ブラックリストハンター ~異世界ルールで警察はじめました~
不死身のユウト
先頭を歩く男は屈強な男に見えた。
なんせ、全身が黒光りする鎧を身につけている。
西洋甲冑。プレートアーマーってやつだ。
その西洋甲冑はリョウマ達の前に来ると、鎧兜を脱ぎ、素顔を晒した。
キャーと黄色い声援を加賀が飛ばした。
それほどまでに甲冑の主は整っている顔をしていた。
ハリウッド映画のスクリーンでしかお目にかかれないように浮世離れした笑みを浮かべている。
加えてウェーブのかかった髪が風になびき、爽やかさを演出している。
「どうも始めまして、ユウトと言います」
ユウトと名乗った西洋甲冑は、リョウマと加賀を無視してスタンへ手を差し伸べた。
どうやら、握手を求めているらしい。
しかし、スタンは状況がよく呑み込んでおらず、ただ呆けたような顔を見せた。
「お、おい、スタン?どうした?」
「ス、スタンくん???」
リョウマと加賀が左右から、突っつくもスタンは―――
「ユウト……あの不死身のユウトですか?アラセス最前線の英雄の?」
驚きの声を上げた。
「そんなに持ち上げないでくださいよ。今は一介の騎士に過ぎません。貴方こそ、対人最強と名高いブラックリストハンターのスタン・ザ・オックフォードさんではないですか」
「い……いえ、僕はギルドでも若輩者でして……明日は胸を借りるつもりです」
スタンは動揺しながらも、強い口調で答えた。
今度は西洋甲冑―――もといユウトが驚きの表情を見せた。
そのわけは……
「ご存知でしたか?君と私が戦うとしたら決勝戦ですよ。」
ユウトはそう言うと、爽やかな笑い声を交えてこう続けた。
「謙遜しておきながら、勝ち残るつもりじゃないですか。全く、野心がなさそうな感じなのに食えないお人だ。はっはっは……」
ユウトの取り巻き達も彼に釣られて笑い始めた。
スタンは、そのまま顔を下げて俯いてしまった。
それから、暫く形式ばった会話が一方的に続き――――
「望むなら明日は決勝で技の競い合いを楽しみたいものですね」
「では」とユウトは大名行列の如く、取り巻きを引き連れて離れていった。
その一行を見送りながら、「私、どうもあの人、苦手な感じです」と加賀が言った。
なるほど……とリョウマは同感した。
ユウトというやつの取り巻きは、着飾った格好をした連中ばかりだ。
さきほどの商人の群れとは毛色が違う。 どちらかと言えば権力者の匂いがする。
権力者をはべらかす、つまり彼自身は英雄の類なのだろう。
そうなると、心配なのはスタンの方だ。 先ほどから俯いて、小刻みに震えている。
大丈夫か?そう声をかけようとしたリョウマだったが、途中で気づいてしまった。
スタンが俯いたまま、強烈な笑みを浮かべている事に……
そして、武道大会当日。
昨日まで原っぱだったはずの空き地。
現在は人……見渡すだらけの人だ。
「いやぁ、招待席でよかったですね。一般席だったら圧死しててもおかしくないですよ」
そんな中、加賀は呑気だった。
昨日と同じ場所、本部の真横にビニールシートを敷いて、ピクニック気分だった。
更にその横ではスタンが気合を入れている。
選手の控室なんて気が利いたものはないらしい。なぜなら、周囲に建築物が皆無なのだから。
『ジャーン ジャーン ジャーン』
ドラが叩かれ、音が鳴り響く。
周囲のざわめきがピタリと止まった。
静寂。 おそらくは数万人、あるいは数十万人と言う人々が言葉を止めたのだ。
聞こえるのは布が擦れる音くらい。
やがて―――
会場の中心に現れた主催者。
ころりと丸みを帯びた中年男性、トルニャという商人代表者だ。
彼は短く開幕の宣言を行った。
ただ、一言だけ……「開始」と
次に正装(らしき服装)の男たちが数人現れた。
どうやら審判団らしく、彼らの代表らしき人物によって、大まかなルール説明が行われた。
第1回メギ島武道大会
ルール
試合は1対1で行う。
勝敗は、ジャッジによる戦闘不能の判断。 あるいは、自ら棄権の申告のみとする。
会場中心の魔法陣内で戦う。 戦い中、故意で魔法陣外へ出た場合は反則とする。
魔法の使用制限はなし、ただし武器などは大会運営側が用意した殺傷力のない物を使用する事。
ただし、魔法陣内では魔力の威力が著しく低下する仕様となっている。
試合中、相手を殺傷した場合、即座に反則負けになる。なお、故意ではない場合は罪に問われないものとする。
通常の反則は3回で失格となる。1試合で3回ではなく、大会中の累計3回である。(なお、故意による殺傷行為など悪質な行為は、この限りではない)
「な、なんですこれ?」
ガクブルと体を震わせながら抗議の声を加賀は上げた。
「いや、俺に言うな」
「だって、このルール危険過ぎるじゃないですか!」
「……え? あぁ、そっちか」
「なんです?その反応は?他に気になる所でもありますか?」
「そりゃ、ここだろう」とリョウマの手に、いつの間にか大会のパンフレットがに握られており、ルールのページが開かれていた。リョウマが指差した項目には―――
「試合中に人を殺しても罪にならないとか、勝手に決められたら、俺たちのメンツが台無しじゃないか?」
「警察のメンツなんて、オリーブと一緒に餌にして食わせればいいのです。豚でも牛でもハマチでもご自由に」
「おい、香川県の新しい商売モデルまでディスるつもりか?」
「そんな事を言ってるじゃないです!」
「落ちつけよ加賀。お前の気持も分かるが……初期UFCのバーリトゥードを思い出せば、こんなもんだろよ」
「ゆーえふしー?ば、ばりつどう?日本語で大丈夫ですよ?」
「……そうだな。例えを変えるなら中世ローマのコロシアムはの戦いは、死亡率は1回の興行で1割程度だったそうだ。真剣の戦いでありながら意外に死亡率は低くかったらしい」
「それ、5回試合やれば1人は死んでたって事ですよね?普通に多くないですか?」
「む……う、うむ」
言いよどむリョウマと怒り心頭の加賀の2人。
その間に入った者がいた。
「大丈夫ですよ」
そう言ったのはスタン本人だった。
「無事、優勝してきますから!」
そう言うと、背負っていた剣を外し、加賀へ預けた。
突然、手渡されてキョトンとする加賀へスタンは
「大会中には本物は使えませんから預かっておいてください。大切なものなのでお願いしますね」
「え?……あっ、は、はい。わかりました」
そう言うと、スタンは笑顔で駆けだした。
どうやら、大会出場者の集合場所へ行かなくてはならなかったみたいだ。
残されたリョウマは、そっと加賀の横顔を盗み見る。
さっきまで心配顔だったのが嘘みたいに晴れ晴れした顔だった。
「やれやれ…… アイツは、ジゴロの才能があるんじゃねぇだろうな」
加賀に聞こえないようにリョウマは小さく呟いた。
なんせ、全身が黒光りする鎧を身につけている。
西洋甲冑。プレートアーマーってやつだ。
その西洋甲冑はリョウマ達の前に来ると、鎧兜を脱ぎ、素顔を晒した。
キャーと黄色い声援を加賀が飛ばした。
それほどまでに甲冑の主は整っている顔をしていた。
ハリウッド映画のスクリーンでしかお目にかかれないように浮世離れした笑みを浮かべている。
加えてウェーブのかかった髪が風になびき、爽やかさを演出している。
「どうも始めまして、ユウトと言います」
ユウトと名乗った西洋甲冑は、リョウマと加賀を無視してスタンへ手を差し伸べた。
どうやら、握手を求めているらしい。
しかし、スタンは状況がよく呑み込んでおらず、ただ呆けたような顔を見せた。
「お、おい、スタン?どうした?」
「ス、スタンくん???」
リョウマと加賀が左右から、突っつくもスタンは―――
「ユウト……あの不死身のユウトですか?アラセス最前線の英雄の?」
驚きの声を上げた。
「そんなに持ち上げないでくださいよ。今は一介の騎士に過ぎません。貴方こそ、対人最強と名高いブラックリストハンターのスタン・ザ・オックフォードさんではないですか」
「い……いえ、僕はギルドでも若輩者でして……明日は胸を借りるつもりです」
スタンは動揺しながらも、強い口調で答えた。
今度は西洋甲冑―――もといユウトが驚きの表情を見せた。
そのわけは……
「ご存知でしたか?君と私が戦うとしたら決勝戦ですよ。」
ユウトはそう言うと、爽やかな笑い声を交えてこう続けた。
「謙遜しておきながら、勝ち残るつもりじゃないですか。全く、野心がなさそうな感じなのに食えないお人だ。はっはっは……」
ユウトの取り巻き達も彼に釣られて笑い始めた。
スタンは、そのまま顔を下げて俯いてしまった。
それから、暫く形式ばった会話が一方的に続き――――
「望むなら明日は決勝で技の競い合いを楽しみたいものですね」
「では」とユウトは大名行列の如く、取り巻きを引き連れて離れていった。
その一行を見送りながら、「私、どうもあの人、苦手な感じです」と加賀が言った。
なるほど……とリョウマは同感した。
ユウトというやつの取り巻きは、着飾った格好をした連中ばかりだ。
さきほどの商人の群れとは毛色が違う。 どちらかと言えば権力者の匂いがする。
権力者をはべらかす、つまり彼自身は英雄の類なのだろう。
そうなると、心配なのはスタンの方だ。 先ほどから俯いて、小刻みに震えている。
大丈夫か?そう声をかけようとしたリョウマだったが、途中で気づいてしまった。
スタンが俯いたまま、強烈な笑みを浮かべている事に……
そして、武道大会当日。
昨日まで原っぱだったはずの空き地。
現在は人……見渡すだらけの人だ。
「いやぁ、招待席でよかったですね。一般席だったら圧死しててもおかしくないですよ」
そんな中、加賀は呑気だった。
昨日と同じ場所、本部の真横にビニールシートを敷いて、ピクニック気分だった。
更にその横ではスタンが気合を入れている。
選手の控室なんて気が利いたものはないらしい。なぜなら、周囲に建築物が皆無なのだから。
『ジャーン ジャーン ジャーン』
ドラが叩かれ、音が鳴り響く。
周囲のざわめきがピタリと止まった。
静寂。 おそらくは数万人、あるいは数十万人と言う人々が言葉を止めたのだ。
聞こえるのは布が擦れる音くらい。
やがて―――
会場の中心に現れた主催者。
ころりと丸みを帯びた中年男性、トルニャという商人代表者だ。
彼は短く開幕の宣言を行った。
ただ、一言だけ……「開始」と
次に正装(らしき服装)の男たちが数人現れた。
どうやら審判団らしく、彼らの代表らしき人物によって、大まかなルール説明が行われた。
第1回メギ島武道大会
ルール
試合は1対1で行う。
勝敗は、ジャッジによる戦闘不能の判断。 あるいは、自ら棄権の申告のみとする。
会場中心の魔法陣内で戦う。 戦い中、故意で魔法陣外へ出た場合は反則とする。
魔法の使用制限はなし、ただし武器などは大会運営側が用意した殺傷力のない物を使用する事。
ただし、魔法陣内では魔力の威力が著しく低下する仕様となっている。
試合中、相手を殺傷した場合、即座に反則負けになる。なお、故意ではない場合は罪に問われないものとする。
通常の反則は3回で失格となる。1試合で3回ではなく、大会中の累計3回である。(なお、故意による殺傷行為など悪質な行為は、この限りではない)
「な、なんですこれ?」
ガクブルと体を震わせながら抗議の声を加賀は上げた。
「いや、俺に言うな」
「だって、このルール危険過ぎるじゃないですか!」
「……え? あぁ、そっちか」
「なんです?その反応は?他に気になる所でもありますか?」
「そりゃ、ここだろう」とリョウマの手に、いつの間にか大会のパンフレットがに握られており、ルールのページが開かれていた。リョウマが指差した項目には―――
「試合中に人を殺しても罪にならないとか、勝手に決められたら、俺たちのメンツが台無しじゃないか?」
「警察のメンツなんて、オリーブと一緒に餌にして食わせればいいのです。豚でも牛でもハマチでもご自由に」
「おい、香川県の新しい商売モデルまでディスるつもりか?」
「そんな事を言ってるじゃないです!」
「落ちつけよ加賀。お前の気持も分かるが……初期UFCのバーリトゥードを思い出せば、こんなもんだろよ」
「ゆーえふしー?ば、ばりつどう?日本語で大丈夫ですよ?」
「……そうだな。例えを変えるなら中世ローマのコロシアムはの戦いは、死亡率は1回の興行で1割程度だったそうだ。真剣の戦いでありながら意外に死亡率は低くかったらしい」
「それ、5回試合やれば1人は死んでたって事ですよね?普通に多くないですか?」
「む……う、うむ」
言いよどむリョウマと怒り心頭の加賀の2人。
その間に入った者がいた。
「大丈夫ですよ」
そう言ったのはスタン本人だった。
「無事、優勝してきますから!」
そう言うと、背負っていた剣を外し、加賀へ預けた。
突然、手渡されてキョトンとする加賀へスタンは
「大会中には本物は使えませんから預かっておいてください。大切なものなのでお願いしますね」
「え?……あっ、は、はい。わかりました」
そう言うと、スタンは笑顔で駆けだした。
どうやら、大会出場者の集合場所へ行かなくてはならなかったみたいだ。
残されたリョウマは、そっと加賀の横顔を盗み見る。
さっきまで心配顔だったのが嘘みたいに晴れ晴れした顔だった。
「やれやれ…… アイツは、ジゴロの才能があるんじゃねぇだろうな」
加賀に聞こえないようにリョウマは小さく呟いた。
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