ブラックリストハンター ~異世界ルールで警察はじめました~

チョーカー

メッセージ

 リザードマンは両手を広げ、2本の剣を構える。
 対してユウトの構えは―――

 体が半身の状態。剣先を相手に向ける構え。
 フェイシングに似ている。

 先に仕掛けたのはリザードマン。
 両手の剣を自由自在に振るっていく。

 上
 右
 右下右
 左右上上下
 上上上左下
 下右左左右右右……

 荒々しい剣戟の数々がリザードマンから繰り出された。
 硬い鱗に身を守られた肉体。 その鱗の重みを感じさせない筋量。
 生まれ持った肉体の性質から、攻撃特化の剣術が生まれたと想像する事は容易い事だ。

 対してユウトは防戦一方になっている。
 しかし、その防御が凄い。暴風のような剣戟を――― 相手から繰り出される一撃、一撃を自身の剣に正確に当てる事で、攻撃の軌道を変えさせている。

 なにより凄いのは、リザードマンの猛攻からユウトは一歩の後ろへ引かない事だ。
 リザードマンからの圧力プレッシャーに屈することなく、剣を捌き続ける。
 リザードマンも強引に前に出ようとするも、そのたびユウトの剣先がリザードマンの目前で止まり、その前進を止めている。
 それは残酷な戦い方だ。
 戦いの中で宣言している終わらせようと思えば、いつでも試合を終わらせる……と。
 そのくらいの力量差を見せてつけて、なお戦いを継続させている。

 では、

 それは、なんのために?

 その意味に気づいた人間が会場に何人いただろうか?

 その気づいた人間の中にリョウマもいた。
 リョウマは反射的に隣のスタンを見る。
 スタンの表情は変わらない。彼の漆黒の瞳から感情の色は見て取れず、ただ試合を見続けているだけだ。


 ユウトの戦い方は、強いメッセージ性を放っている。
 わかる者にしかわからないだろうが、わかる者には雄弁な主張を叩き付けている。

 戦いとは―――

 相手に打ち勝つものだ。

 そして、それはごく当たり前の事。
 相手の手を取り、共のゴールを目指すなら、舞踏でも志せばいい。

 戦いとは―――

 常に孤独である。
 2人以上の人間が戦うのなら、最後に残るのは1人のみ。
 出会いと別れ。それが戦いの全て。

 お前もそうだろう? スタン・ザ・オックスフォードよ。
 お前の戦い方はなんだ? 相手に実力以上の力を引き出させる?
 その結果はどうだ?

 後ろを見れば、誰もお前について来ていない。
 誰もがついて行く事を諦める。 

 だから―――

 だから、お前は間違っているのだスタン・ザ・オックスフォード!

 それがユウトから周囲に向けて、溢れだされる感情の正体。
 だが、しかしその強いメッセージに最も影響を受ける人物はスタン・ザ・オックスフォードではなかった。
 その意志をマトモに浴びさせられているのは対戦相手であるリザードマンである。
 自分は眼中にない。まともに戦ってすらもらえない。
 その事実に戦士の矜持は酷く傷つけられた。
 そして、ズタズタになったそれは、心の奥底に隠れている狂気を引き出される。


 

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