぶつけられ、その魔力の余波が結界外にまで漏れたのだ。
 一体、何が起きたのか?決まっているスコーンの攻撃だ。
 その事に志向が停止していた観客たちも気づき始めた。

 「あのスコーンって奴、何しやがった?あんな魔法、準決勝まで隠してたのか?」
 「あれは極限魔法の部類だぞ。詠唱もなし、媒体もなし、条件を何も満たしてないはずだぞ!」
 「いや、あいつ…… 蓄えてたんだ。試合のたびに自分の魔力をすこしずつ……会場の地面に」
 「待て待て、それじゃ結界の効果は?結界の真下から発動した魔法はどうなっちまんだ?」
 「どうもこうも、みりゃわかるだろ?大爆発よ!」

 会場のいたるところから、魔法使いらしき観客が怒鳴るように声を上げている。
 試合場は、魔力の渦が巻き起こり視覚できる状態ではないため、興奮状態のぶつけ先がないのだろう。
 やがて、試合場の様子が明らかになる。
 スコーンが使用した極限魔法は氷系。尋常ではなく大量の冷気によってユウトの姿は消されている。
 その冷気によって舞い上がる白い煙に向け、スコーンは攻撃を続けていた。
 魔力で形成された氷のツララ。それを姿の見えないユウトに向けて放ち続けている。
 1撃1撃に「キェーイ」と奇声をあげて、攻撃の手を休めない。
 まさかの展開。それも観客の望んでいた派手で華のある魔法。
 大番狂わせのジャイアントキリリング。 観客の行き場のなくなっていた感情は興奮の坩堝と化す。
 そして、スコーンの攻撃に合わせて、観客たちも「キェーイ」と奇声を上げ始めた。
 何千という人間が自分の行為を肯定してくる。それはスコーンの人生で初めての事。
 歓声が後押しになり、本来なら疲れ果てて止めてしまう魔法を使用し続けた。

 「キェーイ!」 「キェーイ!」 「キェーイ!」

 観客たちの声援でリズムを取って、攻撃を続ける。
 それは、体が自分の意志に反して動くのを止めるまで続いた。

 ・・・
 ・・・・・・
 ・・・・・・・・・

 スコーンは、自分の人生を思い返していた。
 過去、自分はここまで笑った事はあるだろうか?
 ここまで気分が向上した事があるか?
 いや、無いと断言できる。
 それと同時に自分の人生が変わったと実感できる。
 スコーンは攻撃を止め、両膝を地面につける。腕は―――もう上がらない。
 完全な魔力切れ。MPは0。
 意識も途絶えかけている。
 それでもスコーンは微笑んでいた。
 しかし、それもすぐに――― 笑みは凍り付く。
 冷気の幕の奥、何かが蠢いている。それは人間のように見える。
 そんな馬鹿なとスコーンは頭は振るって否定する。
 あれだけの魔力を受けて動ける人間がいるはずがない!
 しかし、同時に不思議に思っていたことがある。
 攻撃中は封印していた疑問が限界を迎えたのだろうか?
 爆発的に1つの疑問が頭を占めた。

 どうして、なんで審判は試合を止めなかったのか?

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